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Guardian’s Sky ―女神の空―  作者: Sky Aviation
第11章 ―8日目:午後 Day-8:Afternoon―
81/93

11-5


 ――下ッ? 近藤はすぐに聞き返し、間違いないことを羽浦は伝える。彼の声は至って冷静だが、その中に自信も込めているのがわかる。


「そうだ、下だ。2機一纏めで下に固まってる」

『上じゃないんだな?』

「上じゃない。彼らの主目的は熱核兵器による艦隊の破壊だ。幾らステルス機とはいえ、高高度を一気に飛んでいくのはリスクが大きい。低空より短時間で攻撃開始可能というメリットを考慮しても、多く見ても数発しかない熱核兵器を無駄にしかねない選択を取るとは思えない。何時ぞやの駆逐艦と護衛艦との殴り合いのときと同じだ」


 これは3日前の『しらぬい』と『益陽』のタイマン勝負のことだ。数少ない攻撃手段たる艦船を失いたくないがために、『益陽』は最後の最後で守りに入った。彼らにとって、熱核兵器による米空母の撃沈は最重要目標であるはずだが、それゆえに、選択すべき行動も限られてくる。羽浦はそこに目をつけたのだ。それに、


「(……彼の意識は、ミッドウェーの再現にある。だが、“完全再現”じゃない)」


 その予測に自信はあった。だからこそ、羽浦は下を選んだ。近藤が、さらに早口で問う。


『分かれてないんだな? 上下にいってたらアウトだぞ、後から分かれても遅い可能性が高い』

「1機は護衛としているはずだ。高度1万フィート以下に敵の反応がないから、旧世代機が護衛にいるとは思えない。上もしかりだ」

『4機まとめていくぞ。いいんだな?』


 素早く問いただしてきた。残り数分。判断ミスが許されない場面で、近藤も慎重になっていたのだ。近藤だけじゃない。不安そうな声で、蒼波も無線に声を投げ入れてきた。


『……上に、行ってないんだよね?』


 少し震えている。ここまできて怖気付いたかと少し呆れた羽浦だが、正直、100%の保証はできないのは事実だ。いや、レーダーで見えていない以上、保証などできっこないのだ。自らもまだ、自信はあれど、確信が持てない。ここまで言って外れてたら……最悪の未来を羽浦は脳裏に浮べるが、


「……大丈夫だ。上には行っていない。“俺には見えてる”」


 あくまで、自信たっぷりの声を送った。こっちの判断に迷いがあると悟られては集中できない。それを隠す意味も込めて、羽浦は冷静かつはっきりとした声を無線に届けることで誤魔化した。そして、彼女の背中を押すべく一言添えた。


「――お前を空の上で迷子にはさせない。俺たちの目が黒い限り、女神の空は常に安全空域だ。俺を信じろ。あとは、任せたぞ」


 自らへの信頼を求めるその目は、時折表示されるようになった蒼波機のブリップに向けられている。4機はバラバラながら1万8000フィートを保っていたが、時間もないし、羽浦がここまで自信満々で宣言したことで、賭けに乗る覚悟を得たのだろうか。4機が、一気に集まり始めたように見えた。


『――時間もねぇ。お前の幼馴染さんに賭けてみるぜッ』

「グリズリーッ」

『確かに、やつらの目的はあくまで艦隊の破壊だ。わざわざ見つかりやすい高高度に行く必要はねえ、選択肢として有効なのは低空だ。お前ら、編隊を整えろ。急降下だ。もうすぐ5分を切るぞ!』


 ありがとう、近藤さん。そう感謝の言葉を心のうちで述べながら、改めて指示を出した。


「今向かえるのはバザード0の4機しかいない。直ちに低高度に降下し、レーダー、肉眼全てでもって捜索しろ」

『バザード0-1、ラジャー。行くぞ、ヘディング1-6-0。急降下!』


 不規則な点滅を繰り返す4つのブリップは、自らの指示通りに急降下を開始した模様である。直ちに重本に報告し、ボードに居場所を記入させる。


「だが、いいのか? 上はがら空きになるぞ」

「問題ありません。彼の意識から考えて、必ず低空を選んでくるはずですので」

「随分な自信だな。根拠はあるのか?」


 隣から新代が違和感たっぷりといった顔を覗かせる。こういうときこっちを選ぶに違いないと、そう思わせる事実を羽浦が持っているとは、正直新代もあまり考えていなかった。羽浦としては説明する時間も惜しいのだが、誤魔化すのも面倒であるので、さっさと解説する。


