4話 異世界への扉
偶然からこの世界に召喚し進化まで遂げたルナに始めは戸惑ったハルトだったが、たったひとりで寂しさを感じていたところに同居人ができたことに嬉しさを覚えていた。
人の姿に進化したルナに人としての生活を教えるためにハルトはルナ連れて色々と案内してまわった。
家の中を案内し終えると作り始めたばかりの農場へ向かう。
人手が増えたのは嬉しい限りなので、今後農業を手伝ってもらう為にもひとしきり説明した。
ルナは進化したばかりなので、手を使って道具を使うのに始めは悪戦苦闘していたが、そのうち慣れるだろうと思い苦戦するルナを微笑ましく見守った。
ルナは見た目は二十歳前後。
ハルトは結婚したこともないが、年の差もあることから娘を見ているような気分になっていた。
「ふふ。急に大きな子供が出来たみたいで不思議な気持ちだけど、必死で頑張っているルナを見ているとなんだか癒されるな」
ひとしきり案内と農場の説明をしていると、いつの間にか日が落ち始め夕方になっていた。
二人は日が落ちきる前に家に戻り食事にすることに。
食事といっても生の野菜と果物くらいしかないが……。
「この赤い実なんですか?甘酸っぱくておいしいです♪人はこんなおいしいもの毎日食べれるんですね♪」
ルナは両手で頬を抑え満面の笑みを浮かべ耳と尻尾を動かしていた。
どうやらイチゴをお気に召したようだ。
元が肉食の猫なので、野菜や果物を与えて大丈夫なのかな?と多少の心配はあったが、進化したルナは人と同じく雑食になったのか全く問題なさそうで安心した。
「それはイチゴっていう野菜だよ。イチゴなら農場の畑に植えてあるからそのうち収穫できるようになると思うよ」
「ほんとですか!?ご主人様!!」
ルナは身を乗り出し目を輝かせて確認してきた。
「あ、ああ。まだ農業についてはあまり詳しくないから、こんな立派に育つかはわからないけどな。最悪加護の力を使えばまた出せるけども」
「私イチゴのお世話頑張ります!!私に任せてください♪」
ルナは自分に任せろと言わんばかりに胸をたたき、かなり張り切っている。
イチゴ以外の世話も頑張ってほしいんだけど……。
まぁ今はルナが農業に興味を持ってくれたことを喜ぶとしよう。
「さて、少し早いけどもう日も落ちるしそろそろ寝るとするか」
電気もなければ、まだ火を灯す薪や蝋燭も無い。
なので夜は真っ暗だから日が落ちたら寝て、朝早くから活動する。
ハルトが寝室に向かおうとするとルナはぴったりと後ろをついてくる。
「あの…ルナさん?」
「はい?」
「ここは俺の部屋で、ルナの部屋は隣って……昼間に説明したよね?」
「そうですね?」
「なんで付いてきてるの?」
「えっ?今から寝るんですよね?」
ルナはハルトの質問に不思議そうな顔で答えた。
なんだかルナと話がかみ合っていない。
「寝るときはそれぞれ自分のベッドで寝るんだよ?」
ルナはそれを聞いて驚いた顔をしている。
「えっ!?なんでですか!?」
「なんでって……一緒に寝る気だったの?」
ルナは何の迷いもなく深く頷いた。
「流石にその姿のルナと一緒に寝るにはベッドも狭いし……」
それにいくら元が猫とはいえ、今の姿のルナはどう見ても人の女性。
男女で一緒のベッドっていうのは流石に……。
「なるほど……。ではこうすれば」
そういうとルナはいきなり服を脱ぎ始めた。
「ちょっと!?何やってるの!ルナさん!?」
ハルトは慌てて目をそらす。
直後、ルナの居た方から猫の鳴き声が聞こえてきた。
「にゃ~ん♪」
振り返るとルナは元の猫の姿になっていた。
「へぇ!猫の姿に戻ることも出来るのか!すごいなルナ!」
ルナを抱きかかえながらハルトは声をかけた。
「にゃ~ん♪」
ルナは嬉しそうに鳴き声で返事をしていた。
まぁ、この姿ならいいか。
そう思い、ハルはルナを抱きかかえたまま部屋に入った。
「んじゃ寝るとしようか」
ルナは喉を鳴らしながらハルトの顔に頬をすり寄せ喜びを示していた。
ベッドの上にルナをおろし、ハルトは布団にもぐった。
「それじゃおやすみルナ」
「にゃ~ん♪」
こうして二人は眠りについた。
