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僕らに新しい朝が来た!

「さーわーやかーなー朝だぁーよーぉ、ごーきーげんなーあさー、ほっ、ほっ、」


 クワを振るうたびに、乾いた土が小気味よい音を立てる。

 

 爽やかな風が吹いて、遠くでは鶏の鳴き声が聞こえ、のどかな村の空気が僕たちを包んでいた。


「そのご機嫌に音程の狂った、わけの分からない替え歌をやめてください。普通にノイズですわ」


 隣でクワを持つリアが、平然と言い放った。

 

「……主人のクワの角度、不合格です。土を耕しているというより、ただ地面を撫でて喜んでいる変質者にしか見えません。もっと大地を肉壁だと思って打ち据えてください」

 

 彼女は村の奥さんから借りた手ぬぐいを頭に巻き、エルフの長い髪をまとめて、驚くほど手慣れた手つきで作業している………ふうに見せかけて、ぼーっとしていた。

  

「……って、おい」

 

 僕はクワを止め、

 

「なんで僕ら、当然のように畑仕事に精を出してるんだ? 確かに昨日の今日で宿代も食費もないけど、適応力高すぎないか? 僕はもっと、こう……ギルドで華麗にクエストを受けたりとか……」

 

 すると、リアはクワを杖のように突き、不思議そうに首を傾げた。

 

「……ご主人様。まさかとは思いますが、本気でそんな『都市伝説』を信じているのですか?」

 

「都市伝説?」

 

「はい。私の演算によれば、見ず知らずの余所者に武器を持たせて野放しにする組織など、この世に存在しません。異世界における唯一の正解は『まず土を耕して、その土地のケアをすること』、つまり農業です。これ、エルフ界の常識コモンセンスですよ」

 

「……え、そうなの? ギルドとかないの?」

 

「ありません。……というか、あっても多分、まずは『ジャガイモの皮剥き1000本ノック』から始まる仕様のはずです。主人のような低スペック個体が剣を振るなど、システムエラーの元です」

 

 自信満々に語るリアだが、その麦わら帽子は前後逆だし、手ぬぐいの結び目もなにやら不自然だ。

 

 そう。こいつ、口は達者だし、身体能力は高いが、実はぽんこつ疑惑があり、信用できない。

 

「あのさ、リア。さっきから『エルフ界の常識』って言ってるけど……お前、村に来てからずっと僕の後ろに隠れてるよな? さっきも村長さんに挨拶する時、僕の服の裾をずっと後ろから掴んでたし」

 

「……あーあーあー。あなたの発言をミュートしました。現在、私はあなたの声が聞こえない設定になっています」


 こいつ、都合が悪くなって耳をふさぎやがった。

 

「……あ、エルフのおねえちゃーん!」


 わーっと子供たちが、僕たちに向かって駆けてきた。


「あら、ちいさな個体たち、おはようございます」


「あっおねえちゃん帽子ぎゃくー!あははおかしー」


「あら、そうですか。では直していただけますか」


 リアはそう言うと、しゃがんで頭を差し出した。


「いいよー!」


 子供たちは嬉しそうに麦わら帽子に、わちゃわちゃと、そのちっちゃい手を伸ばしてきた。


 リア、なぜか子供たちに大人気。


 解せぬ。


「おい、態度違いすぎるだろ!」


 するとリアは真顔になって言った。

 

「ご主人様お静かに。……教育に悪いので」


 どの口が言うんだ!こいつ、僕とまわりで態度が違いすぎないか!?


 子供たちが去っていくのをにこやかに手を振って見送るリア。


 あれー僕の目、おかしくなった?リアが美少女に見えるんですけど。

 

「いいですか、ご主人様。私は常に相手の『徳』に合わせて接客プログラムを走らせています。主人のような、さっきから変な替え歌で空気汚染を繰り返す不法占拠個体には、この塩対応が最も効率的なのです」


 あ、やっぱりリアはリアだわ。

 

「さっきから口をひらくたびに酷くない!? だいたい、お前だってさっきから動いてるの口だけで、クワが一度も土に刺さってない!!」

 

「私は『応援』という名の精神的バフを主人に付与しているのです。ほら、ほっ、ほっ」

 

「僕の歌をパクるなよ!!」

 

 そんな、どうでもいい不毛な言い合いをしながら、僕らはジャガイモの苗(リアいわく、僕の同族)を植え続けていた。

 

 腰は痛いし、手のひらはマメができそうだし、何より相棒の性格が最悪だ。

 

 それでも、昨夜のネズミの群れに比べれば、この泥にまみれた平和がどれほど尊いか。


「さあ、口を動かさずに手を動かしてください、このジャガイモの芽かき機」

 

「僕の名前、ついに農機具になったのかよ!?」

 

「いいえ。農機具はもっと黙々と働きます。ご主人様は、深夜に突然『お腹空いた』とだけ大音量で叫び出す呪いのフランス人形です」

 

「……ホラーじゃねーか! せめて人間扱いくらいしてくれよ!!……もう、僕は黙ってこの土を肉壁だと思って打ち据えることにする」


 しばらくギャーギャーと言い合いながら作業を続けていると、村の入り口が慌ただしい。

 

 なんだろう、と思う間もなく、男の声が村中に響き渡った。 

 

「たいへんだああ!!やつらが来やがった!!!」


 と。


 僕とリアはお互いに向かって重々しく頷いた。

 


「「逃げよう(ましょう)」」


今日から第二章ですが、章の設定がよくわからないので、しばらく章表記はなしです!

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