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泣きじゃくるあたしをなだめるように
何も言わずに優しく抱きしめた雄輔さんは
あの日、確かに言った。
「もう、嫌な思いはさせねーから安心しろ。」
って。
だけどねぇ・・・
翌日の閉店近くにまた掛かってきた電話に
「ど―――しても来てくれないと困る!」
と、駄々をこねたちなみさんとやらに
雄輔さんはため息交じりに言った。
「仕方ねーな。んじゃ待ってろ。」
何だ・・やっぱり行くんじゃない…。
何だか不機嫌な顔してるあたしに
「ちょっと付き合え。それと・・・・」
ニヤッと笑って雄輔さんはあたしのほっぺをプニュッとつまむ。
あたしは突然のことにびっくり。
今まで生きてきて、そんなこと人にされたこと無かったから。
「そんな顔してっと、可愛い顔が台無しだっつーの。」
・・・!!!
もう!そんなこと言って!
さっきまで不機嫌だったのに自然と顔がにやける。
好きな人に可愛いと言われてにやける自分に
何だか照れる。
「ほら、行くぜ。」
閉店後、てっきりまた一人で消えると思っていたのに
雄輔さんはあたしを連れてちなみさんの部屋まで行った。
「何であたしまで?」
「イヤだって言っただろ?オレが一人で行くのが。
それに、約束したしな。
悪かったよ。寂しい思いさせて。
もうそんなことしねーから。」
「でも・・・・」
いろんな思いがよぎる。
「オレの友達だから、お前も友達になりゃいいさ。」
・・・・・そんなに簡単に行くのかな・・・・
でも、その気持ちは嬉しかったし
何より一人でもやもやしてんのも嫌なので
ついて行くことにした。
「待ってたんだぁ♪・・・あ・・・誰この人?」
急にトーンが低くなったちなみさんの声に
やっぱり来るんじゃなかった・・・と、気分も滅入る。
「事故ん時、一緒にいただろ?
オレの彼女。仲良くしてくれな。」
雄輔さん、あなた甘過ぎると思う。
その証拠にちなみさんの目は
あたしを友達とは受け入れてくれそうにない厳しいものだった。
妙な雰囲気の中、雄輔さんは用事を済ませると
「じゃあな。」
と、部屋を後にした。
そんな雄輔さんをちなみさんは非常に不機嫌な顔で見送った。