炎の王編10
カインが頭部に与えた会心の一撃も含めて、炎の王の手傷は相当のものだった。
もちろん、カインも少なくない傷を負っている。
しかし、比較してみれば炎の王のほうが重傷だった。
このまま行けば、カインは勝てるだろう。
その差はどこから来たのか。
千年の長きに渡り、大陸に起こる魔の者の跳梁を阻止してきた炎の王。
人型の存在としては大陸でも屈指の強さを持っている。
はずだった。
それが、19の小僧に遅れをとっている。
クード村での出会いの時は言うに及ばず。
グラールホールドの時には互角。
そして、いまここで追い抜かれた。
何が奴をここまで駆り立てるのか。
炎の王が知っているカインは、確かに強かったが強さに貪欲ではなかった。
そして、幾度か剣を交えて悟った。
私は彼には勝てない。
強さの理由はわからなかったけれど。
ならば私は彼がもっと成長できるように踏み台になろう。
その決意をもって、そして友であり魔王であるレイドックを止めてくれることを願ってーー炎の王は自身を構成する精霊にその身を委ねた。
魔力炉から流れる魔力を吸収して、炎の精霊は強化される。
その媒体たる炎の王ラグナを飲み込むほどに。
炎の王の深紅の鎧は燃え上がる業火に変わり、その深紅の剣は烈火の爪へ変じた。
現れたのは全身に炎をまとった魔人。
この姿こそ、炎の精霊王の顕現。
二度と元のラグナ・ディアスという人間に戻れない。
人間という枷を取り払った最終形態。
その決意は、カインも感じていた。
「俺は、あんたがいたから強くなれた。あんたのおかげでここまでこれた。ありがとな」
素直な感謝の気持ちをカインは述べた。
言葉はもう届かないが、炎の王にもそれは伝わっただろう。
魂の魔剣を再度構え、カインは駆け出した。
炎の精霊王は跳躍、空中から十階位相当の“ファイアボール”を五発、連続で放つ。
「な、一本の指から一発ずつあんなの出せんのかよ。いくらなんでも強化しすぎだろうがよ」
走りながら、カインは無限魔力を引き出し土の盾を大きめに展開する。
一発目は防ぐ、二発目は盾にひび、三発目は盾が砕け、四発目で盾を戻して回避、五発目はイクセリオンの加護と気合いで吹き飛ばす。
その間、長めの滞空をしていた炎の精霊王の着地点を見極め、剣から軽めの衝撃波を放つ。
放たれた剣閃は、着地直前の炎の精霊王の右腕に直撃、そのまま腕を切断する。
獣のように、炎の精霊王は着地する。
「腕一本なら上出来だ」と喜んだのも束の間、力を込めた炎の胴体から腕が生える。
「あいつ、もしかして一撃で倒さなければ復活し続けるのか?」
しかし、今のカインが炎の精霊王を一撃で倒すにはムンダマーラを倒したときの全力での衝撃波しか手がない。
ムンダマーラの時だって、アルフレッドに時間を稼いでもらって初めて放てたのであって、あんな獣のような挙動の相手に当てれる自信はない。
そのうえ、敵の攻撃は一撃一撃が致命傷クラス。
近接、中距離、遠距離なんでもござれの攻撃のバリエーションに、獣の動き、再生能力まで備われば倒しようがない。
考えている間にも、炎の精霊王は接近し攻撃してくるわ、距離をとって“ファイアボール”を投げつけてくるわ、それを回避するわでてんやわんやだった。
「くっそ、せめてあのファイアボールが拡散しなきゃ、避けようもあるんだが」
五連続で放たれるファイアボールは、それぞれ拡散しながらこっちへ向かってくる。
それが、逃げ道を塞いで魂の盾でしか防げなくなる。
防げば動きが止まる。
止まれば接近してくる、という嫌な攻撃ルーチンにカインの忍耐力がガリガリと削れていく。
とはいえ、苛立ちにまかせて無闇に攻撃すれば格好の餌食だ。
それにそんな結末だとしたら、炎と化した目の前の男が大層落胆するだろう。
そう考えるとカインはうかつには動けなかった。
炎の精霊王にとって、それは追撃の好機だった。
両手の指をカインに向ける。
「嘘だろ?」
カインの嫌な予想通り、十発の“ファイアボール”が一斉に襲いかかる。
十発の点なら、避けようもある。
しかし、十発のファイアボールはそれぞれの隙間をカバーするように向かってくる。
ついに、剣を解除し盾に全力を注ぐ。
重いファイアボールが盾に殺到、その耐久力を削いでいく。
八発目で、盾が崩壊。
九発目で、カインにかけられた加護を貫通。
十発目が、直撃!!
大ダメージと皮膚が焼け焦げる臭い、感触、熱さーーそれらを無視するように、カインは思考する。
今の攻撃が、ヒントを与えてくれた。
小賢しく動き回る相手は、点ではなく面で制圧する。
炎の精霊王が十発の“ファイアボール”でカインに大ダメージを与えたように。
カインは炎の精霊王を睨み付け、ニヤリと笑った。




