ひとまず一件落着です
合宿編はこれで一区切りです。何年かかってるねん。
さすがにこの後も歩いて帰るとか自殺行為でしかないからバスに乗って帰ることになった。
みんな運動したあとだから普通に疲れてるし、満腹だから下手に動いたら戻す自信があるので妥当な判断だと言えよう。
まあバスで酔う可能性もあるんだけども。・・・神に祈るしかない。
無事バスで屋敷に着くと本家とやらから戻ってきた白波先輩と月宮さんが出迎えてくれたのだが・・・。
「皆さんおかえり。 今日もたくさん楽しんだみたいやね」
「あれ? 月宮さん・・・口調が・・・あれ?」
「うふふ、どないしはったん? うち、変なことゆうた?」
いけない、紫苑が混乱しておる。あと月宮さん、そんなににやにやしてたら楽しんでるのまるわかりですぜ。
「うふふ。 いろいろあってえな、自分を偽るのはやめることにしたのん。 うち、ほんとはこんなんやけれど引き続き仲良くしてほしいんやけど・・・」
口調は軽いけどそこに込められた想いは本物だろう。
まあ素の自分で本音を語るというのは緊張するものだから多少はね?
しかし心配する必要などないのだ。生徒会の愉快担当(紫苑)を筆頭に少しぐらいイメチェンしたぐらいで友達止めるような薄情者などここにはいないのだから。
「もちろん! 口調が変わったのには驚いたけどね」
「えっと、私も。 月宮さん、いい人ですし」
「心配する必要なんてないですわ! この程度じゃわたくしたちの友情にはヒビすらも入りませんの!」
「まー、もう友達なんだから今更じゃん? ねえ彩芽?」
「そもそも私たちみたいのも仲良くさせてもらってるわけで、当然」
案の定満場一致で可決となり申した。パッピーエンドである。
ちなみに男どもはそもそもの絡みが少ないので少し離れた所で女性陣の友情を眺めながらうんうんと頷いている。
喋るくらいはしてただろうけど親しくしてたのって俺ぐらいだろうからね。白波先輩は婚約者だけどギスってたし。
そんなことを考えていたらギスっていた白波先輩から声をかけられた。
「楓さんとは正式に婚約を解消してきました。 思っていたよりも反対はされませんでしたよ」
「そうなんですか?」
婚約とか言ってるから正直もっと反対とかされるもんだと思っていた。
「最初から私たちの意思を優先するつもりだったようです。 もっとも少しばかり小言をいただいてしまいましたが」
なら良かった。望まぬ結婚を強いられる人はいなかったんやな。
「黒田、改めて礼を言わせてください。 ありがとうございました」
「礼を言われるほどのことはやってませんよ。 二人がちゃんと向き合った結果でしょう?」
「その向き合うきっかけをくれたのは黒田ですよ。 赤海と協力して色々考えてくれていたみたいですしね」
まじかよ赤海先輩の暗躍バレてた。その有能さを最初から発揮していただきたい。
「きっとあのままでは私と彼女にとって良くない結末を迎えていたでしょうからね。 だから、本当にありがとうございます」
・・・うん、なんていうか今までで一番良い顔をしている。憂いが取り除かれたイケメンとはこうも輝くものか。
「黒田さん」
イケメンに目が眩んでいたらいつの間にかに月宮さんがすぐ近くまで来ていた。
月宮さんは俺の手を取り、ぎゅっと両手で握りしめた。
「黒田くんもありがとうね。 うちらの恩人やきん」
そう言って笑顔を見せる月宮さんはとても綺麗だった。
そんな感じで一騒動あったものの無事に素の月宮さんは受け入れられて一件落着となった。
あの後白波先輩と月宮さんが話しているのを見かけたが先日のように固い空気はなく、まるで仲の良い兄妹みたいに話していた。
あれがあの二人にとって本来の距離感だったんだろう。
さて、それでは夜の用事を済ませてしまうとしよう。
そう、小鳥遊先輩からの呼び出しの件である。
どいつもこいつも夜に人を呼び出しおって俺の睡眠時間をなんだと思ってるんだという気持ちは覆い隠して約束の場所に向かう。
流石にこの屋敷の徘徊も手慣れたものであり迷うことはない。たとえ殺人鬼とか出てきても撒ける自信がある。もはや勝手知ったる他人の別荘である。言葉の用途が少なすぎる。
というか俺この合宿中呼び出したり呼び出されたりしすぎでは?一体俺はどういう立場なんだ・・・?