※ ※ ※
翌朝――
部屋の明るさで朝が来たのを感じ、ハルトが目を覚ますと手の中に柔らかい感触を感じた。
柔らかな感触がするそれは暖かく、不思議と触れると心地よく、ハルトは再度触って感触を確かめた。
するとハルトがそれを触れると、微かにルナの声が聞こえてきた。
「んっ……」
ルナが漏らした声を聴き、ハッとなってようやくしっかりと目を覚ましたハルトが正面に目を向けると、そこには人になったルナが裸のまま眠っていた。
ハルトはそれに気が付くと慌てて手をどかした。
ルナもハルトが起きたのに気付き、手を丸め猫が顔を洗うように目をこすりながら体を起こす。
「おはようございます……ご主人様……」
目の前で起き上がった裸のルナに動揺したハルトは声を荒げた。
「なっ!!服を着ろおおおお!」
ハルトは大声で叫びながらルナに布団投げて頭からかぶせた。
そしてハルトの布団に潜り込んでいたこと、言いつけを無視して勝手に服を脱いていたことで、ルナは朝からハルトにお叱りを受けることとなった。
その後二人は支度をして食卓に着き朝ごはんを迎えていた。
ルナはハルトに朝から叱られたことで少し悲しそうな表情でイチゴをかじっていた。
「さっきはその……。怒ってごめんな」
「いつのまにかこの姿に戻ってて、この姿だと寒かったから、その……ごめんなさい」
いまは人の姿だけど、ルナは昨日まで猫として暮らしてきたんだよな。
服を着る習慣もなかったわけだし服を着るのに慣れないのも仕方ないか……。
猫の姿になれる能力は一定時間で切れるのか、ルナが寝たから切れたのか、今はまだわからないけど、今後確認していくとしよう。
ハルトによって食べやすく切り分けられた果物を、ハルトを真似てフォークを使いながら食べようとしているが、まだ扱いになれておらず変な持ち方で悪戦苦闘しながらも必死なルナの様子を見てハルトは微笑んだ。
ルナはルナなりに一生懸命頑張って俺の生活に合わせようとしてくれているんだよな。
人の生活に慣れるのは大変かもしれないけど、これから少しずつ教えていってあげよう。
これからは少しくらいは大目に見てあげるか。
「ルナ。フォークはこう持つと食べやすいぞ」
ハルトがそう言ってルナにフォークの握り方を教えるとルナは早速実践して上手く果物を口へ運んだ。
そして少しだけ嬉しそうな笑みを浮かべていた。
そんなルナの様子を見て、ハルトはルナを褒めるように頭を優しくなでた。
すると少し落ち込んでいたルナも機嫌を取り戻し、猫が甘えるような素振りでハルトに擦り寄ってきた。
それから共に生活しながら家ではルナに人としての生活の仕方を教え、外では農作業の仕方を教え、二人は共同生活を楽しんでいった。
そんな日々を送っていると、もうルナが来てから10日以上が経過していた。
ルナは真面目なので覚えも早く、数日でハルトが教えたことは卒なくこなせるようになったので、農業を二人で進めることができ、開拓はだいぶ捗っていた。
加護で生成した大地の状態が余程よかったのか、既に実り始めた作物もある。
ルナの好物のイチゴもその一つだ。
農場以外にも生活を充実させるためにハルトは加護で日々色々な物も作り出していた。
まず天気が常に快晴なのもいいが、雨が降らないのは水やりの手間がかかり困るので、遠くにいくつかの広大な海や大陸、高い山をイメージして造った。
こうした自然環境の変化により空気や水の循環が発生したようで、風も雲も確認できるようになった。
そのうち雨も降るだろう。
ハルト自身にも生成した海や大地がどれほどの広さなのかは正確には分かっていない。
というかまだ、この世界がどれだけ広いのかもわからない。
加護の力を駆使すれば把握も可能と思われるが、二人しかいないこの世界でそこまで活動範囲を広げる予定は今のところなかった。
今後もし遠くの状況を知る必要が出来たら、そのときは必要に応じて調査したらいいと考えた。
そして翌日。
衣食住はこの10日程で安定したので、加護の力を使いハルトは前から欲しかった物を用意した。
温泉である。
これは言わずもがな。
日本人なら誰もが愛するものだろう。
