第8話 配信チャンネル『Testing_Room』始動!
「SNSでの告知もおーけー……。そ、それじゃあ行くよ、真央くん」
「お、おう……」
パンダの着ぐるみをまとって砦ダンジョンの入り口に立った俺を、カメラ付きドローンのレンズが捉える。
パンダの頭部に内蔵された小型モニターの左半分には黒乃の書いた台本をカンペとして貼り、右半分にはリアルタイム配信のコメント欄を表示。
準備ができたことを伝えると、黒乃が細く長い指を三本立てる。
三、二、一、スタート。
まずはカメラに映らない場所に立った黒乃が台本を読む。
「それでは、っ、『Testing_Room 〜一般人が科学の力でダンジョン攻略してみた〜』の、は、配信を開始します!」
声が震えているし、若干噛んでる。
でも精一杯、声を張り上げている黒乃の姿を見て、俺も腹を括った。
「き、今日はこの最新型スタンバトンの……」
俺が鉄パイプを掲げた。瞬間、ものすごい勢いで同接数カウントが上がっていき、それに伴って大量に流れるコメントが小型モニターに表示される。
> パンダがしゃべったw
> ただの鉄パイプで草
> ほんとに最新アイテムなのか?
> 解説の子の声がかわいい
「えー、テストを……」
台詞を読み上げていると、今度は背後から、唸り声とともにドタドタという巨大な足音が聞こえる。
「ひっ」黒乃がその音に気づいて小さく悲鳴をあげた。
> パンダ、後ろ後ろ!
> やべぇ! 砦の中からオーガが走ってきてるぞ!
> 逃げてー!
「……あ、邪魔ですね」
ドゴォォォン!!
とりあえず俺は背後から迫ってきたオーガの金槌を鉄パイプで弾き飛ばし、それから一撃で頭部を粉砕した。
「えーと……この最新型スタンバトンのテストを、しようと思います」
> !?
> オーガが豆腐みたいに砕けたぞ
> パンダがやったの?
> いやスタンバトン(物理)やん
> 大槌を片手で防いだ……
さらに勢いを増していくコメント欄。
> まさか、ほんとに深淵の飛竜をワンパンしたパンダ?
> きたああああ! 本物だああああ!
> 中の人、絶対Sランクだろ
★【ミミズク】(¥50,000)無駄のない姿勢、歩法、体の動き……見事
> パンダ最強! パンダ最強!
> いま赤スパ飛ばしたの誰だよw
> 着ぐるみでダンジョンに挑むとか、ふざけてんのか?
さすがネットで話題の鉄パイプ・パンダ。まだ何も始まっていないのに、同接数は五千人を超えた。
というか、しれっとすごい額の課金をしている人がいるんだが。
その盛況さをスマホで見ながら呆然としていた黒乃が、我に返って次のセリフを口にする。
「そ、それでは、ダンジョンの中に入っていきましょう」
砦ダンジョンに入ると、入り口付近でさっそく魔物が出てきた。
……いくら危険地帯とはいえ、こんなに魔物と遭遇するものなのだろうか。
「あ、ゴブリンですね」黒乃が解説する。「新兵器の試験には、ちょうどよい。……やれ、パンダ」
なんだその口調は。若干、魔王ヴェルヴェットに似ていたぞ。
> 今の、解説の子?
> 口調が安定しないな
> ちょっと戦国武将っぽいかも
> 解説ちゃんかわいい
> オーガを瞬殺できるやつが、ゴブリン三体とか相手にならないだろ
コメントにあった通り、確かに相手にならないが――まあ、やるか。
「スタンバトン、超高出力モード……起動」
棒読みな俺のセリフとともに、どこからともなく落雷が発生。避雷針となった鉄パイプに雷の魔力が宿る。
> うおっ、まぶし!
> 音がガチすぎる
> どう見ても魔法では?
> 科学の力ってすげー(白目)
「……ギガ・アステリア」
ぼそりと、小さく必殺技の名前をつぶやく。
雷光をまとった鉄パイプの一振りで、三匹のゴブリンがまとめて消し飛んだ。
ちなみにここは室内だが、どこから雷が落ちているのかは俺も知らない。
◆
それから、奇妙なパンダのダンジョン配信は続き――。
> またオーガを一撃で倒した!?
> これが高額課金アイテムの力……
> いや待て、どう考えてもパンダの身体能力がヤバいだろ
> 検証班いないのか?
> たしかにおかしい
★【ミミズク】(¥50,000)非常に興味深い検証だった
俺と黒乃の初配信は、大盛り上がりの中で終了した。
途中から画面をほとんど見ていなかったが、黒乃いわく、それなりに同接数を稼げたらしい。
砦の外に出てパンダ着ぐるみを脱いだ俺は、やっと一息つく。
「ふぅ……これでなんとか、深淵の飛竜の件はごまかせたかな?」
「うん……そうだね」
答える黒乃の声音は、なんだかぎこちない。
彼女のノートパソコンの画面には、チャンネル登録者三十万人という新人配信者ではあり得ない暴力的な数字が表示され、今なお増加を続けていた。
黒乃は画面をそっと閉じると、ぼそりとつぶやく。
「言えない……逆にもっと神格化されて大騒ぎになっているなんて、言えない……」
「なんか言ったか?」
「え? ううん、なんでもない」
なにやら不穏な言葉が聞こえた気がしたが……。
そんな現実から逃れるように、俺はそのまま帰宅することにした。
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