「昨日の会話思い出したんです。彼、会話の流れから見ると妙な形でミッドウェーの話を差し込んだんです」

「昨日? お前がブチ切れたあれか?」

「ええ、それです。彼は途中、終戦後のGHQのような改革が理想だといっていました。でもなんで、あれの話を“ミッドウェーから”持ってきたんでしょう?」

「どういうことだ?」

「だって、彼の言い分を真正面から受け取るなら、終戦を通じて行われた占領軍の日本の改革こそが理想のやり方だと言っていました。その話の中では、ミッドウェーをわざわざ出す必要性もありません。日本の改革にそこまで関係性があるとも思えないのです」

「……あぁ~……」


 納得したようなしてないような、そんな微妙な顔を浮べて首をかしげる新代。と、後ろの重本ら数人の管制員たち。羽浦はさらに早口で説明していった。


 ――簡単に言えばこういうことである。羽浦は、ミッドウェーの話と、実際のミッドウェー海戦の中身を思い出したとき、ふとある点に気づいた。

 防大時代、戦史の勉強している時に知ったことだが、南雲機動部隊中核を担っていた正規空母『加賀』が撃沈される際、直掩の零戦隊は、艦上雷撃機を迎撃するべくとんどが低空に下りており、同時に上からやってきた艦上爆撃機への対応が遅れ、結果的に甲板が火の海になったそうだ。数年前に製作された太平洋戦争を題材にした映画でも、確かにその描写があった。

 彼がミッドウェーを意識しているというのならば、この知識を持っていてもおかしくない。そして、彼にとっての日本の改革の理想は、ミッドウェーから連なるGHQの戦後改革のようなものだといっていた。あそこで、わざわざそう言及するほどに、彼は意識していた。


 ――ここで、羽浦は気づいた。状況が似ている。艦爆も艦攻も存在しないが、上下から攻撃可能という条件、どちらか一方に対処しないといけない迎撃機、相手は世界最強の空母機動部隊、そして、これを沈めたならば、今後の戦局は、世界は、大きく変わるという場面。あまりに似ていたのだ。

 彼がミッドウェーからの占領政策、GHQ統治の流れを理想とするなら、それをなぞろうとするだろう。都合のいいことに、場面が似ているならば、かつての史実を模ってもいい。片方に引き寄せて、片方から攻撃すれば一発で仕留められる。


 彼は求めるはずだ。あの時の再現を。羽浦は、神野の思考パターンを不完全であろうながらもトレースし、そう結論を導き出したのだ。


「だが待ってくれ。その理屈だと、J-20は上下に分かれて落ちてくるぞ。それに、メインは上からの急降下爆撃だ。賭けるにしても上のほうがよかったんじゃないかッ?」


 新代が焦燥感をあらわにしつつそういった。彼の反論は説得力がある。本当の意味で史実をなぞるなら、間違っても下に行くべきではない。だが、羽浦は、さらに一歩進んで予測した。


「……ということを、俺たちが予測すると、“彼も予測する”はずです。特に、私がです」


 神野の頭脳レベルの高さから考えて、この程度のことは予測してくるだろうと、神野も想定しているはずだと、羽浦は考えたのだ。彼の頭の中には、昨日言われたあの言葉がある。


“貴方は指示を出す人間です。私を探し当てなければ何の役にも立たない。今もそうだったでしょう”


 この言葉を思い出し、なんとしてでも見つけ出さねばならないという焦りを見せるはずだ。実際、今さっきまでそうだった。彼に言われっぱなしではいられない。必ずや見つけて、見返してやらねばならないという対抗心が働く。また、彼としては、下地島が奪還された時点で、熱核兵器の存在についてバレることも想定しているはずだ。そして、なんとしてもそれを抱えているJ-20を破壊しにくるだろうと。