自分の立ち位置に疑問を抱きつつも足は止めない。だって待ちぼうけさせたら目覚め悪いし。でもこういう風に流されてばかりはよくない。そのうちちゃんと断れるようにしないと。
そんな未来の誓いをしているとようやけ呼び出された場所に近づいてきた。この屋敷広いんだよ。軽い運動だわ。
そんなわけで呼び出されたバルコニーまでやってきたのだ。
うーん、今日も晴れてて星が綺麗だ。
お?どうやら既に人がいる。おかしい、小鳥遊先輩がこんな早く来るわけ・・・!?
その人影の正体がわかった瞬間思わず物陰に飛び込んだ。我ながらナイスカバーであるが事態はそれどころではない。
な、なんで及川がここに!?待っているのは小鳥遊先輩のはずでは!?
はっ!ま、まさか・・・図られた!?あの基本ゴリ押ししかしない脳内ゴリラお嬢様に図られた!?
やばいそっちのほうが衝撃が大きい。
いや待て、もしかしたらアレだ。及川も誰かに呼ばれてて偶然待ち合わせ場所と時間が同じなだけかもしれない。どんな確率だよ。
そしてそれはそれで気まずい。ええい、仕方ない。確認するしかない・・・!
俺はドキドキしながら物影から出た。よーし、何食わぬ顔で。
「及川、こんな時間にどうしたんだ?」
「くっ、くくく黒田くん!?」
驚きすぎでは?いや暗がりから声かけられたらびびるな。
及川はよほどびっくりしたのか深呼吸を二回、三回としてから口を開いた。
「く、黒田くんこそどうしたのよ?」
「俺は小鳥遊先輩に呼ばれてな」
「え? 黒田くんも? 私もなんだけど・・・」
おわー、やっぱり図りやがったのかあの脳筋お嬢様!なんか企みそうな様子はあったけれども!
いやほんとなんなのこの状況は。たぶん俺と及川がなんか気まずい感じだからこんなことしたんだろうけどちょっと投げっぱなしでない?人のこと言えた口ではないけれども。
「えっと、そのね・・・あ、あんまり外にいると体冷えちゃうから私戻るわね。 小鳥遊先輩来ないみたいだし・・・」
「ま、待ってくれないか」
及川の体がビクッと震えた。
「その、だな。 及川、俺のことなんだか避けてないか?」
「それは・・・その」
この反応は黒である。やっぱり避けられていたらしい。
まあ俺自身も白波先輩や月宮さんの案件でほかのみんなとの関わりがおざなりになってしまった自覚はある。それで怒らせてしまったのならちゃんと謝らないといけない。
こんなんで距離とられるとかほんと嫌だし。
「悪かった」
「え?」
「俺この合宿中付き合い悪かったよな。 実を言うと白波先輩からちょっと頼まれ事しててな」
「え、そうだったの・・・?」
「・・・そのことばっか考えてたからきっとみんなに嫌な気分にさせてたこともあったと思う。 だからごめん、悪かった」
「ち、違う。 違うのよ、黒田くんは悪くないわ。 私が勝手に・・・」
いいや、誰にも迷惑はかけまいと考えてた癖にいろんな人に気を使ってもらったりした現状は言い訳もできないほどダメな感じだ。
「違うの! 避けちゃったのは私が勘違いして・・・!」
「お二人さん、今は夜やきん。 もーちょっと声抑えたほうがええと思うんやけど?」
「ひゃっ!?」
のわっ!? だれ!?突然の第三者の声に及川共々めちゃくちゃびっくりした。
心臓がばくばく鳴っているのを落ち着かせつつ声の見る。どうもバルコニーの入り口の方から声は聞こえてきたみたいだ。
そして俺たちの視線が向けられる中、バルコニーに入ってきたのは。
「月宮さん?」
「こんばんわやね、黒田さん美羽ちゃん」
相変わらず着物に身を包んだ月宮さんであった。
一区切りだと言ったな。あれは嘘だ。もうちょい続くんじゃよ。
ここでまた放置とかしたら流石に怒られると思うのでがんばります。




