23 ベタベタな難癖。
リラの住まいとなったお館の近くにある市場は、観光客も訪れる。
王立図書館や公園などもあることで、この地区は王都民にも憩いと共に楽しい地区である。
……ちょっと有名なお化け屋敷のあたりは、今やこの管理人が住み込みでいることから、何だか怖くなくなったよね、と……市場の皆さまが噂していることは、当のリラは知らないことではあるが。
昔、何かの番組でみた海外の市場のその一等お洒落なやつだぁ、と……日本の朝市や卸市場も記憶にあるリラには、鮮やかでありながらのんびりとした市場を巡るのも今や日常で楽しくある。市場の皆さまとも今や顔なじみ。
リラが元々住んでいたのはこうした観光客向けの地区ではなかったので、まだまだ物珍しいばかり。
市場にはカフェをはじめとした、観光客向けの飲食店もある。もちろん近隣に住まう皆さまが一番の市場の利用客であり。
朝の早くは王都のレストランなどの料理人さんなどがたくさん訪れるし、そうした玄人向けの店も多い。
今のような昼前くらいからが、リラのような一般人や観光客向けになる。
だからか。
こうしたトラブルもあったりして。
「おい、お嬢ちゃん! ぶつかっといてわびもないのかよ!」
「いてぇーよー肩外れちまったよーヒビがはいってるかもなー?」
「ユーちゃん、かわいそー!」
「へへへ、これは付き添いのお姉さんに責任とってもらって、かわりに手当てしてもらわないとなぁー?」
そんなに混み合う市場ではない。
だというのに肩がぶつかったのだという。
ある意味、古典的なベタベタな、難癖である。
難癖をつけられているのはその肩にも届かない――十歳くらいのお嬢さんである。
この国では珍しい銀色の髪に淡い褐色の肌の、あきらかに外国の観光客なお嬢さんだろう。この国の衣装を着てはいるが、裕福な商人の娘さんな雰囲気だ――そう装っているのだろうと、バレバレだが。それはあまりにも美少女すぎて。
一緒にいる少しばかり年上に見える、よく日に焼けた黒髪の少年も同じく。彼は咄嗟に少女をその腕にかばっていた。目つきがかなり剣呑なのだが。すでに何人か殺したことがあるんじゃないかってくらいに。プロですか? 玄人のひとですか? いやいや、こんな子供がまさかまさか。
そして二人と一緒にいる赤毛のお姉さんもだが、雰囲気からして彼らの侍女かお付といったところだろうか。それは彼女も同じような服を着ているが、彼女はどちらかというとこの国や近しい国がご出身のようで。緩く三つ編みにしている長い赤毛が人目を引くが、彼ら美形の隣にいたら霞んでいるのが哀しいところ。
――まぁ、口を開いたら。そしてその存在自体が、とんでもないのは……。
彼らは少女にぶつかられた詫びという理由で、その女性に不埒なことをしようとしていた。
「まぁね? ちっとばかし顔は残念だけどさぁ?」
ケラケラ笑う男たちは四人組。
あきらかにそうとわかる、裕福な貴族のボンボンたちだと。だから市場の皆さまは――平民の皆さまは、助けに入りたいが助けに入れない悔しさに、皆おろおろとしていた。何人かは警備隊に助けを求めに走ってくれた。
「残念って、失礼だなぁ」
お姉さんは慣れた様子で肩をすくめた。むしろ柄の悪い男たちに怯えた様子はなく。
赤毛のお姉さんの顔には少々目立つそばかすがある。貶された当の本人より、少女たちの方がむっとして怒ったようだ。
だから、市場の皆さまは下品に笑う男たちを顔馴染みの少女が止めに入ったと気がついたときに、悲鳴をあげかけた。
「そんな軟弱な腕なら、無い方がいいんじゃないですか?」
と。
それは男の一人がお姉さんの身体な、肩を掴もうとした腕を、スパンっ、と手刀で叩き落としたリラであった。
……が。
「腕がー!?」
「あ」
花瓶のときより手加減したはずだが。
思っていたより良い角度と勢いで入ってしまったようで。本当に軟弱な、とはかわいそうだが。
「あ、その、本当に無くせって言う気はなかったんですけども……」
その痛がりよう。
どうやらヒビが入ったらしい。
手加減しそこなった、リラさんだった。
いや、でもぶつかっただけで骨折とかはリアルにあるのでお気をつけて。お小さい方やお年を召した方など。転んだりしても危ない。