11-3
ノンレーダー管制――文字通り、基本的にはレーダーを使わないで航空機を管制する、旧時代の管制方法を意味する。
レーダーがなかった当時は、航空機に自分の位置を教えてもらい、それを元に、管制官はどの位置を飛んでいるかを把握し、必要に応じて指示を出していた。例えば、民間の航空管制においては、管制に必要な諸情報は運航票と呼ばれる紙に書き、それを元に航空機の位置を脳内で組み立てるといった具合だ。また、時として地図を印刷した大きな用紙を用意して、そこに航空機に当たる駒などを置いて、報告された情報を元に一定時間ごとに動かして位置を把握するやり方もあったようである。
勿論、レーダーの普及と共にこれらの手法は第一線の航空管制の世界からは消え去り、レーダーが使えなくなった際の予備手段として用いられるようになった。羽浦は、それを、今ここでやろうというのである。
だが、乗り気な人間は少ない。新代が代表するように、疑義を唱えた。
「だが、あれは主に民間の航空管制でやった奴だぞ。航路が最初から定まった状態で動かすのと、航路なんてないこの大根雑の空戦を管制するのとではわけが違う」
「ですが、大雑把な把握はできます。訓練でも何度かやりました」
「訓練でやったのは小規模空戦が主で、こんな大規模なものは想定外だ。混戦になったら把握しきれないぞッ」
新代の言ったことは事実である。そもそもこのノンレーダー管制というのも、民軍共にかつては用いられてはいたものの、民間においては、航空機の量がまだ比較的少なかった当時に主に使われていたものだし、軍においても、混戦する前の味方の進軍を指揮する際に主として使われていたに過ぎない。空戦に突入したあとの管制にこれを使うことはさほど想定しておらず、基本的にパイロット任せになるのだ。
量的、質的劣勢の中、AWACSとしての役割を発揮しなければ確実に負けることは理解しているが、その解決策としてはあまりにも“無謀”といえた。最初は良くても、敵味方が入り乱れ始めてぐちゃぐちゃになると、たとえ情報は得ても空間把握は困難である。そんな状態で管制することは、誤った情報をパイロットに与えかねないというリスクが孕むことを意味していた。
だが、羽浦は持論を変えることはない。キッパリと彼は言い切った。
「これ以外に方法はありません。このままなにもせず、一方的に撃ち落されるのを見ているわけにはいかないんです」
「だ、だが……」
「何十分もやるわけじゃありません。とにかく情報をまとめてください。それを元にこっちが指示しますからッ」
羽浦の言い分も間違ってはいないために、新代も唸るしかなかった。あまりに無謀な賭けともいえるやり方だが、かといって、何もしないとなると、彼の言ったように一方的な敗北を前に傍観していることになる。それだけは、心情的にも戦術的にも、そして、政治的にもマズイことであるに違いない。
熱核兵器の話が本当であるならば、確実に勝たねばならない。だが、本当にこのやり方しかないのか。むしろ、レーダーなしの状態での訓練の経験がある彼らに任せてもいいのではないか。いや、しかし、こんな大規模な空戦においては連携が重視されるから、どっちにしろ指揮は必要か……。新代が悶々として迷う中、時間がなくなることを危惧した羽浦は、念を押していった。
「……女神の空の下は安全空域です。レーダーの有無は関係ないと、彼らに教えてやるべきです。でなければ、彼らは安心して空戦ができません。今の彼らには、“女神の声がない”んです」
今まで、近藤や重本、蒼波から言われていたことは、今も羽浦の脳裏にしっかりと残っている。彼らは、自分の声を欲している。欲しているからこそ、今しがた、蒼波があのような情報を渡して、その後の判断を暗に求めたのだ。まだ、こちらに活躍の機会は残っている。そして、それを期待されている。
答えないわけには行かない。その職に就く者としても、一人の友人としても。それを裏切ることは、あの空にいる者たちの死を意味するからだ。特に彼女だけは、絶対に、何が何でも生き残らせなければならないと、羽浦は心に誓っていた。
