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蒼き月夜の鎮魂歌  作者: 蒼月さくら
11/14

「ん、やっぱ美味うまい」

「褒めても薬は飲ませっからな」

 嬉しさと恥ずかしさを紛らわせる為に素っ気なく言い返す。

 桜架は美味いものは美味い、不味いものは不味いと素直に言うタイプの人間だが、何故か俺が作ったもんは美味いとしか言わない。単に俺が美味く作れるもんしかこいつに作ってねぇってのもあるんだろうが…

 だが、不思議な事に外で食うものはあまり反応しねぇんだ。美味けりゃ僅かに顔が綻ぶし不味けりゃ食の進みも遅い。ただ、美味いと口に出すことはない。何故か。

 本人に何回か聞いたことはあるが全くの無自覚らしく釈然としない返事しか返ってきた試しはない。

 まぁ、好き嫌いは他よりあるがそれさえどうにかしてやれば大抵は美味いと食ってくれるから作る側としては嬉しい限りではある。

「この程度なら薬なんて飲まなくても治るって」

「……お前の程度がいまいち分からねぇんだがな、俺には。ハル、腹一杯になってんなら無理して食うなよ」

 調子が優れない時の桜架は食べる量が激減する。

 元々、一度に沢山の量を食えねぇらしい桜架は一食を食うにもそれなりに時間が掛かる。周りと同じように食うと後で気持ち悪くなって吐いてしまうのだそうで一時、どうしたらいいか分からず栄養補助食品が主な食事だった事もあるらしい。

 それを知ってからは少量でもバランス良く食えるものを作ったり残っても温めさえすればまた食えるものにしたりと思考を巡らすようになった。

「ん…」

「どうせ、本調子になるまで消化に良いもんしか食えねぇだろ。卵粥それはまた夜にでも食えばいい」

 桜架はこくんと頷いてごちそうさまと合掌し、ベットへ向かい俺も食い終ったどんぶりと小分けの椀、まだ中が残っている土鍋を数回に分けてキッチンへ持っていった。

─もう少し食べたかったな…ナギが作ってくれた卵粥

 ぼんやりと天井を見ながら、もう入らないと訴える腹を擦る。きっとこれ以上、食べたら戻してしまう。いつもそうだ。俺が皆と同じように食べたいと願ってもこの体はその願いを受け入れてはくれない。

─捕まる前から少食だったけど、ここまで細くはなかったんだけどな

 兄が身代わりになってくれたけど、だからと言って何もされていないわけじゃない。アイツの興味が失せた俺はアイツの娘だという女の実験台にされた。未だに夢で魘されるほど記憶の奥底にこびり付いているけれど思い出したくもない。

「……あー…暇…」

 ふるりとかぶりを振って脳裏に過りかけた過去を記憶の奥底へ追いやり高級ホテルさながらに置いてある枕の一つに抱き付いた。布団に潜って眠くなるのを待ってもいいが嫌な夢を視そうで眠ろうとは思わない。

「暇なら本でも読めばいいだろ。つーか、何で枕を抱き締めてんだ?」

「こういうクセがあんの知ってて聞いてんなよ。それと読みたい本がないから読めない」

「…こないだ貸したのはどうした?」

 渚翔がいう貸したのとは春期休暇前に借りた違法研究関連の事件が載った所謂、事件簿。

 渚翔の家である翠嵐家は代々、軍に術師を輩出する一族でちょっとした事件の蔵書なら雪月花うちよりも上だ。それこそ俺が子供ガキの頃に起こった事件から最近、起きた事件までを纏めた本もある。俺が所属する部隊柄、ナギの親父さんとも何度か顔を合わせている為、無理言って読ませてもらっているのである。俺が雪月花に来てからずっと追い続けている“連中”のもとへ辿り着き、兄を助け出す為に。

「ん。仕事の合間に読んだけど、めぼしいのはなかった」

「っつってもなぁ…俺の顔利きで借りれる文献なんざ、ほとんど読み尽くしたろ」

 人差し指で空を切り、空間を開いて分厚い事件簿を渡す。

 本来なら門外不出である事件簿は親父さんとの約束で読み終わったら渚翔を通して返すようにしている。これは単に情報漏洩を防ぐ為と互いに忙しい身だからだ。

 もし、犯罪者達に情報が漏れれば対策を打たれ捕まえられるものも捕まえられなくなり捕まえにくくなった犯罪者がこの国を蔓延はびこる。結果、俺が追う連中の隠れ蓑を増やしてしまうという悪循環が生じるのだ。

「……ほとんどだから読んでねぇのもあるぞ?」

「翠嵐の秘蔵書は駄目だからな。アレには翠嵐だけじゃねぇ…俺らの翠嵐しか知ることを許されてねぇ事も書いてある。いくらてめぇがSランクオーバーで、翠嵐より深い歴史を持つ一族の術師でもアレだけは貸せねぇ。つーか、貸したら本気で勘当される」

 元々、借りれるとは思ってはいないけれど、どんなに調べてもどんなに探っても欠片一つ見付からなければ焦りも生じる。

 俺一人で調べたって得られる情報なんてたかが知れてるけどこうして協力してくれる人がいるから頑張れる。

「そんな顔すんな。まだてめぇが見れそうなもんがねぇか探してくっから少し待ってろ」

 焦りが顔に出ていたのか、ぐしゃりと俺の頭を乱暴に混ぜて不自然に存在するドアを開けて姿を消した。

 兄さん、どれくらい調べればあんたに追い付ける?

 どれくらい強くなればあんたを助け出せるんだ…

 焦りと求めすぎる力は闇を呼ぶ。闇に堕ちた精霊は巫女の力で戻すことは出来るけれど巫女は一度、堕ちれば戻れはしない。俺は焦りと苛立ちを打ち消すように深いため息を吐いた。

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