 そして、彼はそこに付け入るように、このミッドウェーという言葉を“あえて”残した。意識していた言葉を、思わず吐露したと思わせるように、言葉を巧みに選んだ上で。電子戦機のジャミングのせいでどこに何がいるのかよくわからず、熱核兵器が起爆するまでのタイムリミットは刻々と迫る。そんな状況ならば、このミッドウェー海戦の話から先に述べたような理屈を構成し、わらにもすがる思いで飛びつくはずだ。


 ――その結果与えられる指示は、“上昇せよ。下に敵はいない”。旧型機の護衛がいないのは先に述べた推測通り。もとより、この時のために2機用意したものでもあるはずだ。旧型機が護衛についていては、簡単にバレてしまう。そこは神野としてもどうしようもなかったはずだ。


 しかし、実際に上に上げたら最後。そこに誰もおらず、あとからE-2Dが探知したJ-20の居場所は、その真下の海面スレスレだった。だが、その時にはもう手遅れ。皆まとめて熱核兵器の餌食になる――


「――ていう、シナリオを彼は考えているはずです。俺の持つ「敵を見つけねば」という使命感と焦りが、早まった、ありきたりすぎる判断を促すだろうと。彼はそこまで考えているはずです」

「だから、お前はそのさらに裏をかいたと?」

「ええ。実際、そのほうが戦術的にもローリスク。でもあまりに当たり前すぎる選択なので、「彼がそこまで単純な判断するだろうか」と私たちが無駄に勘ぐるかもしれません。彼に言わせれば、それも狙っているでしょう」

「なるほどな」

「そういえば、無線を投げてきた特戦群の人、熱核兵器の情報をどこから持ってきたか聞いたら、破壊が不完全だった一つのノーパソからだって言ってたよな。まさか……」

「考えすぎかもしれませんが、“わざと”の可能性だってありえます。ノーパソ粉々にするなんて、いまどき若い男なら誰でも簡単にできるはずですから」


 尤も、この点に関しては大した根拠があるわけではない。しかし、何れにせよ彼の頭の中では、自衛隊側が熱核兵器の存在を悟ることも想定されているはずである。そして、そうなったらそうなったで、自分たち側に都合がいいように仕掛けてくるはず。ノーパソの件に、彼の意思の介在があったかはともかく、羽浦たちが熱核兵器の存在をしった時点で、彼の手のひらにうまいこと乗った形にはなっていたのだ。

 しかし、そのまんま踊らされるわけには行かなかった。羽浦にとって何よりの幸運なのは、その可能性に“気づけた”ことであろう。


「じゃあつまり、今雲の下には……」

「……いるはずです」



「神野さんたち……J-20のコンビが」



 徐々に晴れてきたレーダー画面の一点。4機のF-15Jが目指す先にいるであろう標的がいると思われる場所に、羽浦はにらみつけるような目線を送った。


 そして、何を焦ったか、その4機の後ろを複数の敵が慌てて追いかけていく様子が、別の味方から報告された……




『――今日の幼馴染さんは冴えてるぞッ、たぶん当たったな!』


 近藤が頼もしい力強い声でそういった。TWESは後ろから複数のMiG-29とJ-11が追いかけてきていることを警告しており、ひっきりなしにレーダー照射の警報を鳴らしている。今までに見られなかった動きであり、あまりに唐突な行動でもあった。近藤たちの動きに反応したのは間違いない。こちらの意図を知ったからこそ、それを阻止せんと動き出したのだ。


 ……たった4機の、別行動を阻止するために。他の何十機といる別の敵を無視してでも。


「(――大丈夫、雄ちゃんからは見えてるッ)」


 あんなカッコつけたことを言うだけのことはある。彼には見えていた。レーダーにはまともに映っていないはずなのに、彼がしっかり見えている。そこに存在している。敵の動きがそれを裏付けた。なら、自分たちのやるべきことは一つだけ。俄然やる気になった隊長が、気分を盛り上げるように強い口調で指示を出す。


