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Guardian’s Sky ―女神の空―  作者: Sky Aviation
第10章 ―8日目:午前 Day-8:Forenoon―
73/93

10-4

≫同時刻 伊良部島 伊良部高校≪




 ――その地上は、朝日が照る中銃声が鳴り響く“賑やかな”朝を迎えていた。

 島にいた全ての特戦群がかき集められ、複数個所にある人質収容施設として使われていた学校を襲撃。敵勢力を迅速に排除する段取りだった。特戦群だけではない。脱出地となっている港や海岸は、少数ではあるが海自の特別警備隊が、警備のために昨日の深夜のうちに浸透している。

 特戦群が担当する襲撃拠点のひとつ。伊良部島唯一の高校である『伊良部高校』にも、特戦群が襲撃にかかった。人質が少なくとも400~500人程度押し込まれているという情報があり、襲撃のために1個小隊が充てられた。その中には、ソード率いる5班の面々もいた。


 作戦前の入念な打ち合わせの下、高校周辺への浸透がうまくいったことにより、襲撃そのものは怖いぐらいに順調に進んだ。敵もそこまで大量においていたわけではなく、人質は全て体育館に押し込められていたようで、中はさながら、災害時の避難所の如き様相を呈していた。


「多いなぁ……」


 小隊を指揮していたリーパーは途方にくれた。多い。多すぎる。実際に数えてみれば、600人弱もいた。1個小隊総勢32名でどうにかできる人数とは思えない。だが、それでも運ばなければならないのが、彼らの使命だ。

 陸自の迷彩服と認めるやいなや、体育館内は歓喜の声に包まれるが、すぐに落ち着かせ、自らの命令下に置く。


「誰か責任者いますか? 人員がここ以外にいるか把握しさせてください」

「ああ、待って! 座って座って! まだ動きませんから! もうちょっとお待ちください!」

「えぇ、犬? 愛犬ですか? あー、乗れますけど、抱きかかえてくださいね? 途轍もなく狭くなるはずなんで……」


 ガッチガチの装備を身につけた目出し帽の男たちから飛び出す、困惑気味の指示の声。やはり人が足り無すぎるのではないかとソードは思ったが、もう後の祭りである。一先ずは、作戦通りここで篭城戦に出ることにした。


「リーパーさん、LCACは?」

「今出た。水機が先遣持ってくるって。でもどうやったって数時間の戦いになる。しばらくは堪えるぞ」

「硫黄島思い出すなぁ……」


 そう遠い目を浮かべるソード。篭城の訓練自体はしたことあるが、こんな形でなんてあまり考えていなかったのだ。

 横須賀のJTF司令部では、この膨大な数の人質をどうするか、頭を悩ませていた。どこかに移そうにも、あまりにも大人数過ぎて処理しきれない。歩かせるわけにも行かず、かといって車両を使おうにも、島内にある動かせる車両は敵に分捕られた。当然、バスもある。

 一時は、民間企業に頭を下げて、大型バスを言い値で買い取った上で島にLCACで送り込む案もあったが、大量輸送に適した大型バスにもなると、LCACが乗り上げる砂浜に足を踏み入れた瞬間自重で埋まってしまうので意味がない。かといって小型のバスを使っても、輸送効率が落ちて、むしろ拠点の外を行き来する時間が増えるのでリスクが大きすぎる。小さな港湾でも使えるとして新たに導入したL-CATも、乗員育成が間に合っていないので戦線に出せない。


 ……というわけで、にっちもさっちもいかないと諦めた横須賀は、襲撃後は人質をそこに置いたまま、“篭城戦”を展開することにした。すぐさま輸送艦や宮古島から戦力を大量に送り込み、安全に避難できる環境が確保できるまでは、そこから動かずじっと耐えろという指示を出すことにしたのである。

 そのため、特戦群も増派され、さらに、先述のように沿岸部には特別警備隊も配置された。下地島空港を奪還できれば、そこから輸送機を使って避難させることが可能となるはず。それまでは、どうにかして島の中で耐えてくれという、苦しい判断をせざるを得なかったのである。


「(ご勘弁を、としかいえんなこりゃあ……)」


 だが、数百人といる住民を守るというのは簡単なことではない。体育館に全て押し込められているので比較的やりやすいとはいえ、それは逆を返せば、一歩間違えれば“大量虐殺ジェノサイド”に発展しかねない可能性があることを示唆している。責任はあまりにも重かった。


