魔法王国編05
甲板の上に降ってきたのは槍を持つ緑の鎧の戦士だった。
放っている魔力が半端ない。
黒騎士よりは下に思えるが、強そうなのには代わりない。
それに敵意も凄い。
邪魔者を排除するという意思をひしひしと感じる。
おもむろに槍を構える。
「来るぞ」
俺の声に反応したわけではないだろうが、声と同時に緑の戦士は駆け出す。
すぐに突きがくる。
強化してなければ、見えなかっただろう。
それほど早い攻撃だった。
炎の剣を展開するのもギリギリだった。
さらに連続で突き。
わずかに位置をずらして、攻撃がくる。
その予測がずれればおそらく致命傷を負う。
突きは十回連続できた。
その全てを防ぎきったが、奴にはスタミナ切れがないのか?
息をあらげることも、肩で息することもない。
次の攻撃の構えにもう入っている。
「カイン、私いくよ」
横合いから、赤い鎧の騎士ーーエリゴールが緑の戦士に飛びかかる。
しかし、緑の戦士の一撃でエリゴールは消える。
魔物も一撃かよ。
だが、このチャンスは逃さない。
エリゴールの方を向いたため、俺への注意が逸れている。
それは、ほんの一瞬だったが俺は動く。
魔力炉の炎を解放、剣にクトゥガーの加護を与える。
炎の王の大剣を模した剣で緑の戦士に斬りかかった、だが。
炎の刃は届かない。
戻ってきた槍が防いでいたからだ。
触れるだけで発火する炎の剣を槍は防いでいる。
見ると、接触面に空気の壁ができていて、それで刃を防いでいるのだ。
こいつ、炎の王並の使い手なのか?
空気の壁。
こいつ、もしかして風の王か?
炎の王がいるくらいなら、風の王もいるだろう。
水の王や、大地の王も然りだ。
けれど、そのうちの二人に出会い、戦う確率なんてどのくらいあるんだ?
俺の考えなんか、まったく気にしないで緑の戦士は三度、攻撃姿勢をとる。
そこに、アズが接近。
「“魔”の第一階位“ダークスピア”」
その呪文が、魔力を呼び集束してアズの手のひらに発現する。
生み出された黒い槍は、俺への攻撃を優先してまったく防御していない緑の戦士の脇腹をえぐり、貫通した。
脇腹に大穴を開けたままで、緑の戦士は立っている。
しかし、凄いなアズ。
思った以上のハイスペックなんだが。
魔物の召喚と、防御不可能の“魔”法。
正面から戦っても勝ち目がない相手に、大ダメージを与えるなんて。
緑の戦士は、不思議そうに自分の脇腹を見る。
そして、おもむろに槍を甲板に突き刺した。
あれを杖にして、何かするつもりか?
すると、緑の戦士の体が薄れていく。
と、ともにそこから風が吹き荒れる。
目も開けていられないほどの強風。
それが、吹き抜けた。
風とともに緑の戦士は消えた。
だが、まだ警戒を緩めるわけにはいかない。
少しずつ、風が戻ってくる。
それは緑の戦士の消えた場所に集まり、渦を巻く。
その渦の中から、緑の戦士が現れる。
脇腹の傷はきれいに直っている。
「嘘だろ」
「なおってる」
やはり、あれは風の王、もしくはそれに近い精霊だ。
精霊は、その属性の元素があれば消滅しない。
火の精霊は、火のあるところで消えることはない。
水、大地、そして風も一緒だ。
思えば、空というのは風の精霊にとっては最高の戦場だろう。
俺たちには圧倒的に不利だが。
もちろん、あと何度か致命傷を与えることはできる。
俺の魔力、アズの魔力、魔物の体力、それらがもてばの話だが。
それでも、緑の戦士を倒しきることはできない。
と、思う。
そう予測できてしまった。
さて、どうするか。
ここで諦めるという選択肢はない。
俺たちはまだ、何もしていないのだから。
緑の戦士は攻撃を再開する。
炎の魔力を脚に流し、回避重視の魔法に切り替える。
“ブーストダッシュ”と“ミラージュステップ”の二つの魔法を展開しながら、逃げ回る。
相手の攻撃パターンを解析し、反撃の糸口を探す。
アズは目を閉じ、瞑想している。
魔物たちと会話し、作戦を練っているのだろう。
あれが、風の王だとしたら。
その力は、神々のものを利用している可能性が高い。
炎の王の鎧がイクセリオンの、剣がクトゥガーの力だったように。
であれば、あの緑の鎧は風の旅人たる風神ソライアの、あの槍は嵐をさ迷う者ロイガーの力だろう。
生憎、邪神信仰には縁がなかったので槍のほうは無視するしかない。
攻めるなら、鎧のほうだ。
暴走しない程度に、魔力炉からできるだけ魔力を引き出す。
そして、防御重視の魔法を展開し、さらにイクセリオンの鎧も出す。
脚を止めた俺に緑の戦士は攻めかかってきた。
それをがっちり受け止めて、俺は言った。
「こっから、反撃だ」