第12章 仲間の正体。
「ジーウくん、ジーウくん」
シエルが集中を始めてしばらくしてから、それまで落胆していたクリスが急にジーウをシエルたちから少し離れた場所へと招いた。
「…なんでしょう?」
ジーウが何事かと、クリスの元へと歩み寄る。
「…ねぇ、ジーウくん」
クリスが擦り寄ってくる。
「私ね。『リュケイオン』のお偉い教官たちや、名高い専学師の方々とも結構仲がいいのよ」
「……で?」
ジーウの胸に、自分の右手の人差し指を思わせぶりのように立て、すっと何度も軽くなぞる――。
「もし私が、「この件にはシエルくんや君の協力もあった」って言ったら…君たちも同罪になっちゃうと思うんだ……」
「なるほど…脅迫っすね」
「君ならシエルくんより、こういうことには敏感かなぁって思って……これ黙っててくれたら…私、君にイイことしてあげてもいいんだよ?」
ジーウが自分の体に絡みついているクリスを見下ろした。
紅の唇が艶かしく、真紅色の半月の形を成し微笑みとなっている。
「…どう、ジーウくん」
口紅と同じ色のマニュキュアをつけた指を、今度はジーウの顔の輪郭に沿わせる。
「気持ちイイこと…嫌いじゃないでしょ?」
「嫌いじゃないですけど…クリス教官は俺のタイプじゃないですね」
あっさりとジーウは否定した。
クリスはなかなか陥落しないジーウに、不機嫌な表情を見せた。
「いいのかなぁ…そんな頑固で。私、リレックの「補佐役」ともお友達なのよ。
下手すると…イロアス協会まで敵に回しちゃうかも。そしたら、君たちの方が『リュケイオン』にいられなくなっちゃうよ?」
そう囁いてから、ジーウの反応を見るためにその顔を見上げ――クリスは全身が凍りついた。
ジーウが冷淡な笑みを口元にたたえ、今にもクリスという存在をこの世界から消滅させんばかりの殺気を惜しげもなく発していたからである。
「……クリス教官。俺はね…シエルたちが無事なら『リュケイオン』がどうなろうと知ったこっちゃないんですよ。
それとここでひとつお話ししておきますが、リレックの本当のランクは『第4級 (テタルトス)プラス』。
『第3級 (トゥリトス)』ではないんです。彼の補佐役はね。そんな彼を見守る程度の役割で、『プラス』という補足がついていて、「いつかは『第3級』に上がるかもしれない」という意味合いから念のためについていただけ。
でも『リュケイオン』からお願いされましてね。『アトスポロス』の『第3級』が2人じゃかっこがつかないからと、仕方なく彼を暫定的に『第3級』扱いしていただけの話です」
突然、流暢な説明を始めたジーウに、クリスは本能的な危機感を抱く。
「あなた…何者なのっ!?」
「……以前から彼の『霊力』の異常な高さを危惧した「イロアス協会」から派遣された、補佐役です。シエル・「ウラヌス」・プリエのね」
唇を奪えるほどの近さで、ジーウは囁いた。
クリスの顔が恐怖で歪む。そして体は――先程から小刻みに震え、いっこうに収まる気配がない。それどころか、粟立つ肌が全身に広がり、その震えは大きさを増す。
怖い、怖い、怖い――クリスは逃げることも出来ず、ただジーウの笑みを見つめる、否。
目を離すことすら許されなかった。
「彼に危害を加えることは…直接あなたの「死」を意味します。
「私たち」はね、それだけ彼を大事に思っています。
『リュケイオン』が彼に危害を及ぼそうとするのなら……『リュケイオン』も容赦なく破壊します。そういうところなんですよ…「イロアス協会」というところはね」
クリスの足から力が消え失せ、ぺたりと地面に座り込む。
そのお尻の付近から――地面にじわじわと温度を持った液体が流れ出ていたが――振り返ることもなく、ジーウはシエルの方に戻っていた。
「クリス教官と何をお話されていたんですか?」
ミューズが呆然と座り込むクリスの様子を見て、ジーウにそんなことを尋ねた。
「さっきのことだよ。『リュケイオン』にはこのことを黙っていてくれとね。
俺たちのバックにはビルケ専師がいるぞって散々脅かしてやった。
まぁ…実際そんな力は専師にはないけどさ……」
「…口から出任せですね」
「まんまなんだけど…」
呆れた様子で――普段のジーウのままで、言ったアンジェを一瞥すると、ほうと息をついたシエルに視線を移す。
「見つかったか?」
「うん。『ディアボロス』何体かに取り囲まれてる。
魔獣型だから、野犬か何かを食らった『ブルゾス』だと思うよ。
念のため、アンジェとロウに行ってもらう。5人とも無事だから……とりあえずよかった。それじゃ、アンジェ、ロウっ」
「はいっ」
「行ってきますっ!!」
アンジェとロウがそれぞれの返事を、同時に口にし、「門」に飛び込んだ。
「…シエル」
「何?」
呼びかけたジーウにシエルが、身長の高いジーウを見上げる形でその顔を見た。
「頑張れよ」
「うん。頑張るよっ!!」
シエルを見つめるジーウの笑みは――いつものジーウの笑みだった。




