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第一話 悪夢代行店

第一話 悪夢代行店

2026年4月18日 午前2時31分


 カチッ…カッカッ……


「…ッ…マジで……」


 童話ならミミズクの声が響き渡るほどの暗さの中だろうか。

キーボードをガッタガッタと叩く音とマウスホイールを激しく転がす音だけが響き渡っている。


 その音の主は一人の青年。

 その顔は青白く照らされており、目のクマがよりいっそう黒くみえる。


 明後日は試験日。

 彼にとって学生生活を円満に進めるためには、死んでも落とせないものだった。


 彼は焦っていた。といっても、勉強時間に納得がいかないということでは無い。むしろ今回ばかりは、友人との誘いを断ってまで近所の図書館に通っていた。そんなこと異常なことすぎて、友人は彼の体調を気にするほどだった。


 ならなぜ、冷汗が止まらないのか。



 眠れないのだ。



 どういうことか、最近同じような『悪夢』を見るようになった。いつでもどこでも寝られる彼にとって、ここ2週間まともに眠れていない経験は、都市伝説よりも信じがたいほど。


 寝る努力はたくさんした。

 安眠アイマスクやドリンク、病院で処方された薬も試したが、全く効果はない。それどころか症状はひどくなるばかりで、精神状態にも支障をきたしていた。


 ただ、原因不明の大問題といった訳でもなく、彼にも心当たりがある。


 というのも、その『悪夢』には共通点がある。


 なぜかそこには必ず登場する人がいるのだ。



 懐かしい記憶……


 あの時に死ぬほど後悔した記憶……


 当時はトラウマになるほど繊細に覚えていたのに、すっかり今では忘れていた。


 少年時代を共に過ごした、幼馴染との最低で最悪な思い出……



 そんなことを考えながらネットの海で助け船をさがしているうちに、いつの間にか、かつて都市伝説掲載サイトとして盛り上がっていた、いかにも胡散臭いページで溺れていた。


 心霊とか都市伝説とか、そういった類の物は一切信じない彼だったが、泥沼で金塊を見つけ出すように必死になって探した。


 ほとんどはゴミ同然ばかりだったが、ひとつだけ気になるものを見つけた。



2016 10/26 23:10

「悪夢代行店『夢現』っていう名前の店があるらしいぞ」


2016 10/26 23:11

「ゆめうつつ?なにそれめちゃくちゃ気になる。詳細求む」


2016 10/26 23:11

「なんかその店は表向きでは病院まがりなことをしているように見せて、裏では客を拘束して夢を改ざんする実験をやってるらしい」


2016 10/26 23:12

「なにそれ、こっわwどこにあんだよそんな店」


2016 10/26 23:12

「それは知らない、ただ噂ではどうやらそこに行ける人には共通点があるんだとか…」


2016 10/26 23:12

「で、それはなんなのさ、渋らずにはよ言えや」


2016 10/26 23:12

「すまん、それも分からん」


2016 10/26 23:12

「は~?はい解散でーす 次はもうちょい設定練ってから来なww」


 そこでその会話は途切れていた。



 くだらない会話だが、その充血した目はキラキラと輝いていた。

普段だったらただの石が、今の彼には金塊どころかダイヤモンド以上の価値があり、はるか昔から大切に保管されてきた宝石のように見えた。


 しかし、宝石にはヒビが走っていた。


 「で..も…ここどうやって……いけんの…曖昧す…ぎ…なんだよ…そもそもさぁ……あっ…あぁ」



 青年は気絶した。





 都内某所、そこには選ばれた人だけが迷いつく。


 人混みをさけ、路地裏を抜け、角を左に、右に何度曲がり、ずっっと進むと辿り着く。


 たった一軒ぽつんと佇む店。

 外見はいたって平凡、現代の町中を見渡せば何軒か全く同じ構造の家があるだろう。


 ただ異質なのは、全く人通りがない路地裏にあるということ。

 路地裏と言ってもそこまで狭くはなく、いっても都内なので人っ子一人いないことなんてありえない。


 しかしそこには、人が近づけないバリアでも張られているか、はたまた憲法で近寄ることが禁じられているのかというほどだ。


 その店前には看板があり手書きで『夢現 むげん』とかいてある。



 4月18日 午後9時30分


 店内には男が一人。


 見た目は20代前半、何とも言えない幼い顔つき、年の割には白髪が多い。

 現代の若者というよりは一昔前、2010年代の若者が着ていたような服を着ているが、流行におくれた人とは思わせないような風貌がある。



 カランコロン



 目をこする店主の前に一人の青年が訪ねてきた。


 見た目はいかにも大学生活謳歌してそうな茶髪に、最近流行りのファッション。

 ブランド品などは身に着けていないが、安く手に入る物を組み合わせることで流行をしっかり追っている。


 ただその顔には、目と見間違えるほどの大きなクマができており、今にも倒れそうなほどふらついている。


「いらっしゃいませ、本日はどういったご用件で」

 

