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カインサーガ  作者: サトウロン
炎の王の章
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炎の王編12

黒騎士が去ったあとはなんだか、緊張してるんだか、緩んでるんだかよくわからない雰囲気になっていた。

「とりあえずは、宿願の達成おめでとう、と言えばいいかな?リーダー殿」

「そこまで、手放しじゃ喜べないって」

カリバーンの言葉に笑顔で答える。

セリフは本心だが。

「だろうな。まあ、一年後には私も参加するつもりだ。リーダーほどではないが、ラーナイルの時より強くなっているつもりだ」

「あんたが仲間なら心強いよ」


カリバーンとの、会話の隙を見計らってルーナが飛び込んでくる。

というか、抱きついてくる。

「え、あ、おい、ルーナ?」

「心配したんです」

「う、それは」

「今まで、四月も待たせて、やっと出会ったと思ったらあんなのと戦って、ファイアボールも直撃してたし、わたしがいれば防げたかもしれないけど、足手まといになるのも嫌とか思ったんです、だから」

「言ってることは滅茶苦茶だけど、なんとなくわかった。ごめんな、ルーナ」

なんだか、堰がきれたようにルーナは泣き出した。

ホルスも、見たことのない妹の姿に戸惑っている。


「ていうか、天然なのにポイント稼ぎ上手いよな。お前負けるぞ、アズ」

「べ、別に勝負なんかしてないわよ。あっちが経験の差で勝ってるだけよ」

「めっちゃ、意識しとるわ」

アルフレッドはため息をつく。

アズの勝ち目は薄いようだ。

「だから、勝負じゃないってば」


その、弛緩した空気を一気に引き締めるように。

バラミッドの玄室に巨大な存在が顕現しようとしていた。

それも二柱。

カイン以外が警戒をあらわにする。

「どうやら、出れたようだな」

『ついに、妾は解き放たれり』

『ついに、我は解き放たれり』

炎の女神イクセリオンと邪神クトゥガー。

赤の魔力炉に封じられていた神である。

守護者たる炎の王の消滅によって、封印が解かれたのだ。

『そなたの助力に感謝いたします』

『汝の努力を称賛する』

「言われるようなことはしてないよ」

『いつぞやの妾の戯れ言の通り、そなたらの世界は終わりを迎えつつある』

『かつての我が箴言のごとき、汝らの住まいし世は滅びを迎えつつある』

『妾はそれに関わることはできぬ。だが、そなたへの恩義は忘れぬ』

『我はそれに関わることはできぬ、だが、汝への礼儀は欠かさぬ』

『我らはそなたのためならば、善神、邪神の境なく手助けをしよう』

思ったよりも、神々はカインに恩を感じていたようだった。

「とはいえ、魔力炉がこんな有り様じゃあな」

バラミッド内部の赤い脈動は、炎の王の消滅とともに動きを止めていた。

微かに薄い残光が、弱々しく灯っているだけだ。

それも、すぐに消えるのだろう。

ということは、だ。

俺が今まで酷使していた無限魔力も消えるということだ。

『そう、魔力炉という名の牢獄は破れた』

『左様、魔力炉という名の監獄は敗れた』

『しかし、我らの与えし加護はそのままそなたの技となろう。我らの礼と心得るがいい』

あのクード村以来の、左目の熱は消えていた。

意に沿わぬ契約とはいえ、長年身近にあったものがなくなると正直寂しい。

『それでは、妾は行く。息災でな』

『それでは、我は発つ。達者でな』

その言葉とともに、巨大な存在は突然消えた。

もう少し、神々らしい余韻を残した方がいいのではないか?

とは思ったが、千年以上囚われていたのがようやく終わったのだからしょうがないか、と考え直す。

神々が去ったことで炎の王との戦いもようやく、終結した。

終結したのだ、と思えることができた。


だが、それ以上に重い使命を受けている。

世界を滅ぼし得る魔王の復活。

善神にしろ、邪神にしろ、それに関わる気はないこともわかった。

そして、魔王の復活の前に既に何人か目覚めている魔王の配下ーー十人のミニオン。

一人一人が最低でもムンダマーラ並みの力量を持っている。

その対処も含めて、俺たちにはやることが山積していた。

残された猶予は一年。

俺も無限魔力に頼らない戦い方を修練せねばならない。


しばらく休憩したあと、俺たちは外へ出た。

どのくらいの時間、中にいたかよくわからないが東の空がうっすらと明るんでいた。

夜明けの、涼しい大気が頬を撫でる。

やがてくるだろう砂漠の熱気の予感が、肌をざわめかせる。

太陽がゆっくりと昇る。

砂の大地が照らされる。

明るくなりつつあるラーナイルを見ながら、俺は思った。

始まる。

終わりが始まる。

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