「――やらせてください。お願いします」
懇願するような目線に、重本も新代も何とも答えられずにいた。事態は承知の上。だが、ハイリスク過ぎる手法を、ここで実行していいのか。E-3やA-100との連携もある。二人は、躊躇いを払いきれずにいた。
だが、優柔不断な二人に気が急いたのか、一人の管制員が配下の航空機に指示を出し、目の前に何の敵がいるかを聞いた。数秒と立たないうちに、彼は報告する。
「今目の前にいるの、戦闘攻撃機の部隊だと言っています。恐らくSu-30MKK。迎撃部隊の最左翼側ですが、少なくともそっちでは、Su-30MKKは前面にいません。前面は戦闘機だらけで、旧式がそのさらに前にいます。昨日と同じやり口です。共有してください」
「松野……」
「やりましょう、シゲさん。俺は、何もせずに彼らの悲鳴を聞く役回りには立ちたくありません」
彼の目は、羽浦と同じく覚悟を決めたものだった。何もしないよりはマシである。それより、やることをやるのが自分らの仕事だと、一級の職人のようなことを言って説得した。
それに触発されたか。他の管制員が数人、同じく配下の部隊に情報を伝えさせ、細かいところまで重本に報告してきた。中には重複しているものもあるが、それも含め情報である。むしろ、重複して入ればしているほど、情報の確実性は増す。彼らの目は一様に訴えていた。「やるしかない」と。
「三佐……」
「……最早、やれることは限られるか」
重本は室内の管制員らを一瞥し、一つ小さくため息をついていった。
「……どっかの女神みたいに、引きこもっている暇はなさそうだ。長くても数分だろう。せいぜい、“悪あがき”をしようじゃないか」
彼は、含みのある小さな笑みを浮かべた。何か悪いことを企んだ子供のような顔。この顔を浮かべたときの重本は、腹が据わって大胆に動く。時間もない。もう空戦が始まってもいい頃だ。
「時間がない。全員、とにかく持ってこれる情報を全部こっちにもってこい。急げ!」
「はいッ!」
「ッしゃあ、やるぞォ!」
勢いを取り戻した管制員らに、活気が戻る。指示を出す声が一気に飛び交い、その報告内容を適当なメモにまとめる。その隙に、重本は部屋の中央の壁に立てかけてあった、予定表に使われていたホワイトボードを今すぐ全部消すよう指示を出す。
「そこに全部書き込め。上が北だ。記入範囲はS6VからS8T。後ろにいる休憩中のやつらも全員呼んでこい!」
「メモはこっちに全部渡せ! 動きがあったらこっちから各管制員に伝達する! あとは各自判断してパイロットに指示を出せ!」
「南西SOCに伝えろ。E-3だけでなく、A-100の使ってるE-3との共用周波数も寄越せってな」
「浜、お前ロシア語検定2級持ってたろ? 管制はいい、向こうと繋がったらそっちとの通信を頼む」
いつもとは違う指示が後ろで飛び交う中、羽浦もその伝えられてきた内容をバザード0とラクーン3の8機に伝達した。
「アマテラスより全機。可能な範囲でいい。見えてる情報をとにかくこっちに寄越してくれ。敵はIR撃ってきたか?」
『いや、まだわk……待て、今発射煙っぽいのが見えた。結構近距離で撃ったなッ』
「グリズリー、全部か?」
『大量としかいえない。回避する! 全員左に行け!』
羽浦は脳内で彼らの動きをシミュレートしていく。ミサイルが撃たれた情報は他からも大量に上がっていた。集まった情報を重本や新代が集約し、スタンバイだった管制員らがホワイトボードにマーカーで書き込んでは消して、書いては消してを繰り返す。
「南西SOCからです。空自の担当のセクター来ました」
「ディスプレイに同期しといて」
「戦闘機が前面にいるのはどこも一緒だ。戦法は?」
「どいつこもいつも格闘戦挑んでます。中距離戦は最初から諦めたみたいです」
「こっちもです。殴り合い前提で突っ込んできてるとッ」
「全部隊に回せ。敵は殴りあい前提。後方に注意、赤外線ミサイルが飛び交う乱打戦になるぞ!」
