44話 僕と地下100階層。
螺旋階段状にくり抜かれた巨大な暗闇の穴を、僕たちは下へ下へと進んでいく。
最初は威勢よく歩いていたが、地下20階を過ぎたあたりから、徐々に膝が辛くなってきた。……いや、階段長すぎない!? 100階分を自分の足で下りるって、膝へのダメージが尋常じゃないんだけど!
「なあロリ魔王、これ、地上にいる王国軍は呼ばなくて良かったのか?」
「ロリと言うな。やつらは囮だ。迷宮の正面から入らせて、湧き出す眷属どもの相手をしてもらう」
「ふぉっふぉっふぉ。迷宮を正面から進む国王軍を囮にして、少数精鋭で本丸を叩く。王道じゃな、ロリ魔王どの」
「ロリではない。まあ、お前らのレベルをあらかじめルビーに上げさせたからな。あのレベル上げに失敗してたら、国王軍と一緒に地道な消耗戦だったわ。その場合、我以外はほぼ全滅だったろうがな」
膝のガクガクに耐えながら、僕は冷や汗を拭った。
……あっぶねー。あの地獄の乳ビンタ育成のおかげか……。あの胸の暴風域に叩き込まれた地獄の修行は、うん……無駄じゃなかったんだな!?
「ねえユーキ、大丈夫……? すごい汗だけど……」
後ろからついてくるラフェちゃんが、心配そうに僕の顔を覗き込んできた。
「ぜえ……ぜえ……だ、大丈夫……ただの、下り階段のオーバーワークだから……」
「ユーキ殿! 息が上がっているでござるよ! 拙者の肩を貸すでござるか!?」
「ヤマトくん、気持ちはありがたいけど、武士の刀が膝に当たって余計に削られそうだから遠慮しておくよ……っ!」
地下40階。一歩踏み出すごとに、太ももの筋肉が悲鳴を上げ始める。
「ロリ魔王さん、このゼーゼー言ってる気持ち悪いご主人様、はやいとこ引き取ってくれませんか?」
軽い足取りで隣を歩くリアが、涼しい顔で毒を吐いた。
「ロ・リ・で・は・な・い。……この戦いが無事に終われば、コイツは我のものだ。……なあ、ユーキ?」
「僕に拒否権なんて最初から無いでしょ!? もう諦めたよ!! どうとでもしてくれ!!」
「ふぉっふぉっふぉ。人類のためじゃよ。ロリ魔王どの、そなた今後人間と無駄に戦わなくてもいいように、人間の勇者とくっつこうというのじゃろ?」
魔王は「ふんっ」と激しく顔を背けた。
「人間と不毛な争いをするのも、もう飽きたわ。勇者を配下に下したというていにすれば、魔界の連中も納得するだろうよ。人間どもの統治は、我が婿としてユーキに任せる。……あと、ロリって言うの禁止!」
……あれ!? なにこの魔王、ツンデレ? もしかしてツンデレなの!?
気になって顔を覗き込もうとすると、さらにフイッと反対側へ背けられた。あらかわいい。
「ご主人様、ジロジロ確認しないであげてください。そのツンデレロリ魔王さん、……属性が多いですね(笑)。おしむらくは胸元が完全な絶壁なことだけですが、まだ成長の余地が残っていますわ。あと1000年ぐらい様子見しましょう」
「さらっと(笑)って言葉に出すなよ! 1000年も待てるか! ていうか、僕の生きてる間ずっとロリのままじゃ手が出せないじゃねえか! あ、そういう時だけ、あの第2形態でおねがいします」
「我が言うのも何だが!! さすがにお前は情緒というものがないのか!? そんなに胸がいいなら、コイツも一緒につけてやるわ! それで文句あるまい!」
ルビーさんが、胸をくねくねさせながら間に入ってきた。
「えー、ロリ魔王さまぁ、困りますよぅ」
「なんでお前までしれっとロリ魔王呼びになってんだよ。 まあ、さすがにお手軽な愛人みたいな扱いは嫌だよな」
「みんなでロリ魔王ロリ魔王って……我、涙目……」
涙を浮かべる魔王を余所に、ルビーさんはキリッと表情を引き締めた。
「どうでしょう魔王さま、私とユーキさんの子供が先にできたら、魔王と人間の王様を兼任させてもいいですか?」
「乗っ取る気満々だった!? 魔界と人間界の両方を手中に収めるつもりだわこのサキュバスーーー!!」
地下70階。
もう足の感覚が麻痺してきた。太ももがプルプル震えて、1段下りるたびに「膝かっくん」をされている気分だ。
「……もう無理……誰か……僕の脚にポーションかけて……」
「情けないでござるなユーキ殿! 拙者などまだまだ余裕……あ、シエル殿、足を滑らせないでくだされ!」
「ごめんヤマトくん、僕もちょっと『鑑定』の使いすぎと階段で目が回ってきて……」
シエルくん、まだ戦闘もはじまってないのに何を鑑定してたの!?
「だらしないぞ! チーザーの奴なんてとっくに白目剥いてサムソンの背中で荷物みたいになってるが!」
「俺を荷物扱いするな……がくっ」
ふと隊列の後方を見返すと、薄暗い階段の陰でウサ耳双子がなにやら抱き合って震えていた。
「ラ・フィ……暗くて恐ろしいわ……怖いわ、怖いわ……」
「大丈夫よレ・フィ! 怖くなったらこうして私にしがみつけばいいのよ……ああっ、足がもつれて二人で転がり落ちちゃいそうだわ……!」
暗闇に乗じて、やっぱりイチャイチャしながら階段を下りてたわこの二人! 階段で転がったら下になだれ込むからやめてね!?
後ろの喧騒をよそに、老人の声がのんびりと響いた。
「ふぉっふぉっふぉ。若いってええのぅ」
「そうですかね。……。って、校長!? なんでいるの!?」
「ふぉっふぉっふぉ。今の今まで気づかれてなかったの……?」
「だってドワーフで背が低いうえに、暗闇の視界で完全に消えてたんだよ!」
「それよりも、大事なことじゃ」
校長が、急に真剣な面持ちになった。
その重重しい空気に、全員がピタリと足を止める。
「どうしたの校長? そんな畏まって。どんな重大な発表が……?」
魔王も何事かと、真剣な眼差しで足を止めた。
螺旋階段の暗闇の中に、緊張感が走る。
「わし、もう足が限界。だれかおぶって?」
「「「「「「じいさんいい加減にしろよ!!!!!!」」」」」」
地下80階の闇に、全員の魂の怒号が響き渡るのだった。




