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サムライ異世界に往く ~死に場所を求める最強の剣神、うっかり規格外の無自覚無双をしてしまう~  作者: 戯言の遊び
②ファルサ辺境都市ギルド 編

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第17話 祝宴の始まりと、空飛ぶ余興

 冒険者ギルドの二階、タバコとコーヒーの匂いが染み付いたギルド長室。

 執務机の上にドサリと積まれた数十本のオーガの角と、純度が高すぎて魔力光を放つミスリル鉱石の欠片を前に、ギルド長のグレンは胃を押さえながら深々と頭を抱えていた。


「お前……。このあり得ねえ量の討伐の証を、本当にたった半日で、しかも無傷でやってのけたってのか……?」

「うむ。凝り固まった身体をほぐす、良い準備運動にはなったがな」


 涼しい顔で事も無げに頷く千代女(ちよめ)とは対照的に、グレンはキリキリと痛む胃袋をさすりながら、厳重にロックされた奥の金庫からズッシリと重い革袋を二つ取り出した。

 ジャラジャラと重々しい音を立てて机の上に広げられたのは、まばゆい銀色の光を放つ『金貨』の山だった。


「今回のオーガ群れの討伐報酬と、この極上ミスリルの買い取り代だ。王都に小さな家が建つどころか、平民なら一生遊んで暮らせる狂った額だぞ」

「ふむ。キラキラしておるな。日ノ本の小判とはまた違った趣がある」


 目の前に積まれた莫大な富を前にしても、千代女の反応は「綺麗な石ころ」を見た時と何ら変わらなかった。

 彼女は無造作に金貨の山を半分にザクリと分けると、それを隣で硬直している案内役のソフィアへと無造作に押し付けた。


「ソフィアよ、案内大儀であった。面倒な素材の回収も手伝ってくれたからな。約束通り、半分取っておけ」

「ひゃあぁぁぁっ!? む、無理です無理です!! こんな大金、身寄りのないハーフエルフが持っていたら、明日の朝には確実に裏路地で身ぐるみ剥がされて首をかき切られちゃいます!!」


 ソフィアは涙目で首をちぎれんばかりに横に振り、顔面蒼白で全力の受け取り拒否をした。

 千代女の「遠慮するな」という物理的な押し問答の末、

 結局ソフィアには「当面の安全な宿代と、一流の装備一式を整えるための資金」として、それでも十分すぎる額だけが渡されることになった。

 ただの案内役にはあり得ない破格の報酬。

 ソフィアにとっては一生分の恩義であり、彼女は涙をポロポロとこぼしながら、千代女に向かって深く深く、何度も頭を下げた。


     ◆


 報酬を受け取った千代女たちが一階の酒場へと降りていくと、グレンがカウンターに立ち、たむろする冒険者たちに向けて大きく声を張り上げた。


「野郎ども、ちっとばかし注目しろ! 東のミスリル鉱山に巣食っていたあの忌々しいオーガの群れだが……たった今、今日入ったばかりの新人の千代女が、たった一人で討伐を完了したぞ!!」


 その瞬間、喧騒に包まれていた酒場が、文字通り水を打ったように静まり返った。

 そして数秒の沈黙の後――。


「はぁぁぁ!? あのオーガの群れを、たった半日で!?」

「しかも一人で!? 傷一つねぇぞ!? 化け物かよ!!」


 爆発的な驚愕の声と悲鳴が、ギルドの建物を揺らした。

 周囲の荒くれ冒険者たちは、千代女を見る目を「ただの美人な新人」から「絶対に逆らってはいけないヤバい奴」へと完全に変え、畏怖と尊敬の入り混じった熱い視線を向けている。

 しかし、当の千代女は、その騒ぎをまったく別の、ひどく平和的な意味で捉えていた。


(おお! 皆、(それがし)の記念すべき初陣を祝って、これほどまでに熱狂してくれておるのだな! なんと温かい連中だ!)


