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蒼き月夜の鎮魂歌  作者: 蒼月さくら
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─絶対、助け出して見せる。だから…

「また会えたら今度は修行くらい、付き合えよな。俺だって強くなったんだ」

 俺の代わりに奴の実験台として施設に残った兄を助け出す。ついでに、あのとち狂った変人を軍へ突き出してやる。それまで倒れてなんてやるもんか。

 俺は幼い兄さんが柱の影から出てきて父さんにズルいと俺だって桜架を抱っこしたいと楽しげな追いかけっこを見てふっと微笑を溢す。そして決意を新たにし再び訪れた眠気に身を委ねて意識を浮上させた。


***


「……お前は一体、何してる?」

「ラクスヴィエトの奴から発作起こしたって聞いたから予定より早めに来ただけだ。別に不法侵入なんざしてねぇよ」

 目を覚ますといたのはラクスヴィエト…ではなく不良面の俺より年下であろうまだ幼さの抜け切らない碧銀の髪を持つ青年。

 彼は翠嵐渚翔すいらんなぎと。数少ない俺の友人で千花国最大の術師育成機関、珱煌学園に通う術師の卵だ。

 襟足は少し長めで前髪は何故か右側だけ伸ばしたアシンメトリー。猛禽類に似た鋭い眼光は煌々と燃える焔のように紅い。渚翔は千花国有数の名家翠嵐家の跡取り息子だが術師の在り方について父親と揉めに揉めて長期休暇とクロノスが取り付けた条件により本来は特務部隊しか住めないこの隊員寮の一室で寝泊まりしている。

 どうせラクスにでも開けてもらったんだろうと当たりを付けてベットから起き上がった。

「──っ…」

 起き上がった途端、俺を襲ったのは世界が回っているかのような目眩と何とも言えない倦怠感。

 前のめりに倒れそうになった上半身を渚翔に支えられ、何でだと渚翔を見た。

「熱出てんのに起き上がろうとすっからだよ、バカ」

「……あー…」

 支えられてそのまま体に障らないよう再びベットに寝かされ目眩の原因に納得する。

 自慢ではないが俺は低体温だ。虚弱体質である以上、褒められたものではないが自分なりに気を付けていても不規則な生活をしているせいか、なかなか改善しない。お陰で貧血だの立ち眩みだの手足の冷えや痺れだの年頃の乙女よろしく男らしからぬ悩みがある。近頃では男でも冷え性になるらしいが元々が虚弱体質なのだ。大事にならないだけで面倒なものではある。

「何度?」

「微熱。大人しくしときゃすぐ下んだろ」

 飯作ってくるから着替えとけよと寝巻きにしている着流しを渡され、キッチンの方へ姿を消した。

 俺とラクスヴィエトしかいないこの部屋は一人で暮らすには少し広いワンルーム程度。玄関から向かって左に浴室とトイレ、少し進んだ先にダイニングキッチンがあってその奥に宮棚付きのベットが置いてある。宮棚は三分の一程が二段の棚になっていて上段に本が下段に薬瓶、残りの三分の二ほどは飲み水が入ったボトルとヘアブラシと木製のシンプルな簪が入った藤籠、小さなカレンダーを無造作に置いている。

 ベットとダイニングキッチンの境になるよう置いているのは愛読書が並ぶ高さの違う本棚。ベットから向かって右側には小さい備え付けのクローゼット。その横に四段と三段の木製チェスト。三段のチェストの上に鏡と加湿器。クローゼットの中は七割が着流しで三割がコート等のアウターが掛けてあるのみ。チェストの中は言わずもがな洋服が入っているが三段の一番上にはドライヤーと得物を手入れする為の道具が入っている。

─ラクス…は俺の代わりに報告に行ったか?

 今度は目眩が起きないようゆっくりと体を起こしついでにラクスの居場所を探る。

 そこそこ汗を掻いていたのでシャワーを浴びたいところだけどそんなことをすれば漏れ無く鬼の形相をした不良が飛んで来るだろう。

「んー…浄化術ならイケるか」

 微熱なんて俺にとっては日常茶飯事。自分のナカを軽く診て眠る前に使い果たした魔力が回復しているのを確認し、解放前の蒼桜刃を召喚、無詠唱で浄化術を行使する。

 俺が使う術は基本的に“詠唱”というものが存在せず、─渚翔に言わせれば術という名称自体が古いらしいのだが生まれが旧家なんだ。それくらいは見逃して欲しい─想像したものを言霊をもって具現化することで術…魔法と同じ効果を発揮しているだけだ。

「ハル、粥でなんかリクエストあるか?」

「卵がいいな。お前が作った卵粥、美味いし」

 ひょっこり顔を覗かせた渚翔から飛んで来た問いに答えるとうっせーよという照れ隠し。見た目は不良で目付きも悪いし名家らしからぬ粗暴さを持つ渚翔は見掛けによらず面倒見が良く真面目だ。

 俺はくっくっと笑いながら視界を妨害する膜を作り着ていた衣類と下着を変え、着流しに着替えた。

 街へ出るときは流石に洋服に着替えるが任務を貰いに雪月花へ出向く時やラクスヴィエトとの散歩、家にいる時は着流しでいる事が多い。ちなみに眠るときも生地の材質が違うだけで年中、浴衣だったりする。流石に昔の人みたく褌なんて物は着けないけれど。

「おい、何でわざわざ──」

「あのな、何っっっ回も言ってるけどワンルームなんだよ。この部屋。一人で着替えるならいざ知らず、何が楽しくて野郎に裸体を見せなきゃいけねぇんだ?」

 視界妨害魔法を使ったんだ─という渚翔の問いが飛んで来る前に青筋を浮かべ、半ギレで言う。

 別に俺は間違ってない。旧家の良家出身だけど。だって俺、この坊っちゃんの家くらい広い家なんて住んだことねぇもん。

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