12話 街の名はアルレンセス
ひとまず3人と猫達はハルトの家に向かった。
途中にある畑を見ながらロンドは感心していた。
「へぇ。ここの作物はどれも向こうじゃ見たことねぇ……これが旦那が元居た世界にあった作物なのか?」
「ああ、そうだな。やはり全然違う作物なのか」
肉に夢中であまり気にしなかったけど、言われてみると街の店先に並ぶ野菜や果物はここのとは違ったような……?
「一つ貰ってもいいか?」
「ああ、それなら……」
ハルトは食べごろのトマトを見繕ってロンドに手渡した。
『ガブッ』
ロンドはトマトに大口でかぶりつき目を見開いていた。
「なんだこの果実は!?こんなみずみずしくてうまいもん食ったことねぇぞ!!旦那!こりゃリーザスで売り出せば絶対売れるぜ!!」
なるほど。
作物がまるで違うっていうなら、向こうに持ち込んで売ればかなりいい商売が出来るってことか。
でも、誰もが見たこともない食材を売ったりなんかしたら、怪しさ満点だよなぁ……。
うーん。いい商売にはなりそうだけど、まだ作物を売りに出すかは保留だな……。
ロンドが初めて見る野菜とその味に興奮しつつ畑を見て回りたいというので、一通り見回ってから一同は畑を抜けて家に帰ってきた。
「はぁ~。帰ってきたって感じがする~。やっぱ我が家は落ち着くなぁ」
「やっぱ我が家は落ち着きますねぇ~♪」
畳敷の居間にへ転びながらハルトは久々の我が家でくつろいだ。
ルナも畳の上で横になり気持ちよさそうな顔をしながら尻尾を振っている。
ロンドはそんな二人がくつろいでいる部屋の床に敷かれている見慣れない畳に驚いていた。
「家に入るのに靴を脱ぐってのも不思議な感覚だったが。旦那!なんだいこの手の込んだ藁の絨毯は!」
藁の絨毯か。確かに畳を知らない人が見たらそう思うのかも知れないな。
「これは畳っていって俺の世界の俺の国では結構メジャーなものだよ。これは藁じゃなくてイ草っていう植物を編んで作ってあるものなんだ」
といっても畳に関する情報はそこまでしか知らないけど……。
「適度な堅さに微かに匂うこの草の匂い。これは落ちつくな。この畳ってのもそうだが、家の中を見渡して見ただけで旦那の世界は俺らの世界よりもかなり技術が発達してた世界だってのが分かる」
「まぁそうだなー。確かに技術は進んでいるが、魔法とかスキルとかの便利な能力は存在しないぞ。だから技術力が発展したんだろうけどな」
「なるほど……たしかにそれらの力がなければ作り出すしかない。技術が発展するのは頷ける」
「それに俺の世界ではこうして会話できる存在は人間だけなんだ」
「ルナも会話できるよ!」
「あー、ルナも一応同じ世界出身だし進化したから話せるな。すまんすまん」
ルナの頭をなでながらハルトは話をつづけた。
「あっちの世界では獣人とかドワーフは存在しないんだ。空想上の物語には昔から出てくるんだけどな。だから俺もこの世界でルナが進化したときや、ロンドの居た世界で様々な人種を見て驚いたよ」
「なるほどなぁ」
そんな話をしていると猫の鳴き声が聞こえた。
「にゃ~ん」
「あっ!悪い悪い!もう出てきても大丈夫だぞ」
ハルトは籠の中から猫達を出してあげた。
「ここが今日からお前たちの家だぞ~」
ハルトは沢山の猫に囲まれて楽しそうにそう言った。
子猫たちは嬉しそうに鳴き声をあげながら、ハルトの肩や膝の上に載ってきた。
ルナは楽しそうに笑い子猫たちと戯れているハルトのようすみて少し膨れていた。
「ルナもー!!」
そう言ってハルトに飛びつこうとしたルナの頭をハルトが抑えこむ。
「ちょ!お前は大きいんだから無理だ!まて!わぁっ」
「わっはっはっは!」
そんな様子を見てロンドは大爆笑していた。
猫達とルナが落ち着いてからエルドを家を造ろうという話になった。
エルドの要望を聞いて作ろうとしたが、炉などの駒かい工房の話は聞いてもあまり理解できなかったので、建物を作ってからロンドの要望を聞きつつ徐々に設備を追加していくことになった。
鍛冶をやるとなると音が出るので居住区の隅がいいと言われたので、拠点の端の方にとりあえずロンドの家を造り、本格的な工房はそのうち作るということで話はまとまった。
最後に猫達に遊び道具を作ってあげようと思いハルトは話しかけていた。
「猫ちゃんたち~、どんなのが欲しいですか~?」
その様子を見てルナがまた膨れている。
「なんかご主人様……。私の相手をする時より優しい……」
「そんなことないって。ルナとは普通に会話できるけど、この子たちとは俺は話せないからさ」
「なら私みたいに進化?させちゃえばいいんじゃないですか?」
あー、そうか。
確かに進化出来たら人としてみんな暮らせるし助かるけど。
「えーと。ルナの進化の時ってどうやったっけ……?」
「んー?ご主人様が私に話しかけてきて、私もご主人様と話したい!って思ったらこうなってました」
曖昧すぎてあまり参考にならなかった。
「動物が人に進化するなんていまだに信じられねぇな」
ロンドは半信半疑のようだ。無理もない。普通に考えたらありえない話だ。
向こうも俺の話したいって願いに応えたら進化出来るってことなのかな?
