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Guardian’s Sky ―女神の空―  作者: Sky Aviation
第10章 ―8日目:午前 Day-8:Forenoon―
74/93

10-5

≫同時刻 渡口の浜≪



 普段は、見る人全てを虜にする南国の美麗なビーチも、今は荒々しい雰囲気に包まれている。


 伊良部島南西部に位置し、800mに渡ってなだらかに弧を描くビーチ、『渡口の浜』――青く透き通った海から連なる真っ白なパウダーサンド。そこを照らす青い空と白い入道雲は、日本の南国の夏を表現するに相応しい絶景が見られると共に、南国の適度な暑さを感じながら木陰で昼寝をするには最適の場所である。訪れた観光客は、その透明感溢れる光景に見とれながら、ひと時の夏の思い出を作っていくわけである。


 いつもなら、サラサラとした砂浜に乗り上げる透明な海水と風が心地よいこの渡口の浜。しかし、今はそこは物々しいことになっている。沖合いからは今、2隻の舟艇が海岸目掛けて進行していた。

 エアクッション型揚陸艇『LCAC』――海自が6隻導入しているホバークラフトタイプの上陸用舟艇であり、ちょうど今、宮古島で装甲戦力を乗せて、ここにやってきたのである。

 こういった観光地にわざわざ乗り上げるというのも気が引ける話であるが、こればっかりはどうしようもなかった。というのも、LCACは、基本的には海岸に乗り上げることを想定しているが、海底にサンゴ礁があった場合に進行に支障が出る。通常の上陸用舟艇でもあった欠点であったが、多少改善されたにせよ、場所はどうしても限られる。ましてや、宮古島以南の島嶼部は周囲がサンゴ礁だらけであり、ここ伊良部島も例外ではない。

 唯一、この渡口の浜だけが、比較的サンゴ礁が少ない上、LCACも乗り上げられそうな規模の海岸だったのである。また、伊良部島と下地島を隔てる入り江の南側入り口のところにあるため、展開によってはこの入り江を境に東西に敵を分断することも可能であった。


 航空輸送による、各地域への第1水陸機動連隊の上陸後、間髪いれず第42戦闘団の装甲戦力を揚陸させる。

 87式偵察警戒車(RCV)、96WAPCだけでなく、高火力戦力として10式戦車と16MCVも揚陸させる。10式戦車の主任務は勿論、敵水陸両用戦車の撃破であるが、16MCVはもう少し後方でその補佐を勤めることになる。


「ビーチングしました」

「よし、行くぞ。こっから先は戦場だ。覚悟しろッ」


 第42戦闘団第1機動戦闘車中隊所属、16MCV『バイソン2-7』は、揚陸戦力の1両としてLCACの船上で揺られていた。間もなくLCACが海岸に乗り上げ、正面のランプドアが下がりきれば、その先は戦場である。

 LCACがビーチに乗りあがり、スカート部分の空気を抜く。ランプドアが下がり始めると、徐々に砂浜と樹木が見える。目の前には、左奥のほうにあるコンクリートの道路に伸びるようにタイヤ跡が何重にも伸びており、既に複数の味方車両が上陸していることを教えていた。

 車両甲板につなぎとめていた鎖がはずされると、脇の船室にいた乗員たちが急いで乗り込み始める。エンジンを急いでかけて、車長が両手で大きく丸を描くと、ロードマスターが「こいこい」と両手で手招きするような合図を送ってきた。発進許可の合図である。


「全員覚悟を決めろ。バイソン2-7、出撃!」


 16MCVを動かす八輪のミシュラン製タイヤが、雄叫びの如き唸り声を上げながら猛然と回り始める。荒れ狂う猛獣のように勢いよく飛び出し、すぐ近くの渡口の浜西側入り口に向かわせるのは、バイソン2-7の操縦手にして、機動戦闘車ではまだまだ数少ない女性隊員『織部』である。


