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「乗れよ。」
駐車場まで引っ張ってこられて
助手席のドアを開けられた。
「あの・・・」
「つべこべ言わずに乗れって!」
「ハイ・・・・」
ほぼ強制的に乗せられて、
あたしはため息を一つこぼした。
「ため息つきてーのは俺の方だよ。」
ボソッと運転席から聞こえた声に
「ごめんなさい。迷惑かけました。」
と、一応謝罪。
成り行きとはいえ、彼氏だなんって公言してしまったから
もとはと言えばあたしが悪いわけで。
だけど、弁解をさせてもらえるのなら
あの時、すぐに訂正したし、
あの場でそうでも言わなければ
どうしようもなかったことくらい
分かってはもらえないかな・・・・
人通りのほとんどない公園の駐車場で
雄輔さんは車を止めた。
「一体どういうことか説明してほしいんだけど?」
ハンドルを抱いて、雄輔さんがあたしに問いかけた。
「だから、あの時彼氏って言ったのは
あの場を収めるためで、ごめんなさいって言いましたよね。
助けてもらったのは感謝します。
でもそれだけです。」
口をつぐんだあたし。
雄輔さんもなにも言わずにじっと前を見つめてる。
「オレは・・・・
なんつーか、うまく言えねーけど
何とかしてやりて―んだけど。
いっつも無愛想で、一見やる気なさそうで
愛想もないけど、なにも出来ませんって顔して
実は何でもこなせんだろ?
でも、いっつも辛そうで、見てるこっちまで
苦しくなるんだよ。」
雄輔さんはそう言ってあたしの方に体を向けた。
「人間不信って言うかさぁ、
そんな空気を感じるんだよなぁ。
でも、ほんとはそんなんじゃねーような気がして。
あんだけいろんなスキルがあるんだ。
きっと頑張り屋さんなんじゃねーの?」
・・・・・・・・・・・・・・・
「分かったようなこと言わないで下さい!
何にも知らないくせに。」
思わずあたしは叫んでしまった。
「知ったようなこと言わないで。
誰にもあたしの気持ちなんてわからない。」
そしたら、雄輔さんは真剣な顔して言った。
「ンなこと、当たり前だろーが。
自分と同じ人間なんていやしねーよ。
言わなきゃ分かんねーだろ!
お前、何ため込んでんだ?
吐き出してみるとすっきりすんぞ?」
吐き出してすっきりするくらいなら
とっくにすっきりしてるよ。
あたしはそれ以上何も言わずに
誰もいない公園をぼんやり眺めていた。
「ちょっと行ってみようぜ。」
いきなり、車内の空気を変えるかのように
雄輔さんがドアを開けた。
「ほら。」
助手席に座ったままのあたしに
ドアを開けて手を差し出す。
仕方なくあたしは車から降りた。
公園にところどころ外灯が灯り、昼間とは違う
なんとも言えない雰囲気がした。
静かだ。
差し出された手を放っておいたのに
その手はあたしの手を当たり前のようにつかむと
ゆっくりと歩き出した。
別世界に来た見たいな静けさ。
幻想的な景色に思わず見とれた。
そんな中でゆっくり歩きながら
雄輔さんは静かに話した。
「人間って、結構弱いもんでさ。
一人で頑張るにも限界ってあんだよ。
そんな時は、人に頼ると楽になる。
しんどいだろ?
無理すんなよ。」
そう言って、立ちどまると
あたしをそっと抱き寄せた。
「何すんのよ!やめて!」
「黙ってじっとしてろ。」
風が木の葉を揺する音がする。
遠くを車が走り去る音もする。
あたしの頭と背中を抑える手のぬくもりが
なぜかとても心地よい。
でも・・・・
菊池さんとは違う背の高さ、
菊池さんとは違う匂い。
菊池さんの手とは違う暖かさ。
あの手は、腕は、胸は、もうあたしの物じゃない。
別の人の、奈々美さんの・・・・・
なぜあの手を放してしまったんだろう。
いつ放してしまったんだろう。
どうして繋ぎとめられなかったんだろう。
何がいけなかったんだろう。
どうすればよかったんだろう。
分からない。
分からない。
ふさぎかけた胸の痛みは
やっぱりふさぎ切れていなくて
知らずに涙があふれていた。
「また泣いてんのな・・・・・・」
いつかみたいにそっと親指で涙をぬぐってくれる。
「アイツのせいだろ?この前会った。
もう、忘れろ…っつっても無理か・・・・。」
苦笑いする雄輔さん。
その優しさが、少しだけ胸に染みた。




