30話 ナターシャの覚悟
ハルトは街から少し離れた所に扉を出し、皆で歩いて街に戻った。
街に戻りギルドに顔を出すと泣きじゃくったミリルとエレンがルッツに飛びついてきた。
「わっ!なんだ急に!」
「なんだではありませんっ!急にダンジョンが崩れて誰も出てこないんですもの……!みんな本当に心配していたんですよ!!」
「だっで!ルッツがうぅっ!$%&……!」
ミリルに至っては何を言っているか分からないほど泣きじゃくっていた。
「無事で何よりだ……」
「ほんと、皆さん無事でよかったです……」
ローガンとフィルもみんなの顔を見て安心したようだ。
「ハルトさんのおかげで助かったんだ。って、うわっ!こらミリル!鼻水を俺の服で拭うなっ!」
「だっで、だっでぇぇ」
『ははは』
皆その様子を見て笑った。
皆が賑わっている様子に気が付いて、2階から大男が現れた。
「よかった。皆無事戻ったか」
ギルドマスターのライナスだ。
「ええ、何とか全員無事に帰還しました」
「ナターシャもダンジョンに潜っていたのか?」
「えぇ。まぁ……」
「……?まぁいい。話を聞きたい。ダンジョン崩壊の話を聞いて、さっき俺のとこに領主も状況を確認にきたとこだ。お前らが見てきたことを俺らに聞かせてくれ」
ナターシャが若干影のある顔を示したのを、ライナスは見逃さなかった。
普段明るいナターシャが暗い顔を示したことに違和感を感じ取ったようだ。
ライナスの部屋に皆で入るとアイデンリヒトとヘンゲル、マーレ、レイラが既に部屋にいた。
「やっぱり無事だったわね♪」
「ケビンとベンゼルは死んだかと思ってた。けど生きてたみたいでよかった」
「んだと!その言い草は!!」
「まぁまぁ」
マーレの一言に怒るベンゼルをケビンが抑制した。
全員が揃うとライナスが口を開いた。
「それで?中で何があった?」
全員で顔を見合わせて頷いた。
そしてエラルドに中でマナリスとの間で起きたことを説明してもらった。
ナターシャの裏切りの件も含めて……。
「……なるほどな」
そういうとライナスはナターシャの首に剣を向けた。
「ナターシャ、今からお前に一つだけ問う。その答えが俺の意に敵わなかったときはわかるな?」
「ちょっと待っ――」
「いいのよハルト。私は罰せられる覚悟でここに出向いてるのだから……」
気丈に振舞ってはいるものの、ナターシャの手は震えていた。
「お前は魔族なんだな。今は人の敵か?それとも人の味方か?」
『…………』
全員固唾をのんでナターシャの返答を見守った。
「私は……、どちらの味方でもありません」
「おい!ナターシャ!!」
「ケビン。いいから聞いてほしいの。これから話す内容は嘘も偽りも無い私の本心」
「……」
「私は長い間、マナリスに居る妹の仇の影だけを追って生きてきたわ。何を犠牲にしてでも自分の悲願を遂げるために……。その結果マナリスに加担していたのも、この街にマナリスのスパイとして潜伏していたのも事実よ。でも……。この街で暮らしているうちに……、私はこの街が好きになってしまったの。街の人も、この街の景色も雰囲気も全部……。バカみたいよね。妹の仇を討つためだけに生きてきた私が他に好きなものを持つなんて……。そのせいでマナリスとしての仕事も果たせず、冒険者としての仕事も果たせず、結局どっちつかずでこんなことになっちゃって……」
「ナターシャ……」
「そんなどうしようもない私まで救おうとしてくれているあなた達を見て、私のやり方は間違っていたと気づかされたわ。犠牲を伴わなくてもなせることがあるんじゃないかって。私がこれまで犯してきた罪は一生消えない。だからこんな自分勝手な私にも少しでも何か返せることがあるのなら、たとえどんなことでもやっていくつもりよ。もし仮に責任をとってここで死ねというのなら刃を受け入れる覚悟もあるわ。でもこれだけは言っておくわ。今でも私の敵は人でも魔族でもなく、妹の仇であるリリスだけよ」
「なるほど、よくわかった」
そういうとライナスは強烈な殺気を込めて手に持った剣を振りはらった。
剣はナターシャの首飾りだけを切り落とした。
「え……?」
ナターシャはてっきり斬られたと思っていたので自分の首を触りながら驚いていた。
「助かりたい一心で俺の質問に安易に答えを返すような奴なら迷いなく切るつもりだったが、お前の覚悟は本物だと受け取った。俺はお前の心を信じる。マナリスの……お前の妹の仇の情報が入ったら、いの一番に知らせてやる」
「……ありがとう……ございます」
ナターシャは跪いて涙を流しながら深く頭を下げてライナスに感謝を示した。