情報裁きはミッションコマンダーたる重本の十八番だ。不慣れであるはずの管制員らもとにかく情報を書き込み、ホワイトボードは本当の意味で白い部分がなくなりつつある。マーカーを滑らせる音は無線交信を行う声でかき消され、そこに重ねて重本と新代の指示を出す声が飛んでいく。
「爆撃機降り始めた! 高度2万7000から緩い降下!」
「編隊は維持されているか?」
「されてます! 針路速度変わらず! 電子戦機はもっと後ろにいます!」
「CMの発射体制に入った。デモイセルに連絡。艦隊防空スタンバイ。CMに対応している暇はない!」
なら、こっちは無視だ。戦闘機と電子戦機のみ。すぐに近藤たちに連絡し、爆撃機をスルーするよう伝える。すると、スパークが無線で叫んだ。
『おい、後ろにいるの電子戦機か?』
「どこの後ろだ?」
『爆撃機だ。H-6のもっと後ろに“デブ”がいる! どっち行けばいい!?』
「スパーク、いけるなら全力で“切り”に行け。だが無理はするな」
『了解。全機、一緒に来い! 切るぞ!』
スパークが先頭となり、一気に電子戦機のいる場所になだれ込むべく突撃を開始するラクーン3。当然戦闘機が邪魔をするはずだが、それらをどうにか掻い潜って攻撃を仕掛けようという腹であるはずだ。しかし、すぐ後ろから、それとは全く逆の報告が飛んでくる。
「爆撃機、後方にさらについています! H-6部隊のさらに後ろ!」
「後ろ!? そっち電子戦機だったろ!?」
重本が怪訝な顔をしながらそう聞き返す横で、羽浦も「は?」と焦った。H-6の後ろにいるのは電子戦機じゃなかったのか? 電子戦機だと思って今全力で狩りに生かせたのに。慌てて羽浦はスパークに確認を取った。
「スパーク、H-6の後ろにいるのどんな形してるッ? 本当に電子戦機か?」
『でかいのは間違いないが、違うのか?』
「待ってくれ、今そいつ爆撃機じゃないかって話きた。今確認してる」
『爆撃機ィ? おいおい、どっちだ。電子戦機じゃないのか?』
「ちょっと待て、今確認を……」
誰かいい位置にいないか? 誰でもいい。後ろにすぐいそうなのは誰だ。ホワイトボードを一瞬見て、見られそうな場所にいる味方を探す。爆撃機は降下中なら、そのすぐ近くにいても高度差があって攻撃される心配はない。敵戦闘機とそこまで重なっておらず、電子戦機が見えそうな場所にいる奴は……。
「……ベア7、松さんとこだ」
ラッキーなことに彼はすぐ隣にいる。彼に頼んで、電子戦機と思しき機体がどんな形をしているかを聞き出した。回答はすぐに来る。
「返答返ってきた。キャンディッドに似てるって言ってる」
「確かですね?」
「間違いない。他の奴も確認した。少なくともH-6じゃない」
「ボードに伝えといてください。スパーク、待たせた。そいつは電子戦機で間違いない。全力で切れ。1機でもいいッ」
『了解ッ! このミグ共を潰したらすぐにいく。ナード、バックアップは任せた。サーファー、ジェット、バックアップ!』
電子戦機の爆撃機疑惑はすぐに重本らに伝えられた。結局、パイロットの確認ミスだったことで爆撃機説は晴れたが、今度は戦闘機がどこを飛んでいるかで混乱が起きていた。
「羽浦、そっち戦闘機しか対応させてないよなッ?」
「ええ、させてません」
「じゃあバザード0とラクーン3は違うッ。南に飛んでるF-15誰だ? 米軍か?」
「今確認とってます」
「シゲさん、ミグが3機、高度2万5000で北に行ったって言ってます。照合願います」
「あぁ、待て待て! 今F-15見てるから!」
「ミグどっからどこに行った?」
情報が溢れ始め、どこからどう手をつけるべきか迷い始める。その間にも空戦は続き、機体の位置は常に大小の渦巻きが流れるように変わっていく。流動的な戦況は、民間の航空管制とは違って異常なまでに頭を使う。それゆえ、管制そのものにも綻びが出始めた。
「スリット、そっちの後ろに戦闘機いってないか? ミグが1機いったって情報がきてる」
『いや、後ろにいるのは爆撃機だけだ。上下どこにもいない』
「あれ、じゃあこっちじゃないか……」
『アマテラス! こっちにミグ来たッスよ! これどこのスか!?』
あ、しまった、そっちか!
