9話 リーザスの街 冒険者ギルド
久々の肉を食しご満悦の二人は足早に冒険者ギルドへと向かっていた。
途中商業ギルドも見つけたが今は用がないので通り過ぎようとしたところ、見覚えのある顔から声を掛けられた。
「あら?あなた達さっきの?」
通り過ぎようとした商業ギルドの方から二人に声をかけてきたのはレイラだった。
「レイラさん?」
「ふふっ。覚えてくれたのね。ありがとう。これから冒険者ギルドへ?」
「ええ、登録に向かうところです。レイラさんはもう終わったんですか?」
「冒険者ギルドでカードの再発行は終わったから、商業ギルドと薬師ギルドの登録し直しにね。あなた達見慣れない装備をしてるし……。そういった装備を得る伝手があるなら商業ギルドに登録してみない?」
レイラは二人の全身を眺めながら促した。
「商業ギルド……ですか?」
「ええ、この辺りでは見慣れない珍しい物を身に着けているみたいだし……。商業ギルドにそれらの品を持ち込んで審査を受けて商業登録しておけばこの街での売買許可が下りるとおもうわ。見たところかなり品質もよさそうだし……ね♪」
レイラのじっとりとした舐めるような視線に若干引きつつもハルトは返事を返す。
「な、なるほど。今はこれしかないので無理ですが……検討してみます。レイラさんありがとう。後で寄ってみることにするよ」
「ふふっ。どういたしまして♪」
返事をするとハルト達は逃げるようにその場をあとにした。
あの人何考えているかよくわからないし、何だか鋭そうだから苦手だなぁ……。
でも確かに向こうの世界で使っていたものを加護で作って売れば商売になるかもしれないな。
問題はもし加護の力で創造してるってバレる危険性だなぁ。
そんな逃げるように去っていくハルト達の背中を眺めながら、レイラはニヤリと笑っていた。
あの二人、やはりこの辺りの人じゃないわよね……。
王都でさえも見ない服装に質のいい装備、それに先ほどの戦い方。
興味深いわぁ♪
レイラと別れ暫く道なりに歩くと二人はようやく冒険者ギルドに到着した。
二人が中に入ると、こちらに気が付いた一人の受付嬢が元気な声で呼びかけてきた。
「あっ!あなた達!ハルト様とルナ様ですね!!お待ちしておりました!!」
扉を開けた途端大きな声で呼びかけられ、いきなりのことで二人は少し面食らった。
そして周囲にいた冒険者たちの視線も当然見慣れない二人に集まる。
「どうぞこちらへ!」
案内されるまま、受け付けのカウンターに向かった。
「ケビンさんとマーレさんから話は聞いてますよ~!最強種のキャトランとケビンさんより強い人間の二人組が来たって~!」
この人声が大きい……。
ホールの方に目を向けると、既に噂は広まっているようで周りが二人を見ながらざわざわしている。
これはまずいやつだ。
ハルトは面倒なことに巻き込まれそうな気がしたので、さっさとカードを受け取って帰ろうと思っていた。
しかし、そう思った矢先、背後から声をかけてくるものが現れた。
「おうおう!お前達が他の街から来た噂の凄腕二人組か!片方はおっさんじゃねぇか!」
ほら……早速来たよ……。
もはやお約束だな。
「はぁー……」
ハルトがやれやれと言った感じで声のする方を振り向くと虎のような顔の大柄の冒険者が立っていた。
2m近くは在ろうかというガタイに少し驚いた。
「あなたは?」
「俺はベンゼル!見ての通りティガーの冒険者だ。この街では数少ない上位階級のミスリル等級の冒険者だ。試験官をやってたケビンと一緒にするんじゃねぇぞ?奴も同じ階級だが、実力では俺の方が上だぜ?」
首にぶら下げている青く光る金属タグを示しながら自慢げにベンゼルはそう言ったが。
ハルト達はそのタグが何を意味する物なのかわからないので、ベンゼルがどれほどの実力かはわからなかった。
俺達は身分証を作りに来ただけだから実力とかどうでもいいって!関わらないでくれー。
とハルトは心の中で叫んでいた。
「ベンゼルさんですね。よろしくです。俺らは冒険者カードを発行しに来ただけなのでこれで……」
ハルトがベンゼルを避けてカウンターに向き直そうとすると、ベンゼルはすかさず肩を掴み突っかかってきた。
「ははっ!そういうわけにはいかねぇよ。俺は強い奴と戦うのが好きなんだ。俺と戦え」
こいつバカだろ……。絶対バカだろ……。めんどくさい脳筋め!!
「戦うのは面倒なので俺達の負けでいいです。それでは」
ハルトは避けようとするがベンゼルはしつこくくらいつく。
「いやいや、俺がそんなことで納得すると思ったか?ギルドの裏に訓練場がある!そこでやろうぜ!」
断ってもきりがない……。
周りの冒険者も盛り上がっているし受付の女性も一切それを止める様子が無い。
というかむしろ戦いを見たそうな雰囲気で目を輝かせている。
はぁぁぁぁ。仕方がない。
ケビンと同じくらいなら大丈夫だろうと思いハルトは諦めた。
「はぁ……わかりましたよ。やればいいんですよね」
「へっ。やっとその気になったか!」
こうしてギルドカードが出来るまでの間にベンゼルと手合わせすることになった。
二人はベンゼルについていき訓練場へ案内された。
ベンゼルは二人同時でもいいというが、流石にそれは可哀そうだと思いハルトが一人で相手をすることになった。
全く、なんで俺がこんな奴と戦わなくっちゃいけないんだ……。
早く身分証を用意して一度帰りたいってのに……
無駄な時間をつかわせやがって!