「帰ってきたゆぉ、私の故郷! おのれ、今まで好き勝手に蹂躙してくれた恨みィ、思いしらせたらァッ」

「そうか、お前の実家はここだったな」

「正確には祖父の実家ですよ。開戦した時、本人は運よく宮古のほうにいたからいいけど……」


 砲手の『宮野』がそう声をかける。伊良部島出身の織部にとって、誰の許可を得たわけでもない武装集団が、土足で上がりこむが如く上陸し、我が物顔で島を荒らしていく光景は、途轍もなくショッキングな出来事であった。怒りに燃えた彼女は、このバイソン2-7を操る4人の中で一番張り切っており、車長である『伊達』も、彼女のことを気にかけていた。だが同時に、期待もしていた。


「織部、本来は俺が島内の立ち回りを指揮するところだが、ここの土地はお前が詳しい。幾らでも口を出してくれ。お前の土地勘を信じよう」

「お任せください、隊長。伊良部島ここは私にとっちゃ庭も同然ですッ」


 俄然やる気になった織部の声を聞き、伊達も小さく微笑んだ。普段からキャラ的にはっちゃけている彼女であるが、久しぶりの地元である。テンションも上がろうというものか。


 入り江東側のコンクリートの路面に上がると、いよいよ道路上での戦闘になる。16MCVは戦車とは違い、整備された路上を主戦場とする。


 だが、即座に前線に殴りこむわけではない。敵戦車との戦闘は、同時に上陸した10式戦車に任せており、16MCVは後方での簡単な火力支援に留まっていた。そもそも、16MCV自体、本来は開戦3日後の緊急展開における即応的な火力支援車両として上陸させる予定で、10式戦車が本土からやってくるまでの繋ぎでしかなかったのだが、熱核兵器捜索に伴うゴタゴタで宮古島で足踏みさせられ、その間に10式戦車が間に合ってしまったのである。

 そのため、本来の予定を変更して、持ってきた10式戦車を大量に伊良部島・下地島に送り込み、敵戦車の撃破をさせながら、16MCVは予定より少数に抑えて後方の警備及び火力支援を担わせることにしたわけである。また、一部は人質収容施設となっている学校の警備にあたるために10式戦車に同行するが、バイソン2-7にはその任務が来ていない。なので、織部の張り切り具合とは裏腹に任務自体は割りと“地味”であった。


 とはいえ、油断はできない。神出鬼没という事態はありえる。敵の水陸両用戦車は、2種類とも10式戦車の相手ではないであろうが、万一に備えるのが戦争の世界である。今回バイソン2-7は、伊良部島西部の警戒を任されていた。


「普通科の連中が近隣を見張ってるが、ここいら辺の敵は大体片付けたそうだ。RPG持ちも大量に“狩った”と連絡がきてる」

「じゃあ俺ら出番無くないですか? ようやっと上陸したのに」

「別にいいじゃねえか、俺はまだ死にたくねえんだから」

「不真面目すぎて泣けてくらぁ……」


 宮野が呆れたため息をつきながらそういった。ただ、実際、自衛官といえど死にたくはないのは間違いない。伊達に至っては、単に生活費の足しにするべく入った人間に過ぎず、そこまで国防や安全保障に興味がある人間ではなかった。金を稼げればそれでいい。そのついでに、国とか人とかを守るだけ。その程度の考えしかない人間であった。

 だが、それゆえ彼には精神的なゆとりがあった。特段悩みも何もないという背景は、自衛官としての彼の技術・教養の成長を後押しし、35歳でさっさと車長の命を受けるまでにさせた。自由奔放といった彼の気質は、部下であるこの車内にいる3人を纏め上げるのにも役立っている。極端な愛国心などいらない。いるのは、程よい度胸と、適度な余裕だ。そのためか、


「(はぁ、さっさと帰ってエロ本みてぇ……)」


 戦場にいるにもかかわらず、そんなことを勝手に考えてしまうほどに、“不真面目”だった。凛と整った顔からは見えない、極めて個人的かつ自由な思考であった。


 目的の場所に到着し、近隣の普通科隊員と連絡を取る。


Platプラット6、こちらバイソン2-7。現在伊良部小学校正門近く。支援はいるか? 送れ」

『バイソン2-7、こちらプラット6。敵はすべて排除した。こちらは大丈夫だ。送れ』

「さっき何両か装甲車両が粉々になってるのみたんだが、あれそっちがやったのか? 送れ」

『通りすがりの10式がオーバーキルしただけだ。送れ』

「……マジかよ」


 相手がただの輸送用の装甲車両であるとはいえ、10式の120mm滑腔砲は何をどう考えても過剰攻撃オーバーキルにも思えるが……、しかし、だからといって機関銃を使ってだらだらとHP削っている場合でもないというわけであろうか。

