戦闘訓練
-------学校 教室
「えーじゃー、レン君戦闘準備しといてねぇ」
「了解しましたせんせー、っと」
だるいどころの騒ぎじゃねぇ。
やっぱ午前にセリアとユナを相手したからって、午後に残りの二人とか、暴挙に出るんじゃなかった。
しんどすぎて笑えねェよ。
「だぁーっくしょう……大体戦闘訓練って何とやり合うんだよ」
「はぁい、レン君、君の番だよ?」
「分かってますよ、っと。グラウンドでいいんすよね?」
ガントレットを付け、腰にポーチを巻き、道具をガントレットと靴その他諸々に仕込みながら、先生に問う。
たぶん、他の奴つーか、さっきのクレイとやらがグラウンドに呼び出されてたから俺もそうなんだろう。
「んー? あれぇ? 言ってないっけ?」
「何をですか?」
「試験の内容はぁ、それぞれで違うよって事」
「聞いてないっすけど」
「言ってなかったかぁー。まぁ、たいした問題じゃないかなぁ? レン君は室内戦闘だよー」
「室内戦闘?」
「そ、フィールドは教室を出た校舎内全て。 出た時点で戦闘開始、ここに帰ってくるのは課題をクリアするまで無理だからぁ、気を付けてねー」
結構重大だよな、その情報。
要は、個々の力を測るためのものだから他の奴のを見て対策を立てないようにってことか。それぞれにフィールドの得手不得手はあるだろうが、それを超えられねェんじゃ力不足、役立たずってことね。
「ここ出れば、始まりなんですよね」
教室の入り口のドアに手をかけながら問う。
「うん、そこを出たら、校舎をそのままトレースした異空間に飛ばされるからぁ、そこで戦闘だよ? あくまでもよく似た別の空間だからどれだけ無茶してもオッケィだよぉ? 先生特製の結界魔法だからねぇ、えっへん」
「はぁ……そうっすか」
結界魔法、特定の物を遮断したり、異空間を作り上げる魔法。その大きさによって、使う魔力は増え、集中力や精神力などはより高い物を要求される。
根本的に結界魔法はかなり高位な魔法で、自分を軸とした面積1平方メートルの四角形を作るのでも出来ない奴は一生出来ない、慣れてる奴も失敗する可能性がある難しい魔法。
それを、学校の校舎をそのままトレースとかいう、無茶苦茶な事を平然とやってのけてるって、腐っても教員ってことか。
…………もう、教員が魔王倒せばいいんじゃね?
「レン君、先生たちが魔王倒せばいい、とか思ってるでしょお? それは無理な相談なんだなぁ」
「何故ですか?」
「この試験終わったら教えてあげるよぉ。早く行ってらっしゃい」
「りょうかいしました、せんせい」
「やる気ないねぇ。まぁ、結果さえ残せば先生としては文句ないけどぉ」
ガラッと教室の引き戸を開け、外へ出る。
背後で静かに、微かに音を立てて、引き戸が自動でしまった。
「……やっぱ開かねぇか」
一応、開くかどうか試しては見たがまぁ、案の定開く訳がなかった。
「さて、何が最終目標か聞きそびれたな」
「それは問題ない。私を倒せば、終わる」
声のした方を向くと、廊下の先で階段を上ってくる人影を目視できた。
ヤバいな、ここは角部屋だ。このまま何もしないうちに距離を詰められると相手が俺より強かった場合、状況が悪すぎる。
後退をするか前進するか決めかねていると、相手の気配との距離が急にグッと縮まった。
「さて、自己紹介をしようか。我が名は……なんだったか?」
「!? 知るかよっ!!」
急に距離を詰められたことは驚きだが、ここで動揺しちゃいけない。
右手で青色の玉を床に投げつけ、左手で青色の円柱から水を足元にばらまく。
円柱から出た水は、青色の玉の作りだした氷の魔力に反応し上へと伸び、相手と俺の間に壁を作る。
氷と氷の相乗効果。即席の障壁だ。そう簡単には割れないぞ。
「だが、我が剣の名は覚えている。それは……」
「っ!?」
「『アロンダイト』……。この名しかとその胸に刻め」
壁が、一瞬にして細切れにされた……?
氷が舞い落ちた先に見えたのは、明らかに身の丈より大きい剣を携えた、黒い騎士。
「ちっ! 壁が役にたたねぇなら、ダメージ覚悟で逃げの一手だ!!」
咄嗟に、魔力の障壁を自身にまとわせてから、当たりに両手に持てるだけの赤玉を辺りにばらまく。
一つが壁にぶつかり、爆発すればそれが他の玉を砕き誘爆を起こす。
辺り一面が爆ぜ、閃光に包まれる。
「まぁ、この程度じゃ……」
煙が晴れれば、そこには先程と幾分も変わらないような騎士が立っていた。
「やれてねぇよな!!」
だが、本命はそっちじゃない。
アイツの足元に出来た、穴。少しだけ助走をつけ、その穴に向かいスライディングする。
「む、煙たいな」
運がいいな。なぜだかは知らんが、アイツの挙動は一つ一つが遅い。
おかげで妨害もなく、するりと下の階へ逃げられた。
「たく、んだありゃあ」
って、文句言ってる暇もねぇな。
さて、アクラは仲間の使用は禁止と言ったが、召喚魔法の使用は禁止されてない。
つまり、
「ルル、出てこれるか?」
「まったくもって問題ねぇ!」
こいつらは使ってもいい。ってことだろ?
