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「心配すんな。大丈夫だから。」
雄輔さんはあたしをそっと抱きしめた。
びっくりするのと、さっきのショックで
あたしは一歩も動けない。
「奥に入ってろ。出てくんじゃねーぞ。」
そう言って、雄輔さんはあたしの頬に
そっと手を触れるとにっこり笑って玄関を出た。
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「なぁ、あんた、何でこんな真似してんの?」
「君には関係ないだろ。」
じっと視線を合わせつつ、オレはヤツの前に立った。
「アイツには、もう付きまとうな。
あんた、ひどいことしたらしいじゃん。
他の女とさっさと結婚すりゃいいじゃねーか。
これ以上苦しめてどうすんだよ。」
ヤツはハッとしたようにオレを見る。
「君は、なんでそんなこと知ってるんだ?
俺は、情報管理を徹底するように仕込んだはず・・・」
「バカか?あんた。
仕事とプライベートは一緒じゃねーンだよ。
それに、見てりゃ分かんだろ?
もう、あんたに戻ることはねーンだよ。
例えオレがいてもいなくてもな。」
オレの言葉に何かを考えるような表情を浮かべる。
「本人から直接聞きたい。」
「お前、今日もきっぱり言われてたのを
聞いてねーの?」
コイツ、自信満々なのかもしれないけど
アホだろ。
自分は基本的に嫌われることはないと疑わない。
カネも、地位も、見栄えも兼ねそろえてるから
思い通りになるとでも思ってんのか?
そうなんだろうなぁ。
かわいそうなヤツ。。。
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雄輔さんが出て行って
しばらくは動揺が収まらなかった。
だけど、良く考えたらあたしが何とかすべきことであって
雄輔さんがどうこうすべきことじゃない。
出てくるなと言われたけど
あたしの面倒事を雄輔さんに押し付けて
じっとしてるなんて出来ない。
「菊池さん。」
あたしは玄関を出て呼びかけた。
二人は何か話していたらしいけど。
「出てくんなって言ったのに・・・」
と小さくため息をつく雄輔さん。
別にため息つかなくてもいいでしょうが・・・
「やり直そう。俺は別れるとは言った覚えがない。
いきなり仕事も辞めて心配したよ。
部屋も解約してしまって・・・
探すに探せなかった俺の気持ち、分かるか?」
そう言いながら菊池さんは
あたしの方へと歩いてきた。
もう逃げちゃいけない。
「北海道へ飛ばされるよりは
退職金ももらえたし、邪魔ものは
消えた方が良かったでしょ。
あなたが断ってくれてたらあたしは
こんな風に仕事も部屋も無くすことはなかった。」
静かにあたしは言葉をつないだ。
「目の前で邪魔者扱いされてまで
仕事を続けられるほど図太くはなかった。
上司としては完璧に仕込んでくれたおかげで
綺麗に去ることも出来ました。
仕事の上ではいくらでも我慢できるけど
目の前で、恋人に別の人との結婚を考えると言われて
我慢なんて出来ません。」
「俺はあの場で喧嘩するのは
得策じゃないと判断したまでだ。」
菊池さんは弁明するかのようにそう言った。
「仕事の上なら駆け引きとして
聞き流しもするでしょ。でも、あれは違う。
あたしはあれをひどい裏切りとしか感じられない。」
「・・・そうだな。だがあの時は時間稼ぎのつもりで・・・」
「でも結局北条さんとは今もお付き合いしてるでしょ。
だからもういいです。
それに、これ以上付きまとうなら通報しますよ。
上司としては最高の人でした。
ありがとうございました。
これ以上、嫌いにさせないでください。」
あたしは、うつむいて必死で涙をこらえていた。
そして、頭の上の方から
「分かった・・・・・すまなかった。」
と、菊池さんの声が落ちて来るのを聞いた。
そして、遠ざかる足音をそのまま聞きながら
その音が聞こえなくなると、
我慢しきれない涙があふれて止まらなくなった。
「よく頑張ったな・・・・。」
背中に手を添えられて部屋へと歩き出す。
部屋のカギをまた掛けたあと
「胸なら貸すけど?」
って、自分の胸にあたしをグイッと抱き寄せた。
崩れ落ちそうなあたしは
その差し出された優しさを素直に受け取った。




