第11章 さて、その成果は…
シエルが一体どんな暗示をかけられたのか?
ジーウの好奇心を適度に刺激したらしい。
訓練終了後、ジーウはシエルにしつこく問いただした。
「僕が見ているんじゃない。これはアンジェたちの視界だから、僕が落ちる心配はない」
「はっ?」
なんだそれ?ジーウの顔がそう言っている。
「だから…そうなんだってっ」
「意味がよくわかんないんだけど?」
「ですので、これは自分が見ている景色ではない。人の見ている景色である以上、自分にはなんの関わり合いもない…という暗示をかけさせていただいたのです。
それを能力をシエルさんが開始したと同時に、その暗示が発動するように」
一瞬の間。ジーウが大きなため息と共にこうのたまった。
「情けねぇ……」
「うるさいなぁっ!!」
そう――仕方ないのだ。だって怖いんだから。
しかし能力が発動していなければ、高所恐怖症のままだ。
ちょっと試してみたくなって――窓の傍に近づいて――やっぱり絶叫する羽目になった。
◆◆◆
一時的な沈静化とは言え、『アンフェール』の『ブルゾス』が完全に殲滅されたわけではない。
『アンフェール』は自然発生の『不浄地』だ。
何もしなければ、『ブルゾス』は溜まってくる。
この日、シエルの元に、教官であるクリスから緊急な用件があると『アンフェール』の「門」前に呼び出された。
「中に人が入ったままもう3刻(3時間)も出てこない?!」
呼び出された内容を訊いて、シエルが驚き、一緒についてきたカトリーヌと顔を見合わせた。
「専学師」コース(大学でいう院生)の准士5人が、『アンフェール』調査に中へ入ったのだという。
「ちょっと待ってくださいっ!!それは認められてはいないでしょう!?」
オマケでついてきていたジーウが教官のクリスを責める。
「私も『アトスポロス』のことは知っているわ。でも、そのうちの1人が「リレック」なのよ」
リレックとは、カトリーヌ、アントンと並んで、『リュケイオン』でたった3人しかいない『第3級 (トゥリトス)』ランクの『アトスポロス』だった。
だがいくら『第3級』ランクのリレックがいるとしても、『アトスポロス』以外の人間が『アンフェール』内に入ることは厳しく禁じられている。
「だからあなたにこうして来てもらったのよ、シエル。
『ピュグマリオン』たちを使って、リレックたちを助け出して欲しいの」
「はい、それはもちろんです」
シエルが頷くと、ジーウがシエルを止めた。
「待てシエル。これで都合よくお前が助け出したとして…だ。もちろんこれは『リュケイオン』に報告しますが…よろしいですね?クリス教官」
ジーウに指摘されたクリスの表情から、一瞬で感情が消え失せる。
「ま…待って頂戴……」
『リュケイオン』に知られれば、当然それを許可したクリスは教官の職を失うことになるだろう。
「それだけのことをして、こうしてシエルとカトリーヌが巻き込まれるんです。
あなただけ助かろうとか思わないでくださいね?」
驚く程ジーウが凛々しく見える。
「わかったわ……」
クリスが観念したことを受けて、ジーウがシエルに頷いてみせる。
「アンジェ、手を……」
アンジェが右手をシエルに差し出した。
シエルは瞳を閉じながらその手を取る。
そして集中を始めた。




