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カインサーガ  作者: サトウロン
炎の王の章
15/410

砂の王国15

のっそりと現れた男には見覚えがある。

「アルフレッド」


「アルフレッド・オーキス」


続けたのはホルスだ。


「知っているのか?」


「ああ、アルフレッド・オーキス。セト伯父の配下の騎士で最強と謳われた騎士だ」


「なんだかこそばゆいな」


顔に笑みを浮かべたアルフレッド。


そして、彼は手で合図を送る。

途端に、俺たちの後ろで倒れていた暗殺者が立ち上がり、跳躍し、闇に消えていった。


「明らかにとどめをさしたと思ったがな」


苦い顔でホルス。

笑いながらアルフレッドが喋る。


「奴ら、そんなやわなタマじゃねえよ。まあ、借り物だからな。俺やセト様の部下だったら俺がとどめさしてたわ」


「その、セト配下最強の騎士とやらが待ち伏せか。俺たちも大きく見られたもんだな」


「卑下するのはやめたほうがいいぜ?だがまあ、お前らのことを危険視しているのは確かだ。フェルアリード直々のご要望だからな」


「それで?我らをどうする気だ?私の命をとればセトにとってプラスにはならんぞ?」


「そうでもないさ。というか命まではとらんよ、ほんの一月ほど表舞台にでなければそれでいい、との仰せだ」


そこのカインは別だがな、とアルフレッドは続けた。


「俺の命を所望するのはフェルアリードくらいだろ?」


「ご名答。よっぽど恨まれるようなことをしたんだな。あいつしつこそうだからなあ」


「知るか。それよか、さっさとやろうぜ」


剣は抜いている。

アルフレッドも背の大剣を持つ。

お互いが構え、相手を見る。


アルフレッドは大剣を両手で持ち、肩に背負う。

重量のある武器の威力を最大限に活かすための構えだ。

上段からの降り下ろしが一番危険だ。

威力に速度が乗って、防御すら叩き割られる。


ならばかわす。


回避してからの、相手の一瞬の硬直を狙う。


ほんの数瞬で思考は終わり、俺たちは同時に動き出す。

アルフレッドの剣は、凄まじい速さで上段から降り下ろされる軌道を描こうとしている。

奴自身も恐ろしいほど踏み込みが鋭く、一気に距離を詰める。

その巨体もあいまって、岩の塊が迫ってくるような錯覚すら感じる。


けれど、見える。


迫ってくる鋼の刃、いや塊を右へステップ。

死をまとった鋼の塊が左側を通りすぎる。

ここで距離を詰め、隙だらけの奴にダメージをーー。


そのとき。


大剣が跳ねた。


アルフレッドの桁外れの力が大剣の軌道を動かす。

前に進もうとしていた足の力を無理矢理右へ、飛ぶ。


飛べ!


切っ先のギリギリ、数センチ差でかわす。

危なかった。


あそこから繋げてくるか、普通。

だが、安堵するのは早計だった。

空振りした勢いのまま、アルフレッドは一回転。

踏み込みでさらに加速。

威力と速度の増した第三撃。


無理な回避で、これ以上の駆動は無理。

あれに当たれば、剣ごと胴を両断される。

さっきの暗殺者以上に余裕がない。

相手の攻撃は読める。


しかし、読めても詰んでいる。

どうしようも無い中で本能的に俺は叫んだ。


“杖”の第1階位“ファイアボール”


詠唱も破棄、最速で放つ。

アルフレッドに当てるわけじゃない。

伸ばした俺の手のひらから、炎が吹き出る。

球体になった炎は次の瞬間、爆発する。

その衝撃で、俺は後方に吹き飛び。

アルフレッドの剣は勢いを削がれる。

ゴロゴロと転がり、誰かの墓石にあたって止まる。

背中が痛むが、動けなくはない。


「いやいや、あんたもなかなかイカれてるね。魔法の爆風で俺の攻撃を回避するとか。並みの神経じゃできないな」


「てめェこそ、力づくで剣の軌道変えやがって。危うく死ぬところだったじゃねえか」


「そりゃまあよ、殺し合いだからな」


殺気を噴き出しながら笑うアルフレッド。

セト配下最強というのも事実だろう。

俺も笑いを返すしかない。

なんとか立ち上がり、剣を構える。


が。


「やめだ」


構えをとき、アルフレッドは殺気を消した。


「は?」


「このままやっても、俺が勝つ」


ハッタリではないだろう。

奴にとってはただの事実。


「やってみなきゃわからない、なんて言うなよ?俺にはお前の弱点が見えているんだからな」


「俺の、弱点だと?」


自慢じゃないが、俺の魔法軽装戦士というスタイルはほぼ完成している。

15までに基礎を固め、それからの四年間で実戦を通して作り上げた。

もちろん、魔法ランクをあげることでの手数、戦術の幅の増加などはあるだろう。

けれど、戦いかたはもう完成している。


「正直、お前の見切りは半端ないよ?だが攻撃を回避するときに8割、右へ跳ぶ」


え?


「それと、回避に自信があるのだろうが、回避後の挙動がまずい。ギリギリで避けるため、予想外の攻撃の伸びに対処できない。よしんばできても体勢は崩れ、追撃の的になる」


それは、さっきまでの俺だ。

思い返せば、さっきも、暗殺者のときも、巨大ワーウルフのときもそうだった。

ギリギリでかわして、追撃が来て、そして無理矢理打開する。


俺の弱点か。


戦闘スタイル云々じゃなく、俺自身の弱点。

この胸のモヤモヤは悔しさ、なのだろう。

強い相手に弱点を教えられるってのはかなり悔しい。


「つうわけで、俺は引くわ。じゃ、ホルス王子もお元気で。葬儀やらなんやらは明後日、王宮でやるんで邪魔しにきたいならそうすればいい」


それを最後にアルフレッドは去っていった。


残された俺たちは、苦い顔で立ち尽くしていた。

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