「ソード、正門前から外を監視してくれ。俺らも行く」

「了解。行くぞ、玄関先だ」


 ソードとリーパーは、部下たちを連れて正門前に来た。ここにはスライド式の門扉があったが、襲撃した際に破壊しており、爆薬によってひしゃげた門扉の姿がそこにあった。

 体育館側のほうと常に無線交信をしながら、敵を警戒。今はまだ来ていない模様であるが、念には念をとドローンを飛ばして、空から敵を探す。この時のために、災害派遣などで試験的に使われていた民生品改良型を陸自の開発実験団から急いで借りてきたのだ。


新無人偵察機システム(FFRS)だとかさばるからな。こっちは折りたたみ式でいい」

「最近の奴は画質もいいですからねぇ。で、チェリー。様子はどうだ?」


 ドローンはチェリーが操縦していた。機械系に強いチェリーが、ラジコンの要領で巧みにドローンのカメラを周囲に向けながら、ソードに伝える。


「今のところは何も……、あー、待ってください。東から何か来ます」

「歩兵部隊か?」

「かもしれません。バンと思しき民間車両が5台。県道90号線を西に向かっています。まもなく伊良部カントリーパークを通過」

「こっちに来るな。おい、出迎えの準備だ。交戦用意!」


 リーパーの指示の元、正門から少し出て、道路の影となるコンクリートの壁に隠れて応戦の用意をする。体育館側にも状況を伝え、別方向からの襲撃に備えるよう命じた。これが囮である可能性を排除しない命令でもあった。

 その後、リーパーの予測どおり、交差点を右折して北進を始めた。狙いは伊良部高校、間違いない。


「ッてぇー!!」


 リーパーの号令一下、一斉にHK416小銃の銃口から火が噴く。タイヤをすぐさまパンクさせ、後続車両がそれに追突して行き、敵の足並みを乱していく。

 すぐさま銃撃戦に突入。出てきた敵を一人残らず攻撃していき、最終的には車の燃料にも引火させて爆発を起こし、一網打尽とした。


「よし、仕留めた!」

「まだ来ます。今度は南から、トラック3台。即席のピックアップです」


 一瞬喜んだソードの隣からぴしゃりと増援を伝えるチェリー。「熱烈歓迎だな」と、ガクッと肩を落とすソードの隣でインターが苦笑しながら呟いた。こんな熱い歓迎なんてされてもうれしくないというツッコミをする気力はない。


「チェリー。北から来てるか?」

「北に敵はいません。少なくともここから半径1kmは車両が確認できず」

「よし、一先ずは南に集中しよう。ベアード、ライアー。反対側の歩道の草むらに入って狙撃しろ。遠距離から最大限潰せ」


 リーパーの指示の下、今度は二人の部下が道路を挟んで反対側にある草地に入った。そこから対人狙撃銃の銃口だけを南側に向ける形で出し、南からやってくる敵の即席ピックアップを狙撃する。数発の銃声が響いた後、至って冷静な声が無線に入る。


『オッケーです。全車両のタイヤがパンクしました。数名の敵が依然北上中』

「よし。可能ならそいつらもしとめろ。交差点を過ぎたら後はこっちでやる」

『了解』


 車から脱出した敵が自らの足で北上。交差点を過ぎて少ししたあたりで、双方200m弱の距離を置いての銃撃戦になる。今度は器用に鉄柱や隣接する建物などに隠れながらの戦闘となり、互いの弾が相手に中々当たらない。すぐ隣は高校の敷地と外を隔てるフェンスなので、そこをよじ登ろうとする敵もいたが、うまい具合に狙撃をすることでどうにか防いでいた。


「敵、北からさらに増援。車両2台。ピックアップ来ます。距離800」

「数が足りない。ピアス、聞こえるか? そっちも来てくれ。ちょいと手が足りなくなってきた」

「インター、ピクシー。反対車線側に行け。向こうの草木に隠れろ」


 そんな指示が飛び交いながら、北からも来た敵に立ち向かう。裏手に回っているか警戒しながら、正門を境に南北からやってくる敵に同時に対処する二正面戦闘。篭城が前提とはいえ、やはり人手が足りない上、武器も満足に持っていない。第一、軽MATすらも、かさばるからという理由から手元にないのである。