さっさと終わらせよう!
「いつでもいいぜ?かかってきな?」
「それじゃお言葉に甘えてっと!」
ハルトはケビンに見せた時と同様に一気にベンゼルに近づくと剣を振り下ろす。
その常人離れした身のこなしと速度にベンゼルは不意を突かれ驚いた。
先ほどまで騒いでいた観衆もハルトの常人離れした動きを見て静まり返ってしまった。
ベンゼルはケビンと同じようにハルトの攻撃をギリギリで受け止め、更に剣を傾けハルトの上段からの斬りつけを受け流した。
くっ!なんだこの速さっ!
そしてこの剣の重さ……!ただの木剣でこれかっ!?
俺が両手で受けさせられただと!?
ベンゼルの顔から先ほどまでの余裕は完全に消えていた。
ハルトはしつこく絡んでくるベンゼルにイライラしていたので力の加減など考えていなかった。
ハルトの中にあったのは早く終わらせたいという思いのみ。
初段はそらされたがハルトは斬りつけた勢いをそのままに、体を回転させて威力上乗せし逆袈裟斬りに持ち込んだ。
ベンゼルは必至で剣を体の横で立て、なんとか次に来るハルトの剣を受けようとする。
ハルトの身体能力は目を見張るものがあるが、ケビンも言ったように動き自体は素人なのでベンゼルも次にハルトがどんな攻撃を繰り出そうとしているのかはわかり切っていた。
しかし、実際にハルトの剣がベンゼルの剣に直撃すると、攻撃の威力を抑えられず木剣は粉砕され、そのままベンゼルの脇腹にハルトの木剣がクリーンヒット。
想像以上の威力にガードの上から剣を砕かれ強烈な一撃をもらってしまったベンゼル。
さすがのベンゼルもこれには悶絶して膝をついてしまう。
「がはっ!なんだ……この攻撃の速度と重さは!?」
んなこといわれてもなぁ。
俺戦闘は初心者だし!
ちょっと身体能力が高いのは健康で強い肉体ってのの補正だろうなぁ。
「しらん。もう関わらないでくれ、めんどくさい」
嫌そうに睨みつけるハルトに気圧されベンゼルは戸惑っていた。
「わ、わかった……」
先ほどまで静まり返っていた観衆から『わあああああ!!』と歓声が上がった。
「すげぇ!なんだ今の動き!?」
「木剣での一撃であのベンゼルがガードごと粉砕されて膝をつくなんて!」
「ご主人様ならこの程度当然です!」
ルナは腰に手をあて何やら自慢げにしていた。
何やら盛り上がっているギャラリーにまた絡まれると面倒そうなのでハルトはルナの手を引きそそくさと受付へ戻ってきた。
受けつけへ戻ると既にギルドカードが発行されていた。
「先ほどの試合見事でした!お待たせしました~!こちらお二人のカードとプレートになります!」
受け付けのお姉さんからカードを受け取り、冒険者活動について再度確認したいというと、特に警戒されることもなく色々と説明してくれた。
ギルドでは依頼を受けていくことで等級を上げられる。
はじめはカッパープレートからだそうだ。プレートは等級を指す金属でできておりプレート自体に魔力で個人情報が刻まれているらしい。
なのでカードを無くし再発行した場合でもプレートさえあればその等級から再開できるようだ。
ちなみに先ほど絡んできたベンゼルと試験官だったケビンはミスリル等級、希少な鑑定眼持ちのマーレは1つ下のゴールド等級だが、そのスキルの希少差からギルド専属の検査官をしているらしい。
等級は上からオリハルコン、マーキュリー、アダマント、ミスリル、ゴールド、シルバー、アイアン、カッパーの8段階ありミスリルから上は上級冒険者と呼ばれているらしい。
ミスリル以上のプレートには補助魔法も付与されているらしく身体能力が若干向上するそうだ。
それでベンゼルが先ほどプレートの自慢していたのか。
マーキュリーって水銀だよな?
なんで水銀が上位等級なんだろう?
こういうのって硬度とかでランク付けされるんじゃないのかな?
他にもランクを上げる条件や依頼報酬など色々説明をしてくれていたが、冒険者としてやっていくつもりはないので聞き流した。
それらは真面目に冒険者活動をすることがあれば、その時に聞けばいいと思った。
説明を聞いていると先ほど町の外で試験官をしていた二人が奥から出てきてハルトとルナの存在に気が付いた。
「おー!来てたか!丁度お前たちの話をしてたとこなんだ」
「先ほどはどうも」
「2人とも、もしよかったら――」
ケビンがそう言いかけたところでハルトを見つけたルッツが割って入っていた。
「あーっ!いたいたハルトさん!ハルトさん達のおかげでほらっ!」
そういって報酬の入った子袋を掲げた。
「約束通り一杯飲みに行きましょう!奢りますよ!」
そういってルッツ達に引っ張られ二人はギルドを後にした。
ハルトに声を掛けようとして右手を挙げたままケビンはその場に取り残されていた。
「ぷっ。振られたわね」
ルッツ達の勢いでそのまま無視され放置されたケビンをみてマーレは笑っていた。
「う、うるせえ!」