 店主が感情のこもっていない声できく。


「あぁ…あの…この店を噂で聞いたんですけど……」


 青年が店主よりも魂の抜けた声でこたえる。


「そうですか、ではこちらへ」


 淡々と対応すると店主は青年を店の中へと案内する。


 店内は全体的に薄暗く、壁にかかる大きな古時計がただカチカチとなり続けている。


 中心には大きな椅子がただ二つだけ向かい合い、その間には低めのテーブルが一つだけぽつんと置かれている。


「ではそこにお座りください」


「あ…はい」


 ふらつきながらも青年は椅子に座る。


「ではこれからいくつか質問させていただきますのでご了承ください」


 と店主は夥しい量の質問が書かれた用紙を机に置いた。


「あ、あのまだ何をするとかいまいち分かってなくて…てか、まじですか…これぜんぶ書くんすか?」


「いえいえ、口頭で結構です。大変おつかれだと思いますが全ての質問に答えていただく必要があります。施術に関しては後程説明いたします」


 店主は淡々とそういうと、青年が口を開く前に早速質問を始める。


「では初めにあなたがここにたどり着いた経緯を事細かく教えてください」


「あ、えっと…明後日大学でテストあるんで勉強したくって…えっと、で図書館行って勉強して…でも集中できなくて家に帰って勉強してたんすけど…腹減ってきてコンビニに夜食買いに行こうと思って…えっと…あ、そしたら向かう途中にふと視界に路地がはいって……自分でもよく分かんないんすけど奥が気になってきて..ふらふら歩いてたらこの店が…看板に夢幻って書いてあって…聞いたことがあったんで入ってみようと…」


「そうでしたか、ご来店ありがとうございます。きっとあなたのお役に立てると思います」


 店主は少しうなずいた


 本当ですか…?あ、ありがとうございます」


 青年にとってこの怪しげな店が自分を救う最終手段と思えた。


「では質問を続けます、お名前は?」


うるい じゅんです…」



「生年月日は?」


「200…5年9月11日っす…」



「出身は?」


「えっと横浜です…」


 こうした怒涛の質問攻めが閏に襲い掛かかり続けた。


 所要時間としては約50分、単調な質問ばかりだったが閏はなぜかその時を楽しんでいた。


 寝たいという気持ちを押し抑えるほど店主から不思議な魅力を感じていた。


 内容は、プライベートなことから本当に大したことのないような趣味、なんとなくやってしまう癖、心理テストのようなものまで様々である。


「あの………すみません…」


 閏が申し訳なさそうに質問の猛攻を止める。


「はい、いかがなさいましたか」


「こんな質問何の役に立つんですかね…正直なんのためなのか意味不なんですけども..」


「これらはあなたの人間性をコピーするのに必要な資料になります」


 店主はいたって真剣な顔で答える。


「えっ...人間性をコピー?あ…あの何言ってんすか…よく分かんなくて…すみません...」


 店主は顔一つ変えずに、ただ少しか声色を変えて語りだす。


「では説明いたします。この店【夢幻】のシステムについて。そして私、みたまや 橦堵しょうとについても少し。 

当店でのサービスですか簡単に言うとお客さんの『悪夢』の根本的原因を解決することで、その『悪夢のループ』からお客さんを解放し快適な生活を送ってもらうことです。

具体的に言うと、私は人の『悪夢』に入れます。そこで私は『悪夢』の中のあなたに憑依し依頼通りに動きます。あなたはその夢を味わって自分自身で『悪夢』とけじめをつけてください。

とはいってもあくまで夢の中の話なので現実に反映されることはありません。そこはご了承ください」


 ただ呆然と話を聞いていた閏だが、彼が健康体だったとしても何一つ理解できなかっただろう。


 ぽかんとする閏をみて祢は慣れたように話を続ける。


「いえいえ忘れてください。とにかくあなたは本日最後の『悪夢』をみるだけで良いのです」


「ほ、ほう…」


 青年はなにかもがどうでもいいほど疲れていた。


「では最後にあなたの『悪夢』について事細かく教えてください。もちろんつらいことだと思いますがそれも施術に重要なので」


「重要?ど、どういうことすか?」


「あなたが過去の記憶、すなわち『悪夢』の原因をより鮮明にすることで悪夢の質を高める意味合いもあるんです。そのほうが夢が安定しこちらとしても楽なんです」


「そ、そうすか…まあよく意味わかんないんですけど…あ、で『悪夢』についてっすよね…」


 閏は必死になって思い出す。


『悪夢』のことを、そして忘れたかった幼馴染との最低で最悪な別れのことを。

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