4-1 ダンスのお相手は誰だ
①
こんにちは、草間のばなです。
ある日突然魔界に生贄として連れて来られた私は、火あぶりにされる日を今か今かと待っている・・・・・わけではなく、ピンク色のしゃべるペンギンに魔界についての知識、そしてパーティに出るためのダンスを習っていた。
そうダンスですよ?盆踊りもまともに踊れない超現代っ子の私が、ステップを踏むダンスなんて出来るわけがない。しかも、何が悲しくてペンギンに相手をしてもらわないといけないのか。
「はーーーー」
『のばな様!!わたくしの足を踏まないでくださいまし!』
「踏みたくなくても踏んじゃうよ。いや、それよりも腰がかなり限界なんですけど・・」
ペン子とのダンスは幼児とする時みたいに腰を物凄くかがめないといけない。ステップを踏む以前の問題だよね、これ。
「うぉー腰がぁ・・ペ、ペン子よ、ちょっと相手交代しない?」
『何を言うのですか。のばな様はわたくしでは不満なのですか?言っておきますが、わたくしのダンスの腕前は陛下よりも上だと言われているのですよ?』
「ま、マジでか。ってそういう問題じゃなくてさ、身長の問題でしょ!このままじゃ本番の前に腰が終わっちゃうよ」
本番なんて言ってるけど、まだ儀式を引き受けたわけではない。しかし、成り行き上勉強とダンスは強制になってきていた。断りを入れようにも魔王さまの後ろにダークマターもとい、補佐官様が控えているため、そんなことは口が裂けても言えなかった。
『ふむ、確かに小柄なわたくしと大柄なのばな様ではつり合いが取れないのも事実ですね』
「大柄じゃないから。ペン子がかなり小さいだけだから」
『しかし今城の者はパーティの準備で忙しく、のばな様の相手をして下さる方がいない・・・・ああ、陛下がおりましたね』
「は?」
妙案とでも言いたげな顔をしてペン子は扉に向かった。
『少々お待ちください。陛下ももうお仕事に一区切りつける頃合いでしょうし、確認を「いやいやいや!!」はい?』
「ま、魔王さま直々に教えを乞うなんて恐れ多いよ!他の暇そうにしている人を探そう!」
とてもじゃないが、あの美形に教えてもらうなんて多分きっと顔がヤバいことになってしまう。私も一応女なので、あんな顔の整った人に至近距離で見られるなんて無理だ。
しかし、そんな私の思考も知らずにペン子はそれを無視して魔王さまを呼びに行ってしまった。
「やべー逃げようかな。ダメだ、包帯が追いかけてくる。どうしよどうしよ」
おろおろとせわしなく動き回るも、良い案は浮かばず、結局ペン子が帰ってくるまでぐるぐるとホールをうろついているだけだった。
『お待たせしました。申し訳ございません、陛下はまだ執務中でした』
「そっか!そりゃ仕方ないよ!じゃあまたペン子と踊るんだね~いや~残念だな~あっはっは~」
『全然残念そうにしておりませんけど?ですがご安心下さい。陛下の代わりの方をお連れしました、どうぞ』
「!!」
目の前の扉が開かれ、そこに立つ人物を見た瞬間、私は血の気が引いてしまった。
「よろしゅうな?お嬢ちゃん」
「がーーーん」
中に入ってきたのは、妖怪人間、いや包帯人間トウドウさんだった。
『がーんとはなんですか、のばな様!この方は貴女様のお相手にはもったいないぐらいの方なのですよ?』
「いや~もったいないっていうか恐れ多いから、チェンジで・・」
「嬢ちゃん。まさかこの俺に他の奴と変われとか言うんやないやろな?」
私の頭に置かれた手がメキメキと音を立てだした。ヤバい、変形する。
「いえ滅相もないっす。包帯さんがお相手で嬉しい限りっす」
「バカにしとるんか?」
頭の変形は免れたが、代わりにトウドウさん必殺のげんこつをくらった。
そんなトウドウさんは、清々しい雰囲気でダンスをするために私の腰に手を当ててきた。あれ?ダンスって腰に手を当てるものなの?さっきまでのペン子とのダンスは園児とのお遊戯感覚で手を繋いで踊ってたんだけど。
「自分やる気あるんか?そんな離れとったらやりにくいわ。ほれ、ここに手を添えて、ここ持て。よし」
「ト、トウドウさん。こ、こんなに密着するものなんですか?う、動きづらいし」
「これが普通や。なんや自分、ダンスも踊ったことないんか・・・ホンマに女か?しかも胸辺りぺったんこやないか、可哀想に」
「ひいいいいい、セクハラだあーー!!しかもかなり失礼だし!れっきとした女だよ!!」
トウドウさんは私の胸を凝視しながら、とんでもないことを言い放った。
胸がなんぼのもんじゃい、女は性格の良さで判断されるんだ!あ、性格も微妙だった場合はどうすればいいんだろうか。
とりあえず考えるのを止めてトウドウさんから離れ、ペン子の元に向かった。
「ペン子ーーこの人やだー」
『落ち着いてくださいまし、のばな様。トウドウ様もあまり悪ふざけはいけませんよ。女性の良さは体ではありません。どれだけ愛嬌があるかです!』
「嬢ちゃん、愛嬌って言葉知っとるか?」
「さあ?あ、近寄らないでください変態」
誰も味方はいなかった。愛嬌?知るわけない。今まで生きてきた中で愛嬌と名のつくことをしたのは赤ん坊の頃だけだ。
一方のトウドウさんは、私の軽蔑の眼差しもなんのその、気にせずにこちらに近づいてきた。私もそれに合わせて後ろに下がっている。
「変態て、男は少し変態くさい方がモテるんやで?」
「へーーそうなんですかー。でも私は嫌いです。・・だからこっちくんな!!」
いつの間にか種目がダンスではなく鬼ごっこへと変わっていた。広々としたホールを必死な形相で逃げ回る私とそれを楽しそうに追いかけるトウドウさん。そして端の方で大声を出して注意をしてくるペンギン。なんというか、とても他人には見せられない状況になっていた。