9-2 一時休戦
②
「もういいですよ!!じゃあさっさと封印して終わらせようよ前王さま!」
蚊帳の外状態だった前王さまに話をふると短い手(羽)を大げさに振りながら”無理”と一言返された。何故だ。
「それは無理なんだよ。封印魔法は強力な魔法だからね、体に魔力の欠片がなく抵抗力のまったくない人間でないとファーレ様の本来の力が発揮できないんだ」
『そういうことよ。わかったらさっさとその汚い器をよこしなさい』
「16年しか使ってないのに汚いとか言われた!!ようやく解放されたのにまた戻されるなんて嫌ですよ、ペン子には申し訳ないけど」
「そ、そう言わずにね?早くしないとホロの体がもたないんだよ~」
魔王さまが弱弱しく訴えてくる。私の隠していたS心がうずきそうになるが、それを必死に抑えて前王さまを見てみた。
「お元気そうじゃん。大丈夫大丈夫」
「見た目は変わってないんだけど魔力は確実に弱ってるんだよ、このままじゃホロの精神が崩壊しちゃうよっ」
今にも泣きだしそうな魔王さまに少しだけ良心が痛んだ。私はまったく悪くないけど。
「はよ帰りたいんやったらさっさと終わらせたほうがええんやないか?つーか、しぶってへんで早せえ」
「イエッサー」
ドスの効いたお声で諭され(脅され)たため、つい敬礼で答えてしまった。はっとした時にはすでに遅く、魔王さまは安堵して死神さんに戻せるかどうかを尋ねていた。まあでも戻せなかったらしょうがないよね。
「承知した」
あ、戻せるみたいです。
「えーやだやだぁーー」
うわーんと駄々をこねてみた。が、案の定引っかかってくれるのは魔王さまのみで他の面々は冷ややかな視線を送ってきた。死神さんは微笑ましそうだが。
「泣かないでのばなちゃん。あ!これが終わったらケーキをご馳走するよ、ね?」
「・・・・・・・・・2つ?」
「うんうん、2つでも3つでもいいよ~」
「よっしゃ!忘れないでね魔王さま!!」
やっぱり何かするからには対価が必要だよね~、とルンルン気分でスキップをしていたがトウドウさんにヘッドロックをかけられた、けど気にしない!
そんなお花畑脳内の私とは対照的に、その場はシリアスモードに突入していた。魔界の人のスイッチの切り替え方って本当にどうなっているんだろうか。そう考えている間にも、私はまたよくわからないモヤに包まれていたりする。
死神さんからの説明によるとこのモヤは、私の中にあった前王さまの魂を追い出すために放っていたそうだ。そして私から追い出された魂が行き場を失っているところに、ちょうどいいペンギンが現れたためそれに入ってしまったということらしい。
『ふう、家畜から家畜に移動するだけなのにすごく疲れるわ』
「家畜じゃなくて人間です。後、疲れるのであればこなくてもいいですよ別に」
『これだから教養のなっていない家畜は嫌なのよ。このあたしを迎え入れられるだけでも有難いと思いなさい』
モヤに包まれている最中に中身前王さまのペン子と取っ組み合いをしていると、急に体の中に異物が入り込んでくるような感覚を感じた。私が奥に沈められているような、そんな感じ。