 そんなわけで、伊達たちが来る前にもう仕事は終わってしまったらしく、完全に出てくるのが遅かったオチ担当と相成ってしまった。しょうがないので、予定通り近隣警備に当たることにする。


「結局、俺たち大した仕事なさそうだな」

「楽でいいっちゃいいですけどね。お前も、基本的に何もしなくていいから楽だよな」


 そう宮野に声をかけられるのは、装填手の『柊』である。が、彼は何も答えず、ただいつでも装填できるような姿勢で留まっていた。「はぁ、またかよ」と宮野はボヤきながら、


「おいおい、たまには口開いてもいいじゃんか。お前LCAC乗ったあたりから一言もしゃべってねえぞ?」

「……必要ないので」

「お前はロボットかってんだ」


 そうガクッと肩を落として前に姿勢を向きなおす宮野。ロボットと時折揶揄される彼は完全に空気も同然だった。比較的最近入った新人であったが、本当に何もしゃべらないので、宮野から“自動装填装置”呼ばわりされる始末である。16MCVには装備されていないのにだ。

 ともあれ、特にこれといった仕事なき彼らは、県道204号線を中心に長浜の一帯を警戒することにした。ぐるぐる回って敵がいないか見張るだけ。空からは、宮古島から出張ってきたAH-64DやOH-1が見張っているので、少なくとも車両戦力による奇襲もされにくい。敵の歩兵さえ気をつければ何ら問題なかった。その歩兵も、先に上陸した味方によってほとんどやられていったようで、中々顔を出さない。


「(あ、そういやまだウ○娘ログインしてなかった……。ゴルシ生きてっかなぁ。食事やってないんだよな)」


 ゲームのことすら考えるほどに暇になってしまった伊達。しかし、その思考をかき消す無線が飛び込んでくる。


『ガウル2-1から各隊! 西に向かう装甲戦力を確認、車種は不明! 誰か仕留めてくれ、こっちからは手が出せない!』

「ガウル2-1……ヒトマルか?」


 ガウル2-1は、上陸した10式戦車の1両である。ついで報告された敵の位置と方向を確認すると、敵は伊良部島北部沿いをぐるりと回って西進していったらしい。その先には佐和田の集落があり、さらに南には、伊達たちがいる。

 こちらに来るとなってはマズイ。伊良部小学校にはまだ数百名の人質がおり、普通科が警備に当たっている。96WAPCや89式装甲戦闘車(FV)が数量守っているとはいえ、早い段階で倒すに越したことはない。味方の位置を改めて確認するが、一番近いのは自分たちのようだった。


「こりゃ、休暇取り消しですね」

「ちぇっ、休めると思ったのに」

「愚痴ってないではやく連絡とってください。オリちゃん、仕事だよ」

「よっしゃキタコレ!」

「はいはい……。あー、CP、バイソン2-7。こちらが行く。誘導願う。送れ」


 少しダルそうな声で前線指揮所(CP)に連絡を取る。護衛艦『かが』におかれており、陸海空の要員が揃っていた。CPからは、直ちに北上し敵装甲車両を破壊するよう命令される。AH-64Dも、別の人質収容施設を護衛するために東進しており手が出せないようである。


「ほいじゃ仕事だ。織部、そのまま北進。急いで市街地突っ切れ」

「了解。じゃ、県道そのまま北西に突っ走りますね」

「許可する。広い道路から行こか」


 指示に従い、織部はアクセルを踏み込んで二車線の道路を猛進し始める。伊良部島は比較的小さい島であるため、概して道路は狭い。大抵は一車線であり、車一台がちゃんと通ることができればいい程度の幅しかない。大きな県道でも二車線しかなく、それも数が少ない。走りにくいことこの上ないのだ。

 だが、織部は何の躊躇もなく時速60kmの猛スピードで二車線道路を駆け抜ける。全体で見れば大型車に分類してもいいであろう16MCVを、こうも猛牛の如き速度で突っ走らせるその度胸。やはり彼女が操縦手でよかったと、伊達は心の底から思った。