「オスカー、そいつはMiG-29だ。1機だけ。武装は不明!」
『ヒエェッ! もっと早く言ってくれればよかったのにィ!』
「すまんッ、スリットと場所間違えてた。えっと、ということは場所は……」
すぐに脳内で描いている三次元の状況図を整理する。いつの間にかスリットとオスカーの位置が逆になっていたのだ。しかも、確認のためにボードを見れば、今度はスリットとフェアリーの位置を間違えている。
「新代さんッ、フェアリーとスリット逆です! スリットまだ戦闘機とやり合ってます!」
「え、あ、逆ッ!?」
「あー、じゃあ、こことここを変えて……」
「待て待て、ベア7-1と2はここでいいって話じゃないのかッ? え? 報告違った? それ早く言ってくれよ!」
「違う違う違う! 落とされたのサンドじゃないぞ! ラックだラック! ポイント5RでJ-11に落とされたやつ!」
特に運動していないはずなのに、徐々に息を荒くする人が増えてきた。いつも以上に無線のマイクに声をかけているせいか、喉を徐々に嗄らしてる人もおり、危ない場面が増えてくる。当然、この状態で完璧な管制をすることなどできず、撃墜される機体も出始めたうえ、場所も曖昧になってきた。
「ショットダウンされたやつまとめて。こっちから消すから」
「え゛ッ、エッジまだ落ちてないの? 今消しちまったぞ! 今どこだ!」
「ミュラーはどこだ? 落とされたのか確認してくれ」
「コープが落ちた場所変えて! そこから南に3マイルのとこだって!」
「2ショットダウンです! そこの位置から西に4マイル、マリオとフォーリー!」
混戦になればなるだけ、状況認識ができなくなる。その証拠というべきか、近藤がこんな愚痴をはいてしまっていた。
『クソッ! 空が狭すぎるぞ! どこに何がいるんだ!?』
この言葉から察するに、空の上は敵味方入り乱れる乱打戦というべき状態なのだろう。ゲームでしかありえないような、戦国時代の戦場の如き大激戦。空の上に敵味方を示す旗なんてない。しかも、動きは三次元。今目の前にいるのが敵なのか味方なのかを瞬時に見極めながら、それを無線で報告しつつ、自分も最適な戦闘ができるように動く。言葉で言うのは簡単だが、パイロットらにかかる負担の大きさはいやでも理解できた。
「グリズリー、ラクーン3を援護しろ。そこから北西の方向、高度2万6000を行ったり来たりしてる。電子戦機までの道を作れ」
『やるしかねえか。スリット、オスカー! そのままフランカーGを牽制しろ! フェアリー! どっからでもいい、戦闘機切れ!』
『了解ッ!』
その後も、グリズリーが適宜位置を報告してくれた。指示が簡潔で明瞭なのは羽浦にとってもありがたいことこの上なく、脳内で状況を組み立てやすい。バザード0はよく戦っているようで、既に4人で7機は落とした。うち3機はフェアリーの戦果であり、もう撃墜数だけで見ればバザード隊の中でも近藤と並んでトップに君臨してしまっていた。それでいて、
『次! スリット、まだ後ろいるよ!』
『オッケー。オスカー、バック頼む!』
『了解ッス!』
『まだまだやるわよ! ここにいる奴全部落としてやるんだから!』
これだけ元気なのだから、羽浦も驚くしかない。まるで、周りを敵に囲まれてもバッタバッタと切り倒していく姫騎士のよう。今の彼女には、騎士の鎧が似合いそうだ。そのうちコールサインも“セイバー”に変わるだろうか。
しかし、そんな奮闘にもかかわらず、状況は中々有利にならなかった。撃墜数は増え、それによって戦況を絶えず組み替えていかねばならない。
「2ショットダウン! ベア6が全滅です!」
「これで何機落ちた? 8機か?」
「米軍とロシアのも含めたら14機です。マズイですよ、こっちはまだ20機しか落としてないッ。迎撃部隊残機23!」
「ライノの援軍はまだなのかッ?」
「今追加で6機上がったって連絡来ましたけど、こっちくるまで3分かかるって……」
「遅すぎる! そんなんじゃ止まらないぞあれは!」
イラつき始める重本を横目に、バザード0とラクーン3のマークが描かれているボードを心配そうな見つめる。彼らはまだ生きているが、数的不利に変わりはない。援軍も中々間に合っておらず、今後の作戦も考えてか、中々艦載機を出そうとしてくれない。嘉手納から追加で来ている支援が今しがた到着したが、それでも8機しか来ない。あまりに少ないうえに、それでもなお数は向こうが上だった。
「(まだか……)」
ラクーン3が電子戦機に向かっているはずだ。まだ報告は来ない。もうそろそろきてくれなければマズイ。いよいよマズイ。願うような目線をそのマークに向けて、10秒が経過したときだった。
『――よし、抜けたぞ! ラクーン3、突破に成功した!』
ようやく飛んできた、朗報。喜び叫んだその声を聴いた瞬間、その意志が映ったように、明るく跳ねるような声を室内に響かせた。