 盛大な勘違いをした千代女は上機嫌に笑うと、カウンターに先ほどの金貨を惜しげもなく数枚、バーンと叩きつけた。


「金なら唸るほどある! 今日は某の奢りじゃ! 皆の者、遠慮はいらん、朝まで飲めや食えや!!」


 その規格外に太っ腹な宣言に、荒くれ者たちは「うぉぉぉぉっ! 千代女の姐御、万歳!!」「一生ついていきます姐御ォォ!!」と地鳴りのような大歓声を上げ、ギルド全体を巻き込んだ狂乱の大宴会が幕を開けた。


     ◆


 美味い肉の脂と、樽から注がれるエール酒が飛び交い、宴が最高潮に達しようとしていたその時。


 バンッ!! と。

 ギルドの重厚な扉が、外から蹴破られるような勢いで開かれた。


「き、緊急事態だぁーーッ!!」


 血相を変え、兜を脱ぎ捨てた見張りの衛兵が、転がり込むように駆け込んでくる。


「そ、空から『ワイバーン』が街に向かってきている! このままだと、一直線に中央広場に降りてくるぞ!!」

「なんだと!?」


 酒を煽っていたグレンが、顔色を変えてガタッと立ち上がった。

 ワイバーン――空の覇者とも呼ばれる凶悪な飛竜であり、単体でBランクに指定される空の脅威だ。

 空からの圧倒的な速度での強襲、鎧を噛み砕く強靭な顎、そして猛毒を持つ棘の尾。

 本来であれば、大勢の熟練の弓兵と高位の魔術師を揃え、大きな犠牲を払ってようやく撃退できるほどの災害である。


「くそっ、なんでこんな辺境の街に飛竜が! 外にいる非戦闘員を避難させろ! 腕に覚えのある奴は全員、弓と魔法の準備を――」


 グレンが焦燥に駆られ、矢継ぎ早に指示を飛ばそうとした、その時だった。


「ほう!」


 ガタン、と。

 千代女が、口に運ぼうとしていた木彫りの酒杯をドンとテーブルに置き、目を輝かせて立ち上がった。


「宴の余興にしては、随分と気の利いた極上の獲物が来たようだな!」


 言うが早いか、千代女は一陣の風のようにギルドを飛び出し、中央広場へと一直線に駆け出した。

 慌ててグレンやソフィア、そして武器を手にした冒険者たちもその後を追う。

 広場に出ると、上空の太陽を隠すように巨大な皮膜の翼を広げ、街を見下ろして「ギュオォォォォッ!!」と耳障りな咆哮を上げるワイバーンの姿があった。

 今にも急降下して、逃げ惑う人々を食い散らかそうとしている。


「空を飛ぶ巨大なトカゲか! 見上げながら斬るのは骨が折れる、さっさと降りてこい!」


 千代女はそう叫ぶや否や、トンッ、と、まるで石ころを蹴るような気軽さで石畳を蹴った。

 ドォンッ! という爆発音と共に石畳がクレーター状に粉砕され、千代女の身体は弾丸のように、広場に面した高い時計塔の壁面へと跳躍する。

 さらにそこから垂直な壁を蹴り、瓦屋根を蹴り砕き、まるで重力など存在しないかのように空を駆け上がる。あっという間に数十メートルの上空――


 ワイバーンの巨大な顔の真正面へと、ふわりと躍り出たのだ。


「ギ、ギャァッ!?」


 あり得ない高度に突然現れた小さな人間に、ワイバーンが驚愕の声を上げた。

 だが、すでに遅い。


「――チェストォォォッ!!」


 空中で鯉口が切られ、太陽の光を反射した必殺の銀閃が煌めく。

 大気を真っ二つに切り裂く恐ろしい風切り音と共に、鋼より硬い鱗を持つBランク魔物・ワイバーンの巨体は、抵抗する間もなく、空中で綺麗な『縦真っ二つ』に両断された。


 ドッッッスゥゥゥゥン……!!!


 血の雨を降らせながら、左右に分かれた飛竜の巨大な死骸が、広場の石畳に重々しい音を立てて叩きつけられる。

 その直後、千代女は遅れてパラパラと落ちてくる鱗を躱しながら、ふわりと一枚の羽のように軽やかに着地し、チャキリと涼やかな音を立てて刀を鞘に納めた。


「むぅ。やはり空を飛ぶ分、見掛け倒しで少し硬さが足りんな」


 真っ二つになった飛竜の残骸を見下ろし、ぽつりとこぼした不満の呟き。

 それを地上でぽかんと見上げていたギルド長、ソフィア、そして何十人もの腕利きの冒険者たちは。


「「「…………嘘だろ」」」


 誰一人として次の言葉を発することができず、ただただ、呆然と口を開けたまま、再び石像のように固まることしかできなかった。

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