第一章 ②
夕方、帰宅するとリビングに知らない男性と女性がいた。警察ですと男性が名乗った。
父はうつむいたまま何も語らず、母はとにかく泣いていた。
警察が帰ってからも隼人は部屋から出てこなかった。
玄関に戻ると、兄の靴がなかった。
いつも履いていた、真っ白なスニーカー。
私は、そのときようやく“理解してはいけないこと”を、理解した気がした。
でも私は、泣かなかった。
驚きもしなかった。
ただ、静かに部屋に戻って、ドアを閉めた。
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夜、リビングから父と母の声が聞こえてきた。
「本当に圭吾がやったのか…?」
「そんな訳ないでしょ!…あぁ圭吾お願い帰ってきてぇ…」
その言葉は、いつまでも耳に残っている。
夏の夜、外から聴こえる虫の音と一緒に。
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私はその夜、兄の部屋に入った。
机の上には何もなかった。
でも、引き出しの中に、真っ白なノートが入っていた。
何ページかめくってみたけれど、字は一切書かれていなかった。
ただ、最後のページに、何かを書いて消した跡が残っていた。
鉛筆でサラサラと塗ってみる。
(^∇^)この顔文字に何の意味が…?
何もわからなかった。
きっと兄が何を考えていたのかなんて、
私は一度も理解していなかったのかもしれない。
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私はその日から、兄の名前を呼ばなくなった。
「圭吾」って言葉が口の中にあるだけで、
喉が苦しくなるような気がして、息が詰まった。
そして、気づいた。
この家はもう終わったんだって。
でもその時はまだ「自分だけは冷静でいられる」と思っていた。
泣かなかったし、叫ばなかったし、誰にも話さなかった。
私は、この家族の中で、唯一まともな人間だと思っていた。
その思い込みが、間違いだと気づくのは――
もう少しあとになってからだった。




