第262話 高位の者でもルール違反はいけません
「と、ところで、アリサは何の用事で私の部屋に来たのだ?」
ブランの言葉で私は誕生日の招待状を渡しに来た当初の目的を思い出した。
そうだった。ついブランとゼランの隠れた才能に気を取られて目的を忘れるところだったわ。
招待状に関しては私の方の落ち度だから丁寧に謝罪する姿勢が大事よね。
私は姿勢を正しブランとゼランに向かって招待状を差し出す。
「実は大変申し訳ないのですが私の落ち度でお二人に誕生日の招待状を渡せていないことに気付きまして取り急ぎ招待状をお持ちしました。遅くなってしまい申し訳ありません」
二人に頭を下げて私は謝罪する。
正確にはキャサリンの妨害によるものとクリスの報告の遅れが原因なのだがどのような原因であれ主催する私のチェックミスなので言い訳はしない。
それに正直にキャサリンに妨害されたと二人に話したら奥宮に王族の血が流れかねない。
なにしろブランもゼランもモンスター王子なのだから。
私は怒られる覚悟で頭を下げたのだが私を非難する言葉は二人から聞こえて来ない。
あれ? 二人とも怒っていないのかな?
恐る恐る下げていた頭を上げるとブランもゼランもキョトンとした表情で私が差し出した招待状を見つめている。
「そういえば正式な招待状は受け取ってなかったっけ?」
「日時はあらかじめ聞いてたから招待状が来ないことに気付かなかったな」
確かにブランやゼランには口頭で誕生日の日時とか言った覚えがあるけど招待状が来てなかったことに気付いてなかったんかい。
異世界から来た私がこの世界のルールに合わせてやってるのにこの世界の住人がルールを忘れてどうするんじゃい。
そんなツッコミを入れたいところだがここはやはりあくまでこの世界のルールに従うべきだろう。
「口頭ではお伝えしてましたが正式な招待状を渡すことが遅れたのは私の責任ですので申し訳ありませんでした。どうかお受け取りください」
再び、私は謝罪の言葉を繰り返し二人に招待状を渡した。
「ああ、ありがとう。でも気にすることないよ、アリサ。招待状がなくても行くつもりだったし」
「そうそう。私たちが招待状なしで行ってもアリサは門前払いなんかしないだろ?」
そりゃ、ブランとゼランが急にやって来て門前払いできる人間の方がこの国では珍しいでしょうよ。
でもルールは守るべきものよ。
「もちろん門前払いはしませんがパーティー等は主催者からの正式な招待状があって参加できることはブラン様やゼラン様の方がよく知ってるのではないですか?」
「確かに異国から来たアリサよりはよく知ってるが少しぐらい規則を破っても問題ないのではないか?」
「法や規則はそれを守るからこそ意味があるんですよ。王太子や王子やその婚約者の私が規則を破ることは緊急事態以外ではあってはならないことです。特別な地位にいるとしても法や規則を遵守する心を忘れないでください」
どのような高位の立場の者でも法や規則を破っていいという理由にはならない。
それでも公務員として働いていた頃は高位の上司が横暴な行為をする現実はあったが。
だからこそ自分が高位の地位に就いた今はそんな上司と同じ行為などしたくないと強く思う。
今回の王族への招待状が遅れるミスはこの世界の規則違反に等しい。その責任を私は取るつもりでここにやって来たのだ。
「今回の招待状が遅れたことは貴族の規則違反みたいなものですから処罰は受ける覚悟です」
私がそう主張するとブランもゼランも顔を見合わせる。
「ではアリサは処罰を受けてもかまわないと?」
「はい。全ての責任は私にありますから」
「それならば私たちからのアリサへの処罰はアリサから私たちとの婚約解消をしないという約束をして欲しい。それでいいな、ゼラン」
「ああ、私もアリサへの処罰はそれでいい」
へ? そんなことでいいの?
でもそうか、それを受け入れるってことは今後婚約解消を武器にできないってことね。
やっぱりこの二人は頭がいいわ。
二人を攻撃する武器を失うのは痛いがここはそれで手をうっておいた方がいいかもしれない。
それを断ってもっと重い処罰を受けるのも嫌だしね。
「分かりました。今後は私から婚約破棄するとは言いません」
私がそう誓約するとブランとゼランの顔に笑顔が戻る。
う~ん、モンスター王子と戦う武器はまた新しく見つけようっと。
とりあえずブランとゼランのモンスター王子は攻略したから次はモンスター王妃のグリーン王妃ね。