『スリット、オスカー。お前らが出迎えろ。バックは任せた』

『よっしゃきた! オスカー、ミグ頼む。俺はJ-11だ!』

『了解っす! いってきやす!』


 編隊の左右両端にいた2機のF-15Jが、コーナーをドリフトで級カーブするGTカーのような鋭い機動でUターンすると、高角度で上昇しつつ追っ手を迎え撃った。あくまで牽制すらできればいいといった状態であるが、数的不利を操縦能力でもってカバーするのにはそれなりの錬度がいる。そのうち、今度は近藤と蒼波の左上方からも、急降下で下りてきた敵機が二人の目の前に立ちはだかった。


『足止めを喰らってる場合じゃない。とにかく今は突っ切れ。その先にいるはずだ』

『フェアリー、こいつらは無視だ。とにかくかわせ。それだけを考えろッ』


 二人の心強い友からの指示を頭に叩き込んだ蒼波は、ミサイルのトリガーには指をかけることなく、手の指先の全ての神経を操縦桿の操作に専念させる。目の前からミサイルを放ちながら躊躇なく突っ込んでくる敵機の動きは、それこそ一昔前にあった正面から敵がやってくるタイプのシューティングゲームのようでもあり、蒼波は小さく苦笑してしまう。こんなゲームみたいなことが本当にあったのか。だが、これらは結局は“障害物”にすぎない。近藤と蒼波は、互いの距離を絶妙に保ちながら最低限度の機動で回避し続け、確実に高度を落として南進していった。


 その間にも、電子戦機はさらに1機落とされ、レーダージャミングが大分マシになってきたと羽浦から無線が飛んでくる。E-2Dが見つけてくれるのを祈りながら、蒼波は何も答えず、ただただ冷静に操縦桿とラダー、スラストレバーを、時に小刻み、時に大げさに動かし続ける。


 もうすぐ雲の下を抜ける。そこに、黒い点として彼らが見えるはずだ。蒼波の目線は常に真正面を向いているが、その左から、1機のMiG-29が追いついてきた。切谷が取りこぼした機体だ。焦った切谷は無線で蒼波に警告する。


『クソッ、そっちに1機抜けたぞ! フェアリー、そっちにいった!』

『フェアリー、8時上方。来るぞ、ミサイルじゃない。機銃弾だ!』


 敵の発射したミサイルをカウントしていた羽浦がそう警告するが、これにも蒼波は何も声を発さない。耳には入っている。だが、答えるための余力すら、意識を集中させるためのエネルギーへと転換させていた。そして、目線をチラッと右に動かして、TWESで敵の大体の位置を確認すると、蒼波は2秒だけスラストレバーをアイドルの位置まで引っ張り、急減速させる。右隣を併走していた近藤は前に押し出されるように飛び出すが、その瞬間、蒼波機のすぐ手前を、機銃弾と思しき一閃が高速で通り過ぎた。


「(――今)」


 次の瞬間には、蒼波は素早く機銃のトリガーに人差し指をかけ、ほんの一瞬だけ押す。当然、20mmバルカン砲から飛び出した機銃弾も少量であったが、それらは、機銃弾の一閃を後ろから追いかけるようにして蒼波機の前に飛び込んできた敵のMiG-29の胴体部に満遍なく命中した。半ばオーバーシュートをした形となった敵は胴体各部から煙を噴き、そのうち、エンジン推力も失ったらしくそのまま勢いよく落下していった。

 文章にしても数行にもならない簡単な指示と、TWESに映っていた敵アイコンの位置から、大体の場所を頭の中で割り出し、その敵を都合の良いように自分の前におびき寄せる。あとは、HMDに表示された固定式照準ピパーに敵が来るのを待って弾を放つだけ。これを、蒼波は10秒前後で実行して見せた。

 ……常人ではない。走ってるときに目の前を飛んでいたハエを、無表情で撃ち落としたようにあっさりと撃墜する光景を目の当たりにしてしまい、これには近藤ですら口笛を吹きながら軽く引いていた。


『よ、よけた……、姿勢を、ほとんど崩さずに……?』

『……これが、風神か……』


 感心したような、驚愕したような、そんな声を漏らす大洲加と羽浦だったが、それにも蒼波は耳を立てることはない。いつもならドヤ顔で自慢し始めるような彼女であっても、今はそれどころではないのだ。今なお、目の前や後ろ、上のほうから大量の敵が飛び込んでこようとしていた。