まぁ、禁止されたら困るんであえて聞かなかったんだが。
「にしても、ここ不思議だな。レンの世界よりアタシらの世界に近い」
「そんなことはどうでもいい。ルル、『完全憑依』出来るか?」
完全憑依、前にアクアでやった憑依と違って、完全に精霊と一体化する手法。
ただの憑依との違いは、基本魔法が使えなくなるのと、制限時間が短い、そして複数の憑依はできないって事。そこにさえ気を付ければ、一時的にかなりの戦闘力を保有できる俺の切り札。
「アタシの準備はいつでも良いけど、レンは? 体力大丈夫か?」
「あぁ。行ける」
「じゃ、行くぜ?」
差し出された右手を力強く握る。
握ったことを確認してからルルは目をつぶり胸元に左手を持っていくと何かをブツブツと唱え始める。
今使われてる言語とは違う昔の言語なのか、何を言ってるかはさっぱり理解できない。
一通り、いい終わったルルがハァッ!、と声を上げると、俺の中に何かが流れ込んでくる。あんま、やんねぇからこの感覚は苦手だな。
全部流れ終わると一瞬意識が飛ぶ。
次に目を開けると、手には俺の身長の二倍はある大剣が握られていて、いつものマントは、深い紅のフードの付いたローブになっている。
「『完全憑依・赤ずきん』だったか?」
「ふむ。いい、剣だな」
気がつくと目の前にまで近づいてた騎士。
コイツマジで何者だよ。
「邪魔だよ!!」
右手に握った剣で前方を薙ぎ払う。
騎士はそれをアロンダイトで受ける。
ギィィィン!!
と、甲高い音が響く。
「良い、重さと速さを伴った斬撃だ」
「そいつぁ、どうもっ!!!」
受け止められたが、力いっぱい剣を振り抜きそのまま騎士を壁まで吹き飛ばす。
バットでボールを打つ原理だな。
魔法が使えないだけで、道具は使えるので、足元で赤玉を炸裂させ、爆風で騎士を追う。
その速さを斬撃に使うため右手を突き出し突きの姿勢を取る。
「……斬撃が単調。大きな剣を使う初心者の騎士にありがちな事だ」
その突きをいとも簡単に避け、俺の腹を剣の腹で殴りつける騎士。
やってる事が……騎士じゃねぇっ!!
「剣にはこう言う使い方もある。そう言う事だ」
「知ってるよ、んな事!!」
剣を逆手に持ちかえて、柄の部分で騎士をぶん殴る。
バギンッ!と仰々しい音を立てて、殴った部分の騎士の鎧が砕ける。
「はぁぁぁぁあぁ!!!!」
頭、腹、腕、脇と連撃を重ねるが、一切動じない騎士。
何なんだよこいつ、本格的に化け物かよ!!
「勢いがある。若さが見て取れる。見ていて気持ちが良い攻撃だ。だが、私に斬撃と打撃は通らないぞ」
右手で俺を掴み、放り投げる騎士。
この喋り方……そう言う事かよ……コイツは俺の戦闘スタイルに合わせて作られた訓練用のダミーだ。
多分剣は本物だが、俺の本分、斬撃と打撃に対して耐性を上げまくったダミー。
さっきから気配もなく近づいてんのは瞬間移動とか超スピードとかじゃなくて、その場に転移させられてるだけか。
あの野郎、緩い喋り方してるくせにやる事エグイな。
いや、ならこっちにだって秘策はある。
「俺の憑依は、童話に出てくる物をモチーフにした武器が使えるようになる。そして完全憑依なら、プラスでもう一つその童話に出てくる武器を使える」
「? 何を言っている?」
「まずこのローブは赤ずきんをモチーフに、この剣はその童話に出てくる狼をモチーフに」
それぞれ、ほぼ無地のシンプルなデザインのローブと、荒々しいタテガミのような背を持った大剣を見ながら呟く。
「勝負を捨てたのか?」
「そんで、これが俺のとっておき」
近づいてきた騎士の腹にローブの中から左手を出してその手に握った物を突き立てる。
「猟銃をモチーフにしたショットガン。威力は、すごいぜ?」
引き金を引けば、ダァン!!、と盛大に火を噴きながら騎士の腹を半分以上消し飛ばした。
反動で俺の左腕はノックバックして肩が外れるかと思ったが、大丈夫みたいだ。
「そんでダメ押しだ!!」
飛び上がり、頭に突きつけてから引き金を引く。
首から上が吹き飛び、床に真っ赤な池を作る。
「童話って、意外とエグイだろ?」
物言わなくなった騎士を見下ろしながら語りかける。
勿論それに返答なんて得られないんだが。
さて、これで試験は終わった見てぇだし。とりあえずあの野郎に文句言ってやる。
目の前に現れた教室の引き戸を見つめ、騎士の持っていた剣を採取ながらそう思った。
だれか、私に戦闘描写のアドバイスをください……。
ほんとどうにかしないとだれるなぁ。