第12話
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ドーグと少年は、〈冒険者組合〉内にある酒場へと移動した。
ただ何も注文することなく、話し合いの場としてテーブルを借りているだけであった。
「それで、どういうことだ?」
ドーグから話を切り出した。
さっき言っていた、すぐに等級を上げる方法とは何なのか。その真意を問いただしたのだ。
「言った通りのことです。僕の言う通りにすれば、すぐにでも銅級へと上がることができますよ」
ドーグは眉に皺を寄せる。
そんな都合の良いことは果たしてあるのか。仮にあるとしても、それは合法的なものなのか。
「それはどんな方法だ?」
「僕の願いを聞いてくれますか?」
「それはわからん。内容次第だ」
少年は口を固く閉ざした。
「ふむ。なら先に依頼内容を言ってみろ。だいたい予想はつくがな」
この二週間で断片的に聞き取ったために、それなりには事情を知っている。
「はい。それではどこから話したらいいか……そうですね、僕は、僕を含めて五人のパーティー、《光の鐘楼》に入っています。全員が銅級に上がったばかりの駆け出しで、未だに迷宮に入ったことはありません。僕達は地道に依頼の達成を重ねて、ついこの前銅級になったんです。そして、最後の依頼の時にあの洞窟を見つけた、見つけてしまったんです」
話し始めは少しばかり明るかったのに、話していくにつれて元の深刻そうな表情へと戻っていった。
「そこは明らかに魔獣の住んでいる洞窟でした。見つけた時に少しだけ探索して、魔獣が生息していることがわかったんです。だから僕はみんなに言いました。すぐに〈冒険者組合〉に報告するべきだと。もしその洞窟が迷宮となり、さらには〈氾濫〉が起きてしまえば、周囲の農村に対する被害は計り知れません。なので〈冒険者組合〉に対策をとってもらうのが最善だと考えました」
少年はそこで一拍置いた。
「ですが、他のメンバーの反応は微妙でした。口では同意しつつも、内心不満であることがすぐにわかったのです。そして一人がこんなことを言い始めました。『報告は少し延期しないか』と。そろそろ銅級にもなるし、迷宮に潜る前の練習にちょうどいいじゃないかと、そう言い出したんです。それからは僕が何を言っても無駄でした。他のメンバーも賛同して、僕もそれに従う他なかったんです」
少年の膝に置いた手がプルプルと震える。
「でも、僕はそこで反対すべきでした! すぐに〈冒険者組合〉に報告すべきだったんです! 洞窟を発見してから数日後、朝起きた時には彼らがいなくなっていました。それで悟りました。彼らは洞窟へと向かったことを。彼らとの付き合いも長いですからね。僕が頑固者であることは重々承知だったんだと思います。だから置いていったんでしょう……」
そして少年は黙った。
次に口を開いたのは数分経ってからだった。
「……もうわかってるんです。彼らが生きている可能性が低いことは。でも、せめて遺品だけでも回収したいんです。ですから! お願いします! どうか力を貸してください!」
少年は、テーブルに頭を擦り付けんばかりの勢いで頭を下げる。その姿はただただ仲間のことを考えているものの姿だった。
「……それで、それが俺になんの関係がある?」
「はい。そこで提案があります」
少年が改まった口調で話し始める。
「冒険者の等級は、完全に〈冒険者組合〉側の評価によって変わります。つまり、〈冒険者組合〉に現在の等級に自分は相応しくないこと、より上の等級に自分が達していることを主張すればいいんです」
「なるほど。だいたい言いたいことがわかってきた」
「僕達が発見した洞窟は何かはわかりませんが魔獣の巣になっています。もしかしたら下級迷宮になっている可能性もあるかもしれません。いずれにしろ、魔獣の巣を殲滅、または〈迷宮核〉を回収し、〈冒険者組合〉に見せれば等級が上がることは確実だと思います。もちろんこれは相当に難易度の高いことですので、僕や僕のパーティーでは成し得ないことです。ですが、あなたならば、できるのではないですか?」
力のこもった目で見つめてくる。
「僕の仲間の救出、遺品の回収は二の次で結構です。ですから、どうか僕を一緒に連れて行ってください」
(ふむ)
(俺のことを煽ってその気にさせようとしているな)
(普段ならばこんな安い挑発に乗る俺ではないが)
(ずっと大工仕事で戦いの勘が鈍っているかもしれん)
(それに洞窟があそこならば魔獣は小鬼だとわかっている)
(上位種と考えられるやつもいるし、少しは楽しめるか)
(それに〈迷宮核〉というものについて、もう少し知りたい)
「わかった。やろう」
「ありがとう、ございます!」
少年が頭を深く下げているのには目もくれず、ドーグはこれからの戦いに思いを馳せていた。
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