「コースが正しいなら、ここをまっすぐ行けば敵が見えるはずだが……」

「県道はもうすぐ右に曲がります。私たちも曲がりますか?」

「ああ。曲がって、3つ目の十字路のところでスタンバろう。そこで待ち伏せする」


 伊達の指示通り、県道204号線が右に曲がり60mほど行った地点で、織部は車両を止める。目の前には十字路があるが、適当な民家のコンクリートの塀に車体の前半分を隠しつつ、砲塔を東の方角に向けた。県道204号線から東を覗く形であるが、報告が正しいなら、最短距離で通るべく途中でこの県道に合流するはずだ。ここで待ち伏せし、74式戦車と同規格の105mmライフル砲から放たれる『91式105mm多目的対戦車榴弾』で以って、敵車両を撃破する。装甲車相手なら一撃必殺。確実に仕留められるはずだ。


「さあ、こい……」


 てぐすね引いて待ち構える宮野の前に、大きな影が姿を現した。道路脇にあった空き地を抜けてきたのか、草木を盛大に倒しながら、大きな影が県道上に乗り上げ、車体を伊達たちのいる方向に向け始める。県道を西進し始める車体の上には、大きな砲塔があり――



「――砲塔?」



 ――伊達はハッチにつけられた全周視察装置から、前方の敵車両を確認する。緑系に水色が混ざった中国海軍独自の迷彩、妙に角ばった車体、上半分は長い主砲がある主砲塔……。


「……マズイ」


 一言、伊達は冷や汗をかきながら言った。



「――あれ、戦車だ」



 ガウル2-1が見つけた車種不明の装甲車。それは、よりにもよって島内では最強の戦力である『05式水陸両用戦車(ZTD-05)』だった。島の北部を猛進し、伊良部小学校などの島西部の人質収容施設の自衛隊戦力を少しでも撃破しにきたのである。


「マジィ!?」


 砲手用サイトを覗きながら宮野がそう叫んだ時、伊達はZTD-05の砲身がこちらを指向しているのをその目で確認した。次の瞬間には、「走れ!」と一言叫ぶ。16MCVが前に向けて動き出したと思うと、ZTD-05から砲弾が一発放たれ、すぐ後ろを掠めて左側に伸びていた県道204号線の上をすっ飛んでいく。


「ヒィェッ!?」

「おいおい、アイツはヒトマルが潰すって話じゃなかったのかよ!」

「織部! そのまま突っ走れ! 早く!」


 伊達の指示通り、織部はすぐにアクセルをべた踏みして急加速を始める。それでもZTD-05は伊達たちのいる路地にも顔を出し、二度目の挨拶とばかりに砲弾を一発放ってきた。ここは織部が機転を利かせ、道路左にあった空き地に入って、そのまま向かい側にある、東西に伸びる別の道に入ることで難を逃れた。

 しかし、すぐに車体が通れないほど右が狭くなってしまったため、後方を警戒しながらバックし、下の道に戻る。体勢を立て直す中、車内には動揺の声が響いていた。


「05式って確か、俺らと同じ105mmっすよね!?」

「63A型に搭載していた奴を改良した国産の105mmライフル砲。性能も使用砲弾も大体うちらと似たり寄ったり。でも向こうは仮にも殴り合い前提の戦車で、こっちは普通科支援の機動戦闘車。装甲が違う!」


 脳内でZTD-05の性能を引っ張り出した伊達は、半分悲鳴にも聞こえる声で返した。ZTD-05の持つ主武装は、16MCVと同じく105mmライフル砲。砲弾もAPFSDS弾やHEAT弾といったお馴染みなものから、低空飛行中のヘリすらも攻撃できるとされている対戦車ミサイルまで取り揃えている。当然、装甲だって機動戦闘車の比ではないだろう。

 一応、16MCVはこういった水陸両用戦車に対抗する意味合いも込めて開発はされたものの、それでも正面から殴りあうことなどはあまり想定されておらず、侵攻前に事前に上陸した上で、入念の準備の下、普通科部隊を隣から支援しつつ闘うといった戦法がメインである上、それでも、10式戦車がくるまでのつなぎという意味合いがやはり強いのである。

