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第四章⑤

出張喫茶マチウソワレのおしるこは大好評だった。

 きっと雨が降って気温がぐっと下がっているからだ。

 散香シオン、泉波ミナミ、芳樹野ルカ、そして大森テルコは雨合羽に袖を通して代わる代わる、長テーブルの上に二つ並べた巨大な寸胴鍋の中の濃い紫色の液体をかき回していた。お客は耐えない。プラスチック皿におしるこを入れて渡すだけで三百円。利益は八十パーセント。去年の豚汁より圧倒的に利益率が高くなった。ロスもほとんどない。前回は料理部総動員で食材を切って煮ていたが、おしるこの料理は簡単だから四人だけで済んでいる。料理部の他のメンバは夜の宴に向けて調理場で鶏肉を捌いているころだろう。

「むふふふ」

散香は終始不敵に笑っていた。来年もコレで大儲けだって大森の耳元で三回くらい囁いた。大森は利益云々より、喫茶マチウソワレのメンバとしてココにいれるのが嬉しかった。

「シオン、やばい、あんこなくなりそう」泉波が後ろで言う。後方では泉波が三つ目の寸胴鍋で調理をしていた。

「え、もう?」芳樹野が反応。「こっち、あと半分くらいしかないよ」

「え、僕んとこ、あと三分の一くらい」お玉で鍋底まで計る。もっとないかもしれない。

「明日の分まで使っちまえ、むふふふ、」散香は地面に屈んでお金を数えながら言う。大量の現金を持って凄く興奮しているみたいだ。「売れ、売れ、じゃんじゃん売れ」

「もうとっくに使っちゃってるって!」泉波は若干キレていた。「ちょっと、シオン、発注適当にしたでしょ!?」

「いや、だって、ロスったら、嫌じゃん、去年の苦い思い出もあるし、ねぇ」

「シオン、そのお金、貸して」

「え、嫌だ、」散香はお金を抱きしめた。「私のお金」

 散香はなんだか今日も疲れているようだ。欲望にとても忠実に生きている。

「皆のお金だよ!」泉波はお玉をナイフみたいに散香に近づけた。「業務スーパに行って材料買ってくるっつってんの!」

「え、でもでも、」散香は諸手を挙げてオロオロしている。「そんな暇ないよぉ」

「お金数えてないでシオンが鍋見といてよ!」

 と、そのときだった。

「ああ、おしるこ、おいしそう、」深緑を基調にしたチェック柄の傘を差したエイコが列の脇を通り抜けて大森の隣まで歩いてきた。「どう、売れてる?」

「うん、在庫がなくなりそうだよぉ、ありがとございしゃい、」大森は小学生くらいの女の子の接客をしながら、エイコの方を見る。「ほい、おつり、二百万円だ」

「ああ、だから、怒鳴っていたんだね」

 そこで散香はエイコの登場に気付いたらしい。「ああん、エイコちゃぁあん、いいところにぃ」

「なぁに、変な声出して?」エイコは訝しげに散香を見る。

「材料の調達に行ってきてくれない?」散香はエイコの手を触って頼み込む。「一生のお願いだよぉ」

「おい、シオン、悪いだろ、私が行ってくるって」

「ああ、うん、えっと、ちょっと、待ってて、」エイコは散香と手を離して、煉瓦道のちょうど真ん中くらいに立っていた学制服の男子に何やら言っている。なんとなく、お兄さんかな、って思った。彼はエイコの話を聞いて、その場をゆっくりと走っていく。エイコは戻ってきた。「買い出し、行って来てあげる」

「ありがとう、エイコちゃん」

「構わないわよ、」エイコはニコッと微笑んだ。「私は生徒会だし、今日の夜のこともあるし」

「ごめんね、エイコちゃん、」泉波は合羽のフードを被ってから散香のお金を引っ手繰ってテントの外へ出る。「私も一緒に行く、一人じゃ大変だろうし」

「あ、私のお金ねぇ!」

「ちゃんと鍋かき混ぜといてよ!」泉波は怒鳴って、芳樹野と大森の方にウインクする。「二人ともくれぐれもよろしくね、シオンが、何かやらかさないように見張っとくんだよ」

「了解っす」大森と芳樹野は応答する。

「よし、行こう」エイコと泉波はテントから離れていく。

 大森はチラッと後ろを見た。散香は律儀に鍋をかき混ぜていた。一安心した直後。味見をして、明らかに異常な量の砂糖を投入しようとしていた。大森は慌てて声を出した。「こらぁ! 入れすぎ、入れすぎ!」



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