砂の王国17
笑みを浮かべながら二匹の獣は戦い続ける。
炎の牙でかぶりつく獣。
巨大な爪を突き立てる獣。
カインとアルフレッドの戦いは、そのようなイメージを見ているものに抱かせた。
そして、カインの剣に防御を弾かれたアルフレッドの顔面にカインの蹴りがきまる。
それで、終わりだった。
大の字で倒れたアルフレッドは息はしているが、動いていない。
カインは立ってこそいるが、砂色のマントはとうになく、革鎧もぼろぼろになっていた。
「俺の勝ちだ、アルフレッド」
「捨て身の勝利か。長生きしないぜ、お前」
そこで、アルフレッドは気を失ったようだ。
「お前らの最強の騎士は、俺が倒した。次にこうなりたい奴からかかってこい」
俺の叫びに、場が静まる。
血まみれだが、気分はよかった。
兵士らは遠巻きにしているだけで、近寄ろうとはしない。
「ええい、何をしている!敵は一人だ。押し包んで倒せ」
セトの号令に何人かが構えるが、前に出ていかない。
「ならば、私が出る」
業を煮やしたセトが剣を抜き、かかってくる。
だが。
「お前の相手は、この私だ」
隼のようにセトの前に立ちふさがるのは、ホルスだ。
「待ったぞ、ホルス」
「ああ、待たせたようだ。ここからは私も加わろう」
カツン、と音がなり全員の目がそちらを向いた。
居たのは灰色だった。
「フェルアリード」
ここで登場するか、フェルアリード。
「お待たせいたしました。セト様、ホルス様」
「遅いぞ」
「よくものこのこ顔をだせたものだな」
「感想については後程うかがいましょう」
カツンと杖で床をつき、フェルアリードは歩く。
「これは出さないつもりでした。どんな相手だろうとアルフレッド君が倒してくれる、と思っていたが」
オシリスの棺の前に、フェルアリードは立つ。
「外の様子も見ました。15年の恨みというがまだまだ甘い。じきに制圧されるでしょう」
それが、ホルス軍とセト軍の攻防の結果だということはわかった。
なにより、ホルスがここにいることがその証拠だ。
「ときに、テリエンラッドのお三方。あなたがたの血統は強力な霊魂を持っているのをご存知かな?」
いきなり変わった話についていけない。
ホルス、ルーナ、セトの三人。
テリエンラッドの一族も戸惑っている。
「数十年かけて、ようやくその霊を操る方法を開発しました。本当に長かった。今回のことはまさに天祐と思いましたよ。オシリスの霊魂、まさに一級のサンプルです」
こいつは、こいつの目的はテリエンラッドの霊魂。
そのために何十年もラーナイルに仕え、この無益な内乱を引き起こしたのか。
「さて、セト配下最強の騎士を倒した最強の冒険者カインよ。テリエンラッドのソウルを相手にしてみてくれたまえ」
その言葉とともにオシリスの棺が爆発した。
立ち込める煙。
そこに巨大な影。
巨大ワーウルフに匹敵する巨体。
意思の無い顔。
隆々たる筋肉。
真っ白な肌。
巨人。
煙が晴れて現れた巨人にセト軍の兵士すら恐怖した。
ほぼ全員が、出口に殺到する。
そして、それは巨人の餌食だった。
巨体に似合わぬ跳躍で、出口に群がる兵士に突っ込む。
沸き起こる悲鳴。
吹き出す血飛沫。
兵士を握りつぶし、踏み潰し、押し潰し、なぎ倒し、壊し尽くす。
白磁の肌はまたたくまに深紅に染まる。
「やめろぉぉぉっ」
セトが切りかかる。
「そいつらは私を信じてついてきてくれた。栄光のために、だッ!こんなところで無惨に死なすためではない!」
セトの叫びに巨人は、その拳で応えた。
切りかかった剣ごと、セトは粉砕される。
「やはり、恨んでいるではないか。叔父上」
血をはいて、セトは床に沈む。
「父上」
ホルスの声も重い。
俺は、ルーナに近付く。
「カイン」
「一度失敗してしまったけれど、もう一度だけ信じてくれないか?」
「カイン?」
「俺に任せてくれ」
ルーナはコクンと頷く。
「でも、今度は私も一緒に戦います」
「ああ。頼りにしている」
ルーナは俺に手をかざし呪文を唱える。
見るまに傷が癒え、体力が回復する。
魔力を帯びた炎の剣も、その勢いを取り戻す。
真っ赤に燃えた左目で、敵を見据える。
初っぱなから全力で行かせてもらう。
オシリス・テリエンラッド。
あんたには悪いが、その呪われた第二の生。
ここで終わらせてやる。
「いくぞ」
その言葉とともに、俺とルーナは駆け出した。