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第16話 いざクエスト決行日

 それからトレーユ先生は再び地図の前に戻り、エステルも眼帯を装着すると彼女の横に歩いて行った。


「なるほど、だから記録要員ってわけね。ってことはその地図は、貴方がダンジョンに入って作ったってこと?」


 アンナの質問にエステルは首を横に振る。


「いえ、記録できるとはいっても、潜入が容易になるわけじゃありません」


 彼女の答えを、ヴァルカが代弁した。


「……動物を使ったか」


 彼の言葉にはっとするアンナ。

 トレーユ先生が正解だと言わんばかりに頷く。


「そうだ。魔獣は基本人間を積極的に襲う。逆に人以外の動物には、攻撃しない限り手を出すことはない。そこで先日、調教の完了した犬達に、魔力を込めた〈シムラクルム〉を取り付け、調査犬パーティーとしてダンジョンに突入させた。突入まで妨害は一切なかったよ」


 残酷な方法に思えるが、もはや人類に手段を選んでいる余裕はないのだ。


「……それで成功したってわけね? いっそのこと爆弾とかくくりつけて突入させてもよかったんじゃない?」


 アンナのアイデアは合理的だ。こちらから攻撃するまで人以外の動物が魔獣のターゲットにされないなら、爆弾などをつけて特攻させるのは一見有効そうである。

 ふぅ、とトレーユ先生は小さくため息をつく。そうしたアイデアが出るのは予想済みといった様子だ。


「結論からいえば……というより、この地図を見てもらえればわかるが、成功はしていない。〈シムラクルム〉に適合し、かつダンジョン突入用に調教が成功した個体は、全体の数パーセント未満のわずか五匹……それらを突入させたが、戻ったのは一匹だけだった」


「「……!」」


 その言葉に一同は衝撃を受ける。調教に成功したということは、徹底してこちらから魔獣には攻撃しないよう仕込んでいたはずだ。


「その一匹に記録されていたのは、残りの四匹が〝攻撃していない〟にもかかわらず、一瞬で新種の魔獣に、殺されてしまったという内容だ。最後の一匹も我々のもとに帰還したものの、怪我が酷くてな……間もなく死んでしまった。加えて〈シムラクルム〉の損傷も激しく、映像も数回の再生ののち中の記録ごと破損してしまった」


「待て待て! 魔獣は動物を攻撃しないんじゃないのかよ!」


 至極もっともなツッコミがアルフォンスから入る。皆も思っていたことだ。


「戦争が始まったばかりの頃、〝動物は狙われない〟という特性を利用し、実はすでに犬に爆弾をくくりつけてのダンジョン突入は何度か行われていてな。だが、結果はすべて失敗。当時は〈シムラクルム〉がなかったから、原因は憶測でしか語れなかった。〝犬が誤って魔獣を攻撃し、返り討ちに遭ったのだろう〟とな。つまり調教の失敗と見られており、育てるコストばかりかかって結果が伴わないことから、次第に使われなくなった」


「今回ダンジョンの〝偵察〟に目的を絞ったのは、過去の爆弾攻撃の失敗を受けてのものでしたが……この五匹による調査で、映像から〝人以外の動物も積極的に攻撃する新種の魔獣〟が原因とわかりました。つまり〝魔獣は人間しか攻撃しない〟のではなく、単純に〝我々が今まで、人間にのみ攻撃する役割を持った魔獣にしか、遭遇していなかっただけ〟だったんです」


 と、エステルが引き継ぐ。


「まあ、私が今一瞬で思いついたくらいだから、すでに試していて当然よね。突入まで襲われなかったことを思うと、ダンジョン内部のみ生息する魔獣ってところかしら」


 そうアンナは肩を竦める。


「今話した情報は、そう遠くないうちに、公開されるだろう」


 そうして一同の視線が、英雄達の持ち帰った情報――黒板の地図に向く。


「……では、前提を共有したところで、改めてブリーフィングを始めよう」


 トレーユ先生は、説明を続けた。


     ★☆★☆★☆★☆★☆


 それから――ヴァルカ達がダンジョンに突入する、クエスト決行日がやってきた。

 すでに二ヶ国の軍と世界連合軍、そして討伐者ギルドの志願者達を集めたダンジョン外区域を担当する軍が、東西に分かれて展開し、約二十万の魔獣と戦闘中であった。彼らはヴァルカ達よりも早く戦闘を開始し、ダンジョンを守るように周辺に待機する魔獣の群勢を、大きく左右から攻撃して注意を引き付け、予定している攻略パーティー突入ルートから可能な限り引き剥がす役割を担っている。作戦としてはその後ヴァルカ達が護衛パーティーに守られつつ、魔道による強化を受けた馬に乗り、一気にダンジョンに接近・潜入するというものだ。


 そして以後、各軍はダンジョンに注意を向けさせないよう、作戦が終わるまで戦い続ける。要するに、囮だ。その囮を引き受けた者達は、未来への希望になると心から信じて、喜んでその役割を全うしようとしていた。


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