畑仕事を終えた後、水浴びするよりも湯船につかりたいと思うのは日本人にとって当然の欲望である。
したがって衣食住が安定したので最優先で確保した。
ルナは元が猫だから水に濡れるのを嫌うかと思っていたが温泉は好んで入っている。
隙あらば一緒に入ってこようとするのは勘弁してほしい。
ルナは裸に一切抵抗がないようだが、こちらの理性が持たない。
今度男湯と女湯を分けて作るとしよう。
他にも生活に必要な水道と、その水道を作るために湖だけでは不便なので山から川も創造した。
明かりや調理に必要な木材を確保できるように農場の周囲に大きな森も作った。
その他、生活に必要そうなものを日々少しづつ加護の力を使い生成し、生活を徐々に豊かにしていっている。
こうして、二人で自由気ままなスローライフを満喫することおよそ1か月。
畑の作物も実り生活の基盤が安定していき順調かと思われたが、一つ大きな問題が発生していた。
水も食料も問題ないく家もあり大量に創造した衣類もある。
しかし決定的に不足しているものがあった。
それは肉と魚といった動物性たんぱく質だ。
この世界にはやはり生物、正確には意思を持った生き物は存在していないようで、空を飛んでいる鳥も居なければ虫の1匹さえも見たことがなかった。
虫がいないのに作物が実を付けていく理由はハルトにもよくわからなかった。
加護で作り出した種だから受粉を必要としないのかもしれない。
色々試してみたが、何故か食材としての肉や魚ですら加護では作り出すことが出来なかった。
加工品や料理もそのまま創造することは叶わなかった。
ルナがこの世界に召喚されたように、生きた動物なら召喚可能かもしれないと一瞬思ったが、仮に呼び出せたとしても自分で処理できる自信がない。
そもそもルナのように呼び掛けに応じてくれるとも思えない。
ルナは鼠や雀を呼び出そうと言ったが却下した。
自分で食うのも躊躇われるが、ルナがそんなものを捕えて食ってるところなんて正直見たくない……。
二人が、そんなたんぱく質に餓えた日々を悶々と過ごしていたある日のこと。
「にゃああああ!」
農業のイチゴを植えている方でルナの叫び声が聞こえた。
慌てて駆け寄ってみるとルナが倒れていた。
「ルナ!?何があった!大丈夫か!?」
「お肉………」
ルナは小声でそう呟いた。
直後、ルナははっきりとした声で再度欲望を口に出した。
「お肉が……たべたいです。ご主人様ぁ……」
はぁ……俺も肉が恋しいよ。
そう思いながらルナの頭をなでてあやしていると、ふと1つの考えが浮かんだ。
……もしかすると肉を食べることが出来るかもしれない。
―――そしてその日の夕方
ハルトは思い付きを試すために、ルナを連れて居住区や農地から少し離れた湖の向こう岸に来た。
「こんな畑もまだ作ってないような場所で何をするんですか?」
「ちょっと試して見たいことがあってね。以前ルナがこの世界に来たのは俺の加護が無意識に発動して召喚したからだと思うって話したよね。つまり加護の力はこの世界と別の世界を繋ぎ、意思を持った生物は行き来することが可能。だとしたら……」
ハルトは手を前に出すと、目を閉じて人が居る世界と繋がる扉を思い浮かべた想像した。
『異世界への扉 スキル生成付与。成功しました』
加護の声が聞こえ、そのまま声で聞こえた異世界への扉というのをイメージすると、そこに大きな扉が出現した。
またスキル……か。
やはりこの世界にはスキルというものが存在するのか……?
ルナは急に目の前に出現した扉にびっくりしてハルの背中にしがみついた。
「なっ!何を出したんですか……!?」
「別の世界と繋がる扉………だと思う」
ルナはハルトにしがみ付き、突如現れた大きな扉に驚いている。
さて、想像した通りに出てくれたけど、この扉の先はいったいどうなっているか……。
ハルトは恐る恐るドアノブに手をかけゆっくりと扉を開ける。
その先には緑が生い茂る景色が広がっていた。
どうやら成功したみたいだ。
今日は加護も使い切ってしまったうえ時間も遅いので、日を改めて扉の向こう側へ行ってみることにした。