 105mmライフル砲の攻撃は、10式戦車の正面装甲なら余裕で耐えられるが、16MCVはそうはいかない。歩兵火器の銃撃に耐えられる程度しか求められておらず、増加装甲をつけてもRPGに耐えられるかどうかというぐらいの防護力しかない。真正面から殴り合ったら間違いなく死ぬのはこちらだった。伊達がすぐに撃たず、逃げるよう織部に指示したのは、まさに“正解”と評するほか無かったのである。


「(クソッ! なんでこんなところにまできてやがるんだ! ヒトマルの連中は何をしていた!)」


 遠くにいる味方に悪態をつきながらも、どうか止めなければならないと頭を切り替える。ZTD-05の車体は幅が3mもあり、通れる道は限られる。だが、それはこちらも同じだ。16MCVも、幅は約3mほどある。狭い住宅地で戦うような車両じゃない。故に、慎重に道を選ばねばならなかった。


「織部、県道はスルーしてそのまま南に行って、どこでもいいから右に曲がれ! まだアイツは待ち伏せられる!」


 来た道を戻り、県道204号線を横切る。またいだ瞬間、牽制ついでにZTD-05がいるであろう西の方向に向けて砲弾を一発発射。しかし、当然狙いきれておらず、大きくこれは外れて別の民家に直撃してしまう。


「ッチァ! クソッ、外れた!」

「焦るな、まだチャンスはある。織部、このまま細い路地突っ走れ」


 伊達は宮野を落ち着かせると、敵がいた位置から大体の装甲速度をはじき出す。脳内で地図を引っ張り出して、待ち伏せする場所を選んだ。少し厳しい場所だが、織部の腕を信じた伊達は、織部に命令する。


「よし、そこだ。そこを右に曲がれ。車幅ギリギリだがいけるか?」

「任せてください、突っ切ります」


 織部の自身のこもった言葉に嘘は無かった。十字路のすぐ近くにあった畑に入って大きくUターンすると、そのままさらに曲がって西に向かう路地へと入る。本当に狭い道であり、放置されていた誰かの自転車も跳ね飛ばしてしまうが、構わず突き進む。このまま直進すれば、県道204号線と交差する十字路に入ることができるが、ここで、出会い頭にZTD-05を攻撃する腹積もりだった。


「特てん弾、装填完了」

「よし、一発だけいい。うまくいけば仕留められるはず……」


 そして、伊達たちは県道204号線との交差地点に差し掛かる。車体が一瞬見えた瞬間を狙って、16MCVは車体下部を狙って一発砲撃。キャタピラを破壊して動けなくしようと目論んだ。

 しかし、敵もその程度は予測していた。砲撃が来るタイミングを予測し、十字路に差し掛かるタイミングを見計らって急減速。砲弾は目の前でコンクリートの道路を跳ね、コンクリートの塀ごと奥にある民家を破壊してしまう。


「ちょっとミヤ君! 今の絶好のタイミングだったのに!」

「しょうがねえだろ! 向こういきなり止まりやがったんだよ!」

「落ち着け! 織部、すぐにとま――」

「いえ、このまま突っ切ります!」

「「え゛ッ」」


 伊達と宮野が揃って顔を引きつらせる中、織部は伊達の指示とは逆にアクセルを踏み倒し、高速で県道204号線をまたいでさらに奥へと突き進む。ZTD-05の車体前面が、16MCVの車体右側面をかすめ火花を散らすが、あまりに近すぎたか主砲を撃つことはなく、同軸の7.62mm機関砲を苦し紛れに放つしかなかった。それも、砲塔の旋回が間に合わず、16MCVの後ろの道路を荒らすだけであった。


