魔法王国編08
翌日。
暖かいベッドで眠れる幸せを俺は噛み締めていたが、アズに叩き起こされ、引きずり出された。
ラオルの好意で帝国大使館を自由に使わせてもらい、拠点として俺たちは活動を開始した。
「で、確か、あてのようなものがあるんだよな?」
アルフレッドの言葉に頷く。
「ただなぁ。なんかどろどろしてそうなんだよなぁ」
「確かにね。だいたい、あのエライ人が来なかったらまだ牢屋でしょ?」
「そうだよなぁ」
「ま、行くしかないんじゃね」
「そうだな」
で、俺たちは昨日出てきたばかりの牢獄と同じ建物、ルイラム宮殿にやってきた。
なんか衛兵の視線が痛い。
噂によると、あの責められた看守長は寝込んでしまったらしい。
それが、俺のせいになっているのか、もしかして。
意を決して、声をかける。
「アベル殿に、面会を申し入れたい。カインが来た、と伝えてくれ」
衛兵はすんなり聞いてくれて拍子抜けしたが、もしかしてアベルはエライ奴なのか?
しばらくして、俺たちは宮殿内に案内された。
奥のほうまで歩かされ、やっとついたところは女王の間だった。
なんだか、この国に来てから驚かされることばかりだ。
趣味のいい調度品が、部屋中に置かれている。
私室のようだが、なぜここに案内された?
「むう、なんか俺たち騙されてないか?」
「考えすぎとはいえないわ」
連れの二人が首をかしげるが、ここまで来て罠もないだろう。
待っていると、見知った青いローブが現れる。
俺は早速、声をかける。
「久しぶりだな、アベル」
「そうですね、カイン」
砂の王国で、パーティーを組んだ魔法使いアベルはニコッと笑った。
「早速、トラブルに巻き込まれているようですね」
「まあな。もはや、体質だろうと諦めかけている」
「そうですか。大変ですね」
と、ざれ言のような挨拶をかわす。
「で、本題なんだが」
「ジョルジュさんの件は僕には対処できませんよ。管轄が違いますから。というより、プロヴィデンスの執政が絡んでる時点で関わりたくないです」
「奇遇だな。俺もそう思っている。ま、それは置いておこう。俺が聞きたいのは、フェルアリードのことだ」
そこで、アベルの顔を見る。
表情に変化はない。
いや、楽しんでいるような笑みを浮かべている。
「ああ、そっちですね。そういえば、そちらの方はラーナイルでお見かけしましたね。敵でしたけど」
アルフレッドはニヤリと笑う。
「凄腕の魔法使いがいた記憶があったが、お前さんか」
「それほどでもありませんよ。そちらのお嬢さんははじめまして、ですね?」
「はじめまして、アズ・リーンと申します。ガッジールより参りました。以後、お見知りおきを」
アベルの表情が、やっと変化した。
驚きに固まった顔だ。
「ガッジール、ですか。ああ、これは失礼しました。レディにする対応ではありませんでしたね」
おい、レディといわれて喜んでるぞ、アズのやつ。
「カイン。相変わらず、楽しい旅のようですね」
「まあな」
「そういえば、フェルアリードの件でしたか。実はですね。彼を含む、魔法使い連中の記録が散逸してましてね」
恥ずかしい話ですが、とアベルは続ける。
「情報はだせない、か?」
「いえ、出せないではなく、出せるものがない、ですね。正確に言うと。実際、ラーナイルではじめてフェルアリードに娘がいたことを知ったくらいです」
「そうか。だ、そうだ。どうする?アルフレッド」
アルフレッドは困った様子はない。
少しはやる気を見せたほうがいいぞ。
「このままでは帰れんが、どうするかな」
「父上に聞いて見ればいいのではなくて?」
その声に、アベルは苦い顔をした。
今までで一番感情がでている。
現れた姿は、若い女性だった。
整った目鼻立ちに、浮かべた笑みは年に似合わぬ妖艶さを醸し出していた。
俺は顔だけは知っていた。
ルイラムの女王にして、伝説の五人の一人かつ最年少の第13階位到達者、“氷雪の女王”。
イヴァ・ルイラムだ。
「陛下、それはご遠慮ください」
「父上は暇をもてあましているわ。私達の顔を見てもご気分は悪いでしょうけど。新しい方なら喜んでくださるわ」
楽しそうに、愉しそうにイヴァは笑う。
彼女が笑うたびに、アベルの顔は沈んでいく。
そういえば、先代の王は娘であるイヴァ・ルイラムに幽閉されたのだった。
それを愉しそうに笑うのは、かなり趣味が悪いぞ。
「どうしても、ですか?」
「そのほうが面白いでしょ?」
だめだ、こりゃ。
人が苦しむのを見て喜ぶタイプだ。
とにかく、俺たちはフェルアリードの情報を得るために幽閉された先代の王に会うことになった。