「抜けました! 電子戦機切りに行きます!」
「マジか!?」
「抜けたのはどいつだ、ラクーン3か!?」
「ラクーン3です! ラクーン3の4機が抜けました!」
「全機に伝えろ! 戦闘機部隊を全力で引っ掻き回せ! 電子戦機はラクーン3に任せるんだ!」
この流れ、某シューティングゲームのアヴァロンダムでもあったな……そんなことを思い出しながら、勇気を貰った羽浦は自信を込めた声を送る。
「スパーク、電子戦機の護衛は大したものじゃない。後ろから戦闘機が来る前に、少しでもIRミサイルでぶっ潰せ。無駄遣いするなよ!」
『あぁ、わかってる! 全機、手身近な奴から落とせ! 敵はフレアを大分使ってる! AAM-5Bの力を思い知らせろ!』
『サーファー、ジェット、バックアップに入れ。戦闘機を牽制しつつ攻撃しろ』
いつもの気迫のあるスパークたちの声が羽浦の耳にも届いた。彼らなら落とせるはずだ。電子戦機に大した護衛は置いていない。置いていてもJ-11Bが数機だったはずだ。電子戦機間で距離はあるから時間は多少かかるが、落とせる。それだけは確実だ。
『アマテラス! 今キャンディッド1機落とした! 変化あるか!?』
そして、耐えれば向くはやってくる。スパークらが電子戦機と思われるIl-76を撃墜。レーダー画面も、1~2秒ほどだけ反応が復活しかけた。だが、“しかけた”だけ。完全に復活したわけではなかった。
「スパーク、まだだ。反応が回復しない。今そっちに行けてるのはお前らだけだ。戦闘機が数機迫ってる。そっちから真南の方向、少しでも落とせ」
『了解。ナード、牽制頼む! 電子戦機は任せろ!』
『死なないでくださいよ? じゃ、行って来ます!』
ナードがスパークと別れた。彼は単独でも落としに行くつもりだ。少々危険であるが、もはや手段は何でも使うしかない。代わりに、周りの情報を大量に彼に渡すのが、羽浦の役目となった。
「スパーク、編隊左翼は護衛機がいない。切るならそっちからだ」
『オッケー。そんじゃ撃墜数稼ぐといくか』
こりゃまた傭兵がいいそうなことを吐いているが、しかし、言葉に嘘はない。左翼側に一気に躍り出たらしい彼は、また1機落としていった。さらに1機。撃墜まではいかなかったようだが損傷を与え、反転して再攻撃にかかる。何発もAAM-5Bは持っていないので、今度は機銃やAAM-4Bの近距離射撃まで仕掛ける。
だが、敵も黙ってみているわけではない。電子戦機の保護を最優先と見たのか。戦闘機が一気に北上を開始したらしい報告が、大量にパイロットから飛んできた。近藤も、戦闘機が一気に北に向かい始めたといっている。
「バザード0、スパークたちをやらせるな。全力で迎撃しろ。手身近にいるやつから全部だッ」
『了解ッ。クソッ、これじゃ戦国時代と変わらねえじゃねえか!』
そんな愚痴を吐きながら、次々と敵を落としたと報告してくるグリズリーたち。電子戦機がいる場所に敵味方の戦闘機が入り乱れ始めたことで、いよいよ“カオス”になってきた。動きに秩序がなくなり、空戦はなんでもありの殴り合いに変貌し始める。
「E-2Dまだ見つけられないのかッ?」
「まだです。電子戦機が落ちた一瞬だけレーダーは復旧するんですが、その間に解析が間に合わないと」
「あと何機落とせばいいんだ、急ぐよう伝えろ!」
新代が焦燥感を隠さずにそういう。レーダー出力はAWACSやAEWが高いため、何機か落としていればバーンスルーが発生するはず。戦闘機はすでに近距離戦闘のためバーンスルーしているので、こっちがそうなればもう状況は改善されたも同然だ。
今1機また新たに落ちたと報告されたが、3機落ちてもまだ出力は拮抗以上らしい。
「H-6、一部がミサイルを発射。ASMと思われます。全弾艦隊に向かいますッ」
「米軍のラングスウィル3が全滅したって報告きました。バックアップのライノがまもなく来ます」
「ロシア機、初期より戦力半減してます。一回下げたいって向こうが言ってるんですが……」
「もうちょい耐えるよう頼んでくれ。スホーイとミグの俊敏な機動力が今欲しいんだよ!」
ノンレーダー管制をやり始めてもう5分以上。たったの5分なのに、以上に長く感じる5分以上の時間を経過し、そろそろ脳も限界が見え始めた。そろそろ見えてくれ。ステルス機だけでもいい。あのJ-20さえ見えれば、こっちはすぐにでも……。
「(まだか……)」
そう願いながら、羽浦はさらに指示を出すべくボードを見やる。
『アマテラス! また1機落とした! 電子戦機を撃墜!』
スパークが力強い声で報告してきた。これで4機。半分はやった。まだか。まだこないのか。そう願う管制員らの表情は、一様に、E-2Dと無線交信をしている管制員のほうに向けられた。
――その時、一瞬、彼の顔が晴れる。
「――見えました! 微弱な反応! J-20ですッ!」