「(装甲車とか着たらどうする気なんだよ……)」


 そんなソードの嫌な予感は、残念ながら的中することになる。

 周辺を警戒していたチェリーであったが、南からの増援を報告する声が、少しだけ強張っていた。


「……デカイの来ました。装甲車1。恐らくWZ-523Aッ」

「そういう歓迎はいらないって言ってんだよ」


 ソードが思わず愚痴を口に出す。敵が持っている装輪装甲車。上部に重機関銃や擲弾発射機を搭載できる一人用砲塔を備えた、歩兵支援車両。上から見た限りでは、上部に乗っているのは12.7mm重機関銃。当然シールドもついており、こちらの銃弾で到底太刀打ちできる相手ではない。


「草木にいる奴は撃たれますよ」

「全員、一旦校門に戻れッ。蜂の巣になるぞッ」


 リーパーの命により、狙撃をしていたり北からの襲撃に応じていた4人が一斉に戻ってくる。その後、コンクリートの壁から体を少しだけ乗り出しながらの戦闘となったが、南側の交差点に、例の装甲車が陣取ってしまった。さらに北に行って、校門付近が見える位置にも移動してくる。銃座からの咆哮も響いてきた。


「うわぁ、盛大にばら撒いてる……」


 ピクシーが呆れ顔でそう言った。自分の進行方向に向けて、盛大に12.7mm弾をばら撒き、命中ではなく“威嚇”を目的としたような射撃を始めた。弾薬にある程度の余裕があるのだろうか。惜しむことなく連射し続け、草木は勿論、近くにあった建物もどんどんと蜂の巣にしていく。伏兵を警戒した結果でもあるだろう。

 だが、これではマズイ。今はまだそこにとどまっているからいいものの、これが更なる増援の伏線であるならば早めに始末したい。もう味方の第一陣は間もなく上陸を開始するという報告もあるし、普通科支援の戦闘ヘリも向かっているとの話ではあるが、あの移動速度だ。それまで耐えられるか分からない。


「(だから軽MATの一つや二つもってこれればって……)」


 だが、その時空の上からかすかに轟音が響いた。遠い空の上。先ほど、反撃の号砲をあげたF-35Aの機影が、本当に小さく見えていた。あれだけ堂々と飛んでいるのに、一発もミサイルらしいものが飛んでこない。さすがステルスと思いながら、これしか頼れそうにないという考えが、ソードの中に生まれた。


「リーパーさん。もうこれ空自に頼んだほうが……」

「これしかないか。やってくれるかな……」


 少し戸惑うリーパーだが、ここでてこずっていたら、別の場所から高校敷地内に侵入される。背に腹は変えられないと、すぐにリーパーは援護を要請した。


「CP、R03。対地攻撃支援要請。グリッドG24ポイント357。グリッドG24ポイント357。送れ」

『R03、CP。グリッドG24ポイント357、対地支援要請。5分待て』


 長い5分だなぁ……と思いながら、引き金を引く指と腕は動かし続ける。

 銃撃戦はさらに過激になっていった。北からさらに増援が南下し、東からは別働のピックアップが接近していた。一部は既に合流し、装甲車を盾にして安全地帯から銃撃している。


「装甲車、さらに北上しています。非常に遅くですが、銃撃しながら北上中」

「文字通り盾にしてるか」

「誰か軽MATマルヒト持ってないんか? これじゃあいつらと『你早ニーザオ』って朝の挨拶しねえといけなくなるんだがよぉッ」

「銃弾の挨拶が先に来るに決まってんだろ……」

「しかもそれ、友人相手にやるやつじゃない……」


 妙なボケを交えた愚痴を吐くインターだったが、その銃口は相変わらず北から来る敵に向けている。北からの敵は大した量ではないようだが、ちまちまとやってきてしまうので、逆にストレスがたまるというもの。弾薬も無駄しやすい状況である。

 少しして、空自から回答が来た。F-35Aが2機。機銃掃射のために低空で突撃をしてくれるという。既に命令は届いており、すぐにでもすっ飛んでくるらしい。


「ステルス機のクセして随分と大胆だなアイツら!」

「何でもいい! すぐにあのデカブツを鉄くずにしてくれりゃあ俺が直々に飯おごってやる!」


 そんなインターの投げやりな言葉に被せるように、どこからとも無く鋭い爆音が響き始めた。ドローンを操作していたチェリーが叫ぶ。


「来ました! 南東から2機、低空で接近!」

「チェリー、ドローンを下ろせ。彼らの邪魔になるな」

「了解!」

「奴ら、銃撃に夢中で気づいてないぞ。耳栓でもやってんのかッ?」


 ドローンをすぐに地面に下ろしていく隣で、インターが少し笑いながらそう叫ぶ。事実、敵は相変わらず銃撃を続け、F-35Aの音にそこまで気づいていない様子だった。インターの言うとおり耳栓でもしているのか、脳内で余計な音をシャットアウトしてしまったのか。しかし、戦闘機はあっという間に上空に到達する。