「オリちゃん!? いくら自分の庭だからって無茶しすぎじゃない!?」

「だがラッキーだ! 織部、この先左に曲がれる道あるか!? そこから南に行って――」


 と、伊達が南に行く道を織部に聞き終わる前に、


「畑でもいいですか?」

「……え、畑?」


 一瞬意味が分からない返答が帰ってきた。しかし、織部はこれを「とりあえず南に行け」という指示がこの後来ると判断し、先んじてハンドルを左に回した。

 ……が、そこは誰かさんの畑である。並べられた大きめの石に乗り上げ、車体は上下に大きく揺さぶられて、男性約2名から悲鳴が上がった。


「オリちゃん今どこ走ってんのォ!?」

「どこって畑だけど?」

「畑ェ!? なんで道路いかないの!? 狭いけどいけるでしょ!?」

「MCVいけるような幅の道路使ってたら遠回りになっちゃうでしょ常考(JK)。だからショートカット入るわけよ」

「いやいやいや! オメェ他人の畑荒らしていいと思ってんのか!? てかMCVは道路走る兵器だったはずだろうが!」

「ちょっとぐらいなら大丈夫ですよ、安心と信頼のミシュランタイヤですから」

「いやそういう問題zyグワヘェァッ!?」


 また大きく車体が乗り上げ、畑を越えて別の道路へと出た。と思ったら、またすぐに隣の空き地に乗り上げ、草がボーボーと生い茂っている場所を強引に突き破るように猛進する。不整地ゆえに車体はガタガタと上下左右に揺さぶられ、さながらオフロードカーに乗っているような気分であった。


「れ、レースゲーム感覚で走っていい場所じゃねえんだぞ……」

「お、オリちゃん、MCVってこういうとこ走る車じゃ――」

「隊長、この先塀あるんですけど、乗り越えますから」

「乗り越える!? サラッとこの女飛んでもねえこと抜かしてやがるけど!?」


 確かに、この先にはまた別の道路と、そのさらに先には空き地とガードレールつきのブロック塀がある。その上には細い路地があるのだが、ここを乗り越えてさらに少し南にいくと言ってのけた。曰く、「多分これが一番早いと思います」とのこと。


「どうやって乗り越えるんですか。1mぐらいありますけど」

「お前はなんでこの状況で平然としていられるんだ」

「やっぱコイツロボットですよ隊長」

「隊長、この先砲撃してください」

「お前いよいよ悪魔としての正体隠さなくなったな? VRゲームしすぎて戦車ゲームと勘違いし始めたか?」


 伊達が頭を抱えながら悪態をつくが、そこから返ってきた、


「 は よ 」


 この威圧がかかった一言に、ついに大の男二人も折れた。


「目標! 前方のブロック塀! 撃てェッ!」

「オラァッ!」


 半ばやけくそ気味に砲撃し、見事塀の一部を崩壊させる。それを坂代わりに織部は駆け上り、一気に路上へ出ると、すぐ向かいにある空き地へと入った。だが、そこでも曲がらない。そのまま直進し、先ほどよりは低いが、またブロック塀である。もう色々と諦めた男二人は、素直にそれも砲撃して破壊する。


「(完全に召使いになっている……)」


 柊が無表情を貫きながら、二人の身を密かに案じていた。

 その間にも、車体は木をなぎ倒して、別の誰かの畑……だった、荒地へと入る。が、


「ちょっと待って!? ここもう誰かさんの家の敷地だよね!?」

「オリちゃん!? そこ目の前家なんだけど!? そこそこ立派な家なんだけど!?」


 彼らの目の前には、2階建ての白い建造物が立っている。ペンキがはがれて内側の木材が見えてしまっているが、どうも誰かさんのご自宅のように見える。ここから先、周りは家か高い塀ばかりで、完全に行き止まりである。近道なんていったのはどこのどいつだと、伊達はまたしても悪態をつく羽目になったが、速度を遅くしたと思ったら、織部は再び臆面もなくとんでもないことを言ってしまう。


「ご安心を、これは数年前に家主がなくなって今は完全に廃墟でございます。思い出の品は全部業者が回収したので存分に“解体”できます」

「解体……?」

「てことは?」



「――じゃ、撃って♪」



 次の瞬間、隊長はすぐに発砲を命令した。恐怖と悪寒を感じた。彼女の“命令”に逆らってはならない。その予感が、この若き男とおっさんの脳裏を支配してしまったのである。

 うまいこと破壊されて、無事“解体”された廃墟であるが、織部はそれを見るやいなや「アムロ、いきまーす!」と、どこかから怒られそうな台詞を吐きながら突進。瓦礫を突き破って、別の細い路地へと出た。そこで、ようやく織部は車を止め、砲塔が県道204号線のほうに向くようにする。気がつけば、目の前には二車線道路があった。あまりのダイナミックさに、流石に柊も無表情ながらに少し引いてしまう。


