魔法王国編07
俺は捕まった。
上陸後、待ち受けていたらしい衛兵に囲まれ連行され、すぐに牢獄にぶちこまれた。
罪状は、結界保護法違反、結界船破損、結界船航行妨害などだ。
他にもいくつか、微罪があるらしい。
確かに、状況的に俺しか犯人がいない。
あの緑の戦士の襲撃のことも話したが信用してもらえなかったようだ。
ま、だろうな、と思った。
俺だって見なかったら信じないだろう。
そういえば、牢獄に入れられるのはこれで二度目だ。
ラーナイルの牢獄もひどかったが、ここも相当だ。
なにせ、防寒してない。
オオカミの毛皮だけが、俺の命綱だ。
牢獄は基本的に魔法が使えないようになっている。
誤解がとけるまで、出る気はないが火の魔法で暖めることができないのは辛い。
だいたい、連行から投獄まで早すぎる。
こういうときは、必ず何かが起きている。
ただ、悲しいかな。
俺は政治力というものがないからな。
ルイラムでのつてもないし、どうしたもんかな。
それから、一昼夜過ぎた。
寒さも耐えきれないわけではないが、余裕はない。
アルフレッドとアズはどうなっただろう。
食事も粗末なもので、乾いたパンと薄いスープだった。
その間、食事を運んできたもの以外、誰も来ない。
取り調べもないし、拷問もない。
何が起こっているのか、まったくわからない。
やっぱ情報って大事だわ。
とか思っていた。
さらに数時間。
物音がしたことに気付く。
それは、徐々に近付いてくる。
聞いたことのある声で。
「では、貴国は無実の旅行者を投獄している、と?」
「いえ、彼は重大な事件の容疑者です」
「ふうむ。おお、なんと寒い。これは帝国法に記された容疑者の人間的な生活の確保に違反するのではないかな?」
「それは、罰のためにあえて寒くしてあるのでして」
「容疑者、つまり疑いがかかっているとはいえ、いまだ罪人ではない者に先に罰を与えている、と?それこそ重大な違反ですな」
「いえ、それは言葉のあやと言いますか」
「そうですか。他国の外交の使者に対し、虚偽を述べたと。帝国への重大な翻意と見てよろしいかな?」
「いえ、そうではなくて」
「私が掴んでいる情報によると、被疑者はプロヴィデンスに住居、戸籍を持っている。つまり、プロヴィデンス国民ですな。そして、彼は結界船を襲撃したものがいて、それを撃退した、と証言している」
「それは、言い逃れです。薬物かなにかで混乱して、船と結界を傷つけた。それが真相です」
「私の情報は不確か、と?貴国の魔法使い協会に確認したところ、昨日の昼頃、ルイラム上空にて巨大な魔力が発生したということでした。それも二つ。また、乗客の証言によると結界を壊していたのは緑の戦士だという。これは被疑者の証言と一致します。ああ、もちろん。これは私的な意見であり、帝国の会見とはまた別ですよ?」
これだよ、これ。
押しの強さと、理論と詭弁。
まだ続くな、これは。
「看守長殿でしたか、あなたは。これはあなたの独断ですかな?」
哀れな看守長は首を横に大きくふって否定した。
「私は、言われた通りにやっているだけです。全ては上のジョルジュ長官の指示です」
「ああ、そうだったのですね。なるほど、あなたは自分の責任ではないのに真摯に説明してくださったわけですね。その責任感、評価されますよ」
そして、声の主はカインの労の前に来た。
「だから、政治力も鍛えたほうがいいと、言いましたね」
「ああ、俺も痛感している。それにしても久しぶりだな、ラオル」
「ああ、久しぶりですね、カイン」
プロヴィデンス帝国執政ラオル・ラオレシアだった。
すぐに、俺は釈放された。
今までの待遇とうってかわって、暖かい部屋に通され、暖かい飲み物を出され、ふかふかのクッションのついた椅子に、座らされた。
ルイラム内のプロヴィデンス帝国大使館である。
そこに用意されたラオルの私室だそうだ。
てか、大使館ごとに私室があるのかよ。
凄い凄いとは思っていたが、ほんとに凄い奴だったんだな。
「衛兵長官ジョルジュ。それが君を嵌めた相手だ。心当たりは?」
「ない、と思うがな」
「あやふやな答え、つまり冒険者はどこでどんな恨みを買っているかわからない、と」
「ああ、まあ、そうだな」
「まあ、考えるのはあとでいい。よく休めばいい」
「それは、まあいいんだが」
「ああ、君の仲間はすでに保護してある。どうぞ」
バタンと戸が開き、アズが走ってくる。
その顔は涙やら何やらでぐちゃぐちゃだ。
「うわああん、カイン。よかったよぉぉ」
「おいおい、落ち着けよ」
「まあ、よかったな。無事でよ」
後から入ってきたアルフレッドが、安心したように声をかける。
とりあえず、態勢は整ったが前途は多難だ。