第一章 ①
朝、兄の部屋のドアが少し開いていた。
いつもはちゃんと閉じているのに。
だけどその日は、隙間からカーテン越しの光が漏れていた。
私の部屋のドアを開けたとき、ふと視界の端に入っただけだった。
足音を立てないように、そっとのぞく。
部屋は無人。机の上には何もなくて、布団も綺麗に畳まれている。
でも、それだけじゃない何かが、そこにあった気がした。
違和感。
言葉にはできない、でも確かに感じる“おかしさ”。
でも私は、部屋をのぞくのをやめた。
ただ、自分の部屋に戻って制服に袖を通した。
・
その日、朝食は出なかった。
母は洗濯機の前にしゃがみ込んで動かず、
父はテレビの前でコーヒーを飲みながらニュースを見ていた。
私はいつものようにパンを焼いて、お気に入りのジャムを塗り、台所で立ったまま食べた。
リビングにも圭吾は、いなかった。
「お兄ちゃんはー?」
誰にともなく聞いたけど、返事はなかった。
返事がないことにも、誰も驚いていなかった。
•
通学路の途中、隼人が私の袖を掴んできた。
「ねぇ、お姉ちゃん、きょう学校休みたい」
「なんで?」
「わかんない。なんか、胸がきゅーってする」
普段は元気すぎて鬱陶しいくらいの隼人が、そんなことを言った。
私は何も言わず、彼の手を振りほどいた。
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午後、学校がざわつき始めたのは、お昼過ぎだった。
どこかの小学校で“事件”があったらしいという噂が回ってきた。
スマホのニュースを見た子が、教室で震えていた。
私はこっそりスマホを見た。
──「藤守小学校校門前で児童の遺体が発見される」
ニュースのタイトルだけ見て、画面を閉じた。
隼人の通う小学校の名前…
なぜだかわからない。
"もしかして" と思った。
心臓が、遠くの雷みたいに鳴っていた。