「これ、地主にちゃんと戦後処理費用下りるんですかね」

「知るかよ……もう、こんなのMCVじゃない……、ただの暴走したダンプカーじゃ……」

「で、でも、結構なショートカットに成功しましたよ! あとはここから……」


 気を取り直して砲塔の位置を固定する宮野。織部も彼に檄を飛ばす。


「速度から見てもまだ来てないはずだから、見えた瞬間一気に潰して! チャンスは何度も無いんだから!」

「分かってるよ。そう何度も外さないさ!」


 宮野は砲身も固定し、何時来てもいいように引き金に指を置く。柊も弾を装填し終え、発砲を待った。


「えっと、今の場所はここだから……速度が一定なら、あと20秒で来るはずだ」

「でも隊長、さっきみたいにいきなり止まってきたらどうしましょ?」

「こんなショートカットを予測して止まる奴がいたら、俺はそいつを予知能力者ファービジョンと呼んでやる」


 伊達の放ったそんなジョークもつかの間、20秒のカウントが一気に消費される。伊達がハッチを空けて、聞き耳を立てて、自分の乗っている16MCVのエンジン音以外の音を探し出す。


「……、きたッ!」


 それを聴いた瞬間、伊達はハッチの中に向けて叫んだ。


「撃てぇ!!」


 刹那、16MCVの105mmライフル砲は、今日3発目の特てん弾を放つ。ちょうど県道204号線に入った時、タイミングよくZTD-05が横切り、右キャタピラの前半分を破壊した。慣性と重力に従い、急減速の後、剣道の上で立ち往生してしまう。


「よっし! 当たった!」

「まだだ、残酷ではあるが仕留めるぞ。車体後部を狙い撃ちするんだ。織部、県道に出ろ」


 指示通り、織部は少しゆっくりと車体を県道の上にさらし、砲塔が旋回する空間を確保する。不意打ちを喰らったZTD-05は、動けなくなってもなお、砲塔を真後ろに旋回させようと試みるが、次の攻撃自体は、伊達たちのほうが早かった。


「次弾、装填よし」


 感情のないロボットの自動音声を思わせる一言が飛んだ瞬間、伊達は砲撃を命令する。


「撃てェ!!」


 4発目の砲弾は、車体後部を貫通し、車体内部で破裂。乗員らを即死させた後、弾薬に引火して大爆発を起こした。爆発の余波は16MCVにも及び、引火こそしなかったものの、大きく車体は揺れる。


「おぉ……」

「て、敵一両撃破。……ふぅ……」


 どうにか仕留めた。トドメとしてはやりすぎたかもしれないが、それでも、見つけ次第確実に撃破せよとの命令だ。悪く思うな。伊達は、車内で命を落としたであろう敵に対し、密かに詫びた。


「これだけの時間をかけて既にこの位置にいた。普通の道路通ってたら、小学校ギリギリの場所で撃つことになってたな」

「だから行ったでしょ? ショートカットだって」

「こんなショートカットなんざ聞いたことねえわ」


 呆れた顔を浮かべてそう横から口を挟む伊達であったが、しかし、結果として彼女の運転と判断が功を奏したのは事実である。咎めることなどできず、何ともいえない複雑な思いを抱く羽目になった。


「まあいい。とにかく、一旦小学校方面に戻ろう。態勢を立て直す。別の味方も大分揚がったはずだ」

「無線、入れておきましょうか?」

「ああ、すまんな柊。代わりに頼む」

「了解。CP、バイソン2-7――」


 柊が無線で報告している間、伊達は一つため息をついて自らを落ち着かせると、すっきりした表情で次の指示を出す。


「じゃ、そのまま県道を南進。他の味方と合流する。発進」


 16MCVは再び動き出した。今しがた自分たちが撃破したZTD-05のすぐ横を通り、新たな爆発に巻き込まれないようさっさと距離をとる。そのまま、16MCVは、県道の緩いカーブに沿って進み、住宅地の陰に消えていった。



 かつてZTD-05だった残骸は、未だに炎々と火を立てながら、孤独に燃え続けている……

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