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カインサーガ  作者: サトウロン
炎の王の章
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魔法王国編15

炎から逃れ、外にでて仰向けに倒れた少年を二人は見た。

幼い日のカインだとアズにはわかった。

その生意気そうな、それでいて繊細な顔は年を経ても変わらない。

竜の背に乗る炎の王は、生き残りを見て飛び降りる。

そして、炎の王はカイン少年に向けて何かを語りかけている。

どうやら、この惨状を作り出したのが自分だと説明しているらしい。

次第に憎悪と憤怒に彩られるカインの顔が、それを証明している。


「これが奴の傷か」


アルフレッドがぼそっと呟いた言葉に、アズも頷く。

カインの心に、刻まれた炎の傷。

生まれ育った村、村人が訳もわからないうちに燃やされ、無くなってしまったらーー。

それは、大きな傷になるだろう。

アズのように、初めから何も無ければ傷を負うこともなかったかもしれない。

それはそれで、どうかと思うけれど。

やがて、炎の王はカインに魔法をかける。


「あれは、ゲッシュ魔法という」


マーリンが言った。

魔法の効果を上げるには、日々の修練、精神力の向上が欠かせないが、それを短時間でなす方法があるという。

それが、オース魔法とゲッシュ魔法だ。

オース魔法は、神々との契約だ。

その神によって効果は違うが、例えば炎の女神イクセリオンと契約を結ぶと、炎への耐久力と炎を操る精度、威力などが向上する。

しかし、炎以外への耐久力が落ちたり、操る力の難易度が上がったする。

だが、ゲッシュ魔法は違う。

ゲッシュ魔法は誓約。

それも、制限のある誓いだ。

何かをしたら、命を失う。

もしくは、何かをしなければ命を失う。

または、自分の一部を差し出す。

その代わり、オース魔法とは比較にならないほどの効果を得られる。

例えば、カインだ。

カインは、強制ではあるが左目を捧げている。

その代わりに、炎の魔法を自由自在に扱える。

ちなみに、魔力炉からの無限魔力を引き出すのはオースやゲッシュの効果ではない。

それは、魔力炉とのパイプを持っているかどうか、であるからだ。

だから、炎の王がそれをカインに与えた理由は彼にしかわからなかった。


そして、炎の王は去りクード村の火災は消えた。


「この後、わしーー本物のマーリン・ディランがたどり着き、カインを保護しプロヴィデンスへ連れていった」


マーリン、もしくはその幻影は呟く。


「クード村は放棄された。今は、燃え残った廃墟だけが残っておるのだろう」


過去の幻影は、徐々に薄れていく。

見るべきものを見たからか。

幻影は役割を終え、消えていく。


「これで、わしの役目も終わり。カインの心の救出はお主らに任せよう」


頼んだぞ、と言い残しマーリンは消えた。

クード村も、炎の王も消えた。

立っていた場所の感覚もなくなり、二人は水中にいるかのように漂う。

水底のように青く、薄暗い場所。

周囲には、泡のような、星のような光がキラキラと煌めいている。

さっきの過去のクード村の幻影もあの中にあるのだろう。


「あれは、カインの記憶なんだね」


「だな」


宙に浮かぶ、泡は記憶。

記憶から光が飛んでいく。

光は別の記憶へ繋がり、また記憶から光が飛ぶ。


「記憶から記憶へ、光が飛ぶ。それが、思い出すということ」


アズは魔族と精神を繋げたときに、この感覚を味わった。

これを直接、他者に飛ばすのを竜や、上位存在はよくやる。


その記憶の星海の底に、カインはいた。

膝を抱え、何も考えたくないかのようにふわふわと漂う。


「よお、元気か」


こういうとき、屈託なく話しかけられるアルフレッドをアズは凄いと思う。


「見たんだろ」


地の底から響くような声だった。


「ああ、お前の記憶。見た」


「なら、わかったはずだ。俺の存在の無意味さに」


カインが意識を失ったのは半ば自動的だったけれど、本人の意思もあったのだ、とアズは思う。

今まで傷だとおもっていたことが、最初から取り返しがつかなくなっていた。

幼いカインの居場所を奪ったのは炎の王だったけれど、ルイラムの魔法使いにすでに奪われていた。

あの焼き殺された幻影術士の見せた幻で、カインは知ってしまった。

マーリンの幻影が案内したようなことを、無理矢理。

そして、彼は心を閉ざした。


それはわかる。

わかるけれども。

でも、アズは口を開いた。


「カイン、あなたカッコ悪いよ」


「お前に何がわかる」


低い声、何も考えたくない、そんな気持ちが滲む声。


「わかんないよ。ぜんぜんわかんない。あなたは、カッコ良かった。あんなに強い緑の戦士に立ち向かっていった姿はカッコ良かったよ。でも、あなたには壁がある。それが、あの炎の王だってわかった。倒すんでしょ?倒すんだよね?じゃなきゃ、あなたこれ以上進めないよ」


「進む意味があるのか?目標も、もうないんだ」


「意味なんか、関係あるかッ!!」


アズはキレた、のだと思う。

うじうじと言葉を重ねるカインに対して、思ったことを口に出した。


「燃やされて悔しかったんでしょ?強くなりたかったんでしょ?敵討ちしたかったんでしょ?そして、炎の王は追ってこいって言ったんでしょ?」


「ーー悔しかった。強くなりたかった。仇を討ちたかった。だから、炎の王を追いはじめた」


「あと、どうするかは任せる。ただ、あたしはカインが帰ってくるのを待ってるから」


最後にそう言い残して、アズはファイレムにかけられた魔法を解いた。

そして、カインの外へ出る。

アルフレッドが慌てて、それを追う。

カインはそれを見ていた。

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