「全員伏せろ! 耳ふさげ!」


 リーパーが叫び、瞬間的にその場にいた全員が一斉に伏せた数秒後には、間近でチェーンソーを全力で動かした時のような銃撃音が響き、すぐ上を爆音と共にF-35Aが通り過ぎていく。2機が通過し、爆音が大分遠くに飛んでいったと思うと、気がつけば、銃撃音も鳴り止んでいた。


「……やられたか?」


 一人の隊員が影から覗いてみた。


「……おぉ、完全にやられましたね。装甲車両は大破。お隣で銃撃してた連中も巻き添え食らってます」

「よし。すぐにCPに連絡しろ。敵装甲車両勢力は撃破。協力に感謝」

「あとで俺が酒おごるって言っといてください」

「自分で言って来い」


 そうスパッと拒否されてしまうインターのしょんぼり顔を見ながら、ソードも影から覗いてみる。

 一言で言ってしまえば、凄惨な光景であり、大破した装甲車両の周辺の地面は血で染まっていた。所々に落ちている大小の破片は、あれは鉄の破片ではなく、肉の破片であろうか。グロい映画に慣れていない人間が見たら、間違いなくこの場で“口から戻していた”場面であろう。幸いにして、ソードはそういうのには比較的強いほうであった。


「チェリー、敵は?」

「南からトラックが3台着てますけど、戦闘機の銃撃見たのか、ちょっと足踏みしてます。滅茶苦茶遅いです」

「そのまま海岸まで帰ってくれればいいんだけどな」

「無理な相談だなインター。なに、もうすぐアパッチが来るはずだ」


 果たして、アパッチが彼らの上空に到着したのは、その言葉から1分もしない後のこと。2機のアパッチが上空にたどり着き、近接航空支援の体勢が整った。彼らは少し南の方角に行ったと思うと、先ほどチェリーが発見したトラックを攻撃していった。盛大に爆発していたので、恐らく弾薬辺りを積んでいたのだろう。


「よっし、これで戦況は傾く。あとはこっちのもんだ」


 そう確信するように言うインターの隣から、リーパーが無線で聞いた内容を伝達した。


「すまん、ソードのとこすぐ出れるか?」

「でれますが、何かあったんで?」

「下地島空港の方面苦戦してるらしい。援軍持ってきてって話だから俺たちについて来い」

「こっから下地っすか? それよかあがってきた水機の連中に任せれば――」

「そっちはそっちで別任務だから俺たちってことだ。96式装輪装甲車タクシー遣すらしいから一緒に来い」

「うへぇ、今日はずっと移動しっぱなしだなぁ……」


 肩を落として深いため息をつくインター。実際、今日はあっちこっちに動きっぱなしで、最後に休んだのは12時間前の仮眠の時だった。ブラック企業よろしく超過勤務一直線コースであり、「戦争終わったら有給1ヶ月絶対取る」と豪語するインターの顔と来たらすさまじいものがあった。特殊部隊員だって休みがほしい。

 程なくて、確かに96式装輪装甲車(WAPC)が到着。護衛には16MCVも1両ついていた。先遣隊の上陸のついでに、少数ながら火力のある装甲戦力も揚陸させたらしい。

 間もなくここにも他の守備戦力が到着するらしいので、ソードたちはここで96WAPCに乗って一路下地島空港へと向かう。


「じゃ、行くぞ。代金は向こうで貰うから」

「おいおい、俺たち無一文だぞ」


 そんあジョークを乗員たちとかわしながら、ソードたちは車体に揺られる。結構な速度を出しているためか、中々に揺れる車内。主要な橋がいくつか落とされているので、遠回りにはなるが、一番南側にある伊良部橋を通って下地島に入るらしい。

 無闇に武器を落とさないよう必死に抱える中、少しして、大体どこら辺にいるか気になったソードは、隣にあった外部視察用の側面窓を少しだけ開ける。ちょうど橋を渡るところらしく、透明感のある入江を眼下に、より遠くを見ると、海側に水しぶきが上がっているのが見えた。



「(……お、来た来た……)」




 そこにいたのは、海岸にビーチングした、LCACの姿であった……

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