よし、物は試しだな。
猫達を全員集めてハルトは話しかけてみた。
「お前達。俺のことを認めて、俺と話せるようになりたいと思う?もしそうなら俺の願いにこたえてくれるかな?」
そういうとハルトは目を閉じて猫達の進化を願った。
『対象群の進化。成功しました』
『対象群に言語理解スキル付与。成功しました』
加護の声が聞こえて猫達は皆からだが光始めた。
「おお!成功したみたいだ!」
光が消え猫達はルナと同じ猫の獣人の姿に進化した。
このときハルトは忘れていた。
猫達は進化をすると裸のまま進化することを。
進化した者たちは二人を除き、ほとんどが女性だったのでロンドとハルトはすぐに目を背けた。
「ごめん!忘れてた!とりあえずルナ!服!服を持ってきて!」
「は、はい!」
ハルトの不注意でひと騒動あったが、全員に服を着てもらい話を聞く体制が整ったが……。
まず名前が無いのは困るので全員に名前を付けることになった。
子猫たちの親猫代わりをして面倒を見ていた猫は白黒のいわゆるタキシード柄。
日本でははちわれともいわれる模様の元猫はダンディな猫耳男性に進化したので、その見た目と面倒見の良さから執事を連想したハルトはセバスチャンと名付けた。
呼び名は長いのでセバスということになった。
子猫だった者たちは見たところルナより少し年下で、人の姿なら14~17歳くらいのようだ。
それぞれ見た目や雰囲気を参考にして名前を付けていった。
一番年上そうなクールで真っ白な長髪の女の子にはユキ。
清楚で凛としていて和服が似合う黒髪パッツンの女の子にはリン。
ボーイッシュで活発そうな茶虎で短髪の女の子にはレナ。
鋭い目付だが寡黙なキジトラ柄のメッシュ髪の男の子にはシン。
やんちゃそうで快活なサビ柄の女の子にはヒナタ。
おしとやかで物静かな、まるでお嬢様のような雰囲気の三毛猫の女の子にはマリア。
と名付けた。
名付けが終わるとさっそくセバスがお礼を述べはじめた。
「我々を助けて頂き、更にこのように人の姿へと進化させていただけるとは。誠にありがとうございます」
セバスはかなり丁寧でさすが年長者、といった感じだった。
人型に進化した今は歳も30前後に見える。
「みんな進化できてよかったよ。今日はもう加護が使えないからこの家とロンドの家にみんなには泊って貰うとして、どんな家がいいか要望を出してほしいんだ」
「私共はハルト様から頂けるのであればどんな住まいでも構いません」
うん。
セバスはしっかりし過ぎていて堅い……。
もう少し緩い感じだとありがたいなぁ。
「他の人は?何か要望はないか?」
ヒナタが元気よく手を挙げた。
「はい、ひなたくんどうぞ」
「私はハルト様と住みたい!」
その言葉を皮切りに6人全員がハルトと住みたいと言い出した。
ルナがそれを威嚇し牽制する。
「うちにはもうルナが居るからなぁ……」
ルナは腰に手を当ててフフンと鼻をならし、勝ち誇ったように偉ぶっていた。
「ロンドと一緒じゃダメか?」
「ちょ……!勘弁してくれよ旦那!おらぁ騒々しいのは苦手なんだ!」
「んじゃこの家の周りをこれから居住区として開発していくとして、一人ずつ家を用意していくから好きなとこに住んでいくってのでいいか?ロンドや俺のとこに遊びに来たいときはいつでも来たらいいさ」
『はーい!』
皆納得したようだ。
これでハルト一人から始まった異世界での生活は、新たに猫耳獣人七人とドワーフ一人が加わり十人になった。
そしてここで、セバスとロンドから提案が上がった。
別の世界にも出歩くなら、この場所に名前が無いのは不便なので、この場所の呼び名が欲しいという。
「うーん。名前ねぇ……」
ハルトは暫く考え込んだ。
猫が沢山暮らす街……。
そういえばそんな国があったな……。
マルタだっけ?
いやいやそんな名前つけたら。
丸太?とか言われそうだ。
うーん……。そういえば白い砂漠で猫みたいな名前のところがあったな。
この世界は元々真っ白な砂だけの世界だったし……。
こうしてハルトはあちらの世界の神話や空想の理想郷、実在する砂漠から構想を得て街の名を決めた。
「よし、街の名前はアルレンセスでどうだ」
皆ハルトの案に頷いた。
「アルレンセス……。いい響きですね」
ルナも微笑んだ。
どうやら賛成らしい。
特に反対意見もでなかったので、ハルトが無から作り始めた街の名はアルレンセスに決まった。




