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新年会の準備のため、
若手の社員は
新年の初日は少し早めに仕事を置く。
わが社の慣例だった。
そろそろ、準備にかからなければ・・・
と思っていた頃、内線が鳴った。
「ちょっと社長室に来てくれないか。」
あたしに呼び出しだった。
何の用でしょうか・・・
新年早々気の引き締まる思いがする。
社長室なんて初めてだ。
そう行く機会のあるところではない。
恐る恐る社長室に参上すると
やけに上機嫌の社長が出迎えてくれた。
「まあ座りたまえ。」
勧められるままにソファーに腰を下ろす。
うっかり沈み込みそうなくらい柔らかい。
「どういったご用件でしょうか。」
あたしの言葉に
「率直に言おう。君、転勤の希望地はあるかね?」
ハイ?今何と?
「転勤の希望は出した覚えがありませんが。」
震える声を何とか平常に戻しながら答える。
「それは分かっている。
しかし君には転勤してもらう。」
「理由をお聞かせいただいても?」
あたしは社長をじっと見つめた。
あたしがミスでもしたというのか、
それともトラブルでも起こしていたのか?
弁明さえさせてもらえる場があれば
それは誤解だと分かってもらえるはず。
転勤をさせられるようなことは何もない。
なのになぜ?
「北条奈々美、知っているね。」
「はい。」
なぜここで奈々美さんの名前が?
「伏せてはいたが、あの子は私の娘でね。
最近気になる男性が出来たらしいんだ。
出来れば結婚したいと。
相手は社内でも有名な出来る男だから
私としてもその話を進めたいと思っている。」
そこで言葉を切ってあたしをじっと見つめ返した。
・・・・・・・・そういうこと・・・
あたしが邪魔だと。
そういうことか・・・・・・・
「お言葉ですが、結婚は双方の合意がなければ
成り立たないはずですが。」
その男が菊池さんを指しているのは間違いない。
でも、菊池さんはあたしの恋人。
「その点に関しては心配ない。
何なら本人に確認するかい?」
そう言って呼び鈴を鳴らす。
合図にしてあったのか菊池さんが入ってきた。
「わざわざ忙しいところをすまないね。
実はこの前の話なんだが、確認をしておきたくてね。
結婚を前提に付き合ってはどうかという話だが
受けてくれるかね?」
え?結婚?
驚くあたしから目をそらすように
菊池さんははっきりと答えた。
「前向きに検討させてもらいます。」
うそ・・・・・・・




