砂の王国16
ラーナイル市街を望む砂丘に俺は立っていた。
隣にはホルス。
そして、背後には数千のラーナイル正規軍。
あのあと、俺とホルスは砂漠の北部に散らばっていたラーナイル軍を探し集め、糾合した。
それでも、セト軍の半数ほどの人数だ。
「カイン、いけるか?」
「ああ、問題ない」
静かなホルスの問いに、短く答える。
「では、いくぞ」
ホルスの合図で、ラーナイル軍が静かに動き始める。
ここにラーナイル奪還作戦が始まる。
砂色のマントを羽織り、ラーナイル軍とは別の方へ俺は走り出した。
作戦なんてもんじゃない。
全力で相手にぶつかり、その隙に最も手練れが式の会場に侵入。
セトの身柄を確保し、戦いを止める。
多くの問題点があるが、これが一番成功する可能性が高い。
笑うしかない。
会場には、セトだけじゃない。
アルフレッドや、暗殺者たち、そして多くの兵士がいるだろう。
それを一人で突破しろとか、笑える。
遠くで、怒号が聞こえる。
ホルスとセト軍がぶつかり始めたのだろう。
俺も急がねば。
手薄な場所を狙って、墓地を目指す。
先日脱出した場所から、侵入を図る。
もちろん対策はされているだろうが、突破する。
無我夢中で駆けた地下道を逆走し、罠を仕掛ける。
地下牢にほどなく到着、配置を確認。
見張りは二人、地下道の入り口をしっかり見ている。
そこへ、ナイフを投げる。
何の変哲もない小さなナイフは、鉄格子にあたり金属音をたてる。
「予想通り来たぞ、俺はここで確保。お前は増援を呼べ」
「わかった」
その時すでに、俺は牢の壁に張り付いている。
一人になった兵士の首を叩き、気絶させる。
鎧を着て、増援を待つ。
ガチャガチャと、十数名の兵士が来た。
「奴ら、俺たちの姿を見て地下道に隠れたぞ。追うぞ」
俺の声に、皆、気勢をあげ地下道に突入していく。
全員が入ったのを確認、気絶していたやつも地下道に入れて、入口を破壊して封鎖。
これで、この入口は使えなくなったが、それが問題になるのはホルスなので放置。
俺は先に進む。
王宮内の大広間は炎の女神イクセリオンの祭壇が組まれ、かの女神の真言が響いている。
祭壇にはオシリスの遺体の納められた棺。
その前には満足そうな顔のセトが立っていた。
その後ろでアルフレッドが伝令から状況を聞いている。
「ホルスが攻めてきたか。よくここまでかき集めてきたもんだ。で、例の冒険者は誰もいないのか?いない?ふうん、そうか。わかった」
この会場には、セトとその配偶者たるべきルーナ、そしてセトの配下しかいない。
つまり、フェルアリードや、彼の配下らしいリィナの姿はない。
そのことに不満はないが、自分等の知らないところでこそこそ動くのはやめてほしい。
やがて、イクセリオンの真言は終わりを迎える。
同時にオシリスの葬儀も終わり、セトとルーナの婚姻、セトの戴冠まで一気に進む。
仕掛けてくるなら、今か。
アルフレッドの読んだ通り、そこへカインは仕掛けた。
真言終わりの沈黙に、カインは突入した。
すでに、強化魔法は限界までかけている。
後は駆けるだけだ。
衛兵は、剣を抜くまでもなく殴打で気絶させる。
大広間を跳躍、居並ぶ将兵の頭上を越える。
セトの隣のルーナに驚きと喜び、セトは驚き、そしてアルフレッドの顔には獣のような笑み。
野郎、待っていやがったな。
空中で剣を抜き、加速をつけアルフレッドへ唐竹割り。
もちろん、アルフレッドは防御。
それも籠手で。
痺れるほどの衝撃のはずだが、笑みは止まない。
空いた手に握られた大剣で突き。
下からの刺突にも関わらず、力と速さが乗っている。
その突きに、剣を合わせる。
擦れた剣同士が耳障りな金属音をたてながら火花を散らす。
そこで呪文。
“剣”の第4階位“魔力武器”
魔力を注がれた炎の剣は、アルフレッドの剣を焼きながら奴の頭を狙う。
アルフレッドは、それを察知して大剣を振って俺ごと炎を吹き飛ばす。
余裕をもって着地。
「いやあ、奇襲で来るとは思っていたが、こう来たか」
余裕があるのは奴も一緒だ。
「悪いが、手早くいかせてもらう」
「おう、やれるもんならやってみろ」
ダッと俺は駆ける。
そして、炎の剣を振るう。
あの戦いのあと、思い出したのだ。
俺の戦闘スタイルの意義を。
いずれ来るべき炎の王との戦いの時、俺はたとえ身を焼かれようと最速でこの剣を突き立てる。
それを回避だ、ステップだ、駆動の限界だなどと理由をつけて避けようとして居た。
だが、それ以前に俺は攻撃特化。
ダメージを与えて、倒される前に倒す。
相手の攻撃の隙を狙う?
馬鹿か。
肉を切らせて骨を断て。
連続攻撃を浴びせ続ける。
そのたびにアルフレッドの笑みは深くなる。
まだだ、まだ。
止まるまで動き続けろ。




