魔法王国編03
「黒騎士に助けてもらったんだ」
とアズは切り出した。
正直、初対面の年の離れた女の子と普通に会話できるほど大人じゃない。
だから、会話の流れを向こうから作ってくれるとありがたい。
そういう気遣いが、できるのが大人で紳士なんだろうけど。
「ガッジールで」
「あそこって、まだ人が住んでるんだ?」
「まあね。ちゃんと数えたことはないけれど、千人くらいはいたと思う」
「あの戦争は19年前だったか。俺が騎士になったあたりだったな」
アルフレッドが感慨深そうに言った。
俺が生まれたあたりか。
ていうか、このパーティー年の差ありすぎだろ。
そんな話をしながら歩いていた俺達だったが、突然響いた轟音に空を見上げた。
雪が晴れた空を、巨大な円盤が向かってくる。
「な、なんだあれは?」
「ま、魔族にしては大きすぎるよ」
「落ち着けよ。アズはともかく、お前もまだガキだな」
な、アルフレッドに子供扱いされた、だと?
「私を子供扱いしないでよ!」
「子供だろうが?」
「私はまだ発展途上なだけッ」
そうこうしているうちに円盤は、近くに見える町の中心にある高い塔の上に止まった。
「あれはよ。結界船ていうんだ。ルイラムの空を巡っている。雪に覆われたルイラムのメインの交通手段だな」
「砂漠に籠っていたわりに詳しいんだな」
「ん、まあな。昔、来たことがあるんだよ」
「ま、いいじゃない。いきましょ、私あれ乗りたい」
子供らしい好奇心で、アズが走り出す。
俺とアルフレッドもついていく。
実は俺も乗ってみたい。
そういうのが、アルフレッドから言わせれば子供っぽいんだろうな。
峠を越えてたどり着いた町。
そこは、賑わっていた。
今、着いた結界船から降りてきた人たちが町に繰り出しているようだ。
魔法王国というくらいだから、魔法使いばかりかと思っていたけれど、ローブを着た魔法使い然とした人はごく一部だった。
戦士職もいたし、商人らしき集団もいる。
大陸にはあまり住んでいない亜人、ケズム族やドヴェルグも少ないながらも歩いている。
この雑多な感じは、プロヴィデンスの帝都でも見たことがない。
「ルイラムは北の大陸との玄関口だからな。貿易と交流は大陸で一番だ」
意外に博識なアルフレッドの説明に俺とアズは頷くことしか出来ない。
人の流れに、逆らいながら俺達は結界船の船着き場だといつ塔へ向かった。
船着き塔は次の搭乗手続きが始まっていた。
受付の若い魔法使いが、手際よくさばいていく。
俺達も列に並ぶ。
しばらく待って順番が来た。
アルフレッドもアズも手続きする気はなさそうなので俺がやる。
「カイン・カウンターフレイム他2名、王都まで」
「カイン・カウンターフレイム様ですね。何か身分を証明できるものはございますか?」
流れのアウトローな冒険者に、そんなものがあるはずもない。
アルフレッドは首を横に振り、アズは手のひらを上にあげた。
お手上げってことね。
「特にないんだが?」
「それではですね。魔法使いのランクをお持ちですか?それを魔法使い協会、いわゆる魔法ギルドに照会いたしますが」
はて。
魔法使いのランクか。
ラーナイルにいたころは“皇帝”だったが、ランクはあがってるだろうか。
こんなところで必要になるなら、プロヴィデンスかどこかによって確認しておけばよかった。
とりあえず、“皇帝”は確定しているからそれを告げる。
「ではカイン様。魔力の波長を測りますので少々お待ちください」
ここでも、魔力の波長か。
一般的な知識なのか?
少なくとも、俺は聞いたことはなかった。
養父であるマーリンーー大賢者からも、だ。
測定とやらは、一瞬で終わった。
受付の魔法使いが手をかざして、終わりだ。
「カイン様本人と確認できました。ただ、ランクのほうが“法皇”、ハイエロファントになっておりましたので、近いうちに魔法ギルドへ手続きしにいってください」
応と、返事をしたが俺は上の空だった。
さすがに、魔法王国だ。
魔法の技術が半端ない。
こういうのをカルチャーショックとか言うのだろうか。
古代魔道帝国の時代は、これが当たり前だったのかもしれない。
天を駆ける船、地をおおう魔法、高位の魔法使いが自在に魔法を操り、一般市民ですら自由に魔法を使う。
けれど、その時代は終わった。
俺達は、俺達にできることを積み重ねながら生きていくしかないのだ。
塔の上、結界船に乗るためのタラップを歩きながら、俺はそんなことを思っていた。