『こちらスリット! 敵が低空に一気に降り始めた。やっぱりそういうことかッ?』

『たぶんな。こっちのレーダーでも徐々に確認できてきた。上には構うな、そのまま行け』

『電子戦機はまだかッ? そろそろいいだろッ?』

『もう少しだ。スパーク! そっちそろそろ落とせるか? あと1機でいいから落ちてくれればバーンスルーできるはずだ!』


 羽浦がそう呼びかけたのに即答したスパークの声は、激しく息切れを起こしたものでもあった。


『も、もう少しだ! 今目の前にもう1機捉えた! コイツを落とせばそっちも見えるはずだ!』


 相当激しい機動を繰り返したようだ。護衛の敵を撒きながらの攻撃でもあるので無理もない。ただ、彼らが電子戦機を落とすのも時間の問題だ。蒼波と近藤は、比較的低い高度に留まっていた厚い雲の中に入り、さらに高度を落としていく。


『この針路だ! この針路を維持しろ!』

『こちらオスカー、敵は雲を避けました! 追っ手はいないッス! そのまま行ってください!』

『もうすぐだ! もうすぐ見えるぞ!』


 あともう少し。その事実は彼らを鼓舞し、近藤や蒼波たちを励ました。雲の中なので編隊飛行などできるはずもないが、互いの位置は雲に突入する直前にしっかり把握していた。何があってもこのまま一直線に下りる。そう厚くないので、すぐに抜けられるはず。それでも、雲で覆われた白銅色の世界が中々晴れず、「まだか、まだか」と逸る気持ちが大きくなっていく。


「(まだ……まだなの……?)」


 白銅色の雲が高速で後ろに流れていく中、肝心の濃藍色の海が見えてこない。そろそろ見えても良いのに。こんな時に限って厚いのにあたったのか。

 早く。早く。1秒1秒が長く感じる時間を体感していると、ようやく、目の前の白色の世界が薄れ、変わりに、濃藍色の海が一面に広がって見えてきた。


「きたァ!」

『雲の下に抜けた! どこだ!?』


 必死になって二人はJ-20を探す。相手は灰色。F-2ほどではないが、比較的暗い色であるためうまく海面の色にまぎれているかもしれない。ここは、蒼波の自慢の視力が威力を発揮する場面だ。JHMCSに表示されている数字やシンボル等が邪魔だと思った蒼波は、バイザーを上げて肉眼で探し始めた。

 海面上をくまなく探す。同時に、『スプラッシュ1! 電子戦機撃墜!』とスパークから報告が入った。


『――ッ! きたぞ! レーダーがクリアになった!』

『やっとか!』

『バーンスルー成功。すぐにE-2Dが探す。ちょっと待ってろ』


 レーダー出力がジャミング波を上回った。これでジャミングは効果を発揮しなくなる。E-767を初めとするAWACSやAEWはレーダーがクリアになったことで、すぐさま敵味方の位置を把握し、敵への効果的な攻撃指示を出し始める。地獄のノンレーダー管制の時間は終わったが、しかし、J-20はまだ落としておらず、時間もほとんど残されていない。


「(どこ? どこにいるのッ?)」


 もはや執念とも言うべきであろう。その時の二人の目は、まさしく数匹の小型の獣を探す肉食獣の群れのようであり、全く関係ない小鳥すらも見つけてしまいそうな勢いだ。肉眼で海面を舐めるように探していく蒼波。

 果たしてその目は、海面上に不自然に浮き出る、黒っぽい点を捉えた。


「――ッ!」


 海面の動きに同調していない。それとはまったく別の方向。自分たちとほとんど同じ方向を向いて、海面スレスレを突っ走っている。数は2。こちらに目もくれないように高速で飛んでいる。


 ――間違いない。あそこを飛んでいるのは彼らだけだ。蒼波が報告しようとしたその時、歓喜混じりの羽浦の声が無線から聞こえてきた。


『――いたぞ! E-2D探知。J-20と思しき反応2、場所――』




『――ビンゴだ。フェアリー、グリズリー。そこの真正面の海面上だ! すぐそこにいるぞ!』




 彼らが見つけたのは、自分が見ているものと、全く同じ位置にいる敵だった……

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