7.フェイ・アスァーナ、その2
時間軸のずれ具合の感覚を最近は調べていた。
ついでによく分からないマッチョと共にバイトをしていたわけだけど、おそらく四十日ほどのずれがあると思われる。
セルファ様がこの世界に来るには四十日後になるかもしれない。
それまで私はどうするべきか、一先ずこの世界での基本的な生活について調べるとした。
この世界ではお金が重要だ、それは私の世界でも変わりはないが物々交換というのはやっていないらしい。
小銭と言われるものからお札と言われるもの、何故かこの世界では紙幣のほうが高価らしい。
五百円玉といいうのは金貨と思えばいいのかもしれない。
だが一円玉も重要らしい。
「一円玉を笑うもの、一円玉に泣く、か」
小銭は全て大切、と。
この世界のお金は奥深そうだ、調べておかなくては。
「やあ! 休憩時間中にダンベルよりも一円玉かい!? ダンベルは自由に使っていいんだ、遠慮せずに!」
「遠慮します」
相変わらずマッチョは筋肉を鍛えることしか頭にない。
魅鶴来董次郎だったか、本名らしく本人曰く名前も私もかっこいいとドヤ顔していた。
私にはただの筋肉だるまにしか見えないがこの世界の感性は分からない。
居酒屋マッチョで働き、魅鶴来さんの居候でなんとかやりくりして数週間。
セルファ様がこの世界に来るのはまだ先、しかしたまに妙な魔力を感じる。
魔物の出現? っぽいがこの世界でも魔物がいるのだろうか。、
気になるな、調べてみるか。
居酒屋マッチョにはしふととかいうものがある。出勤日は夕方ばかり、昼から夕方までは時間があるのだ。
たまにじむとやらに来ないかと誘われるが嫌な予感しかしないから断っている。
休憩を終えてまた仕事に戻る。
私は一体何をしているんだと最近たまに思うが、これもこの世界を知るためだと割り切っている……つもりだ。
「おい、お前、店長はいるか」
「店長ですか。いかがなさいました?」
黒服の男二人が入ってくるや店長を指名してきた。
ここを利用しにきた雰囲気ではない、もしかしてこの人達もマッチョ志望なのだろうか。
「いいから呼んでこい!」
「お客様、店内であまり声を荒げないでください。他のお客様のご迷惑になります」
店内がざわつき始めていた。
いけない、この人達を店内に置いとくのは悪影響を及ぼしてしまう。
「まあまあお話は外で」
強引に二人を外に連れ出すとした。
「なんだてめぇ、この前はいなかったよな」
「お前で話はできるのかよ、ああ?」
片方は貫禄があんまりない、こいつは多分この男の部下か何かだ。
「なんの話をですか?」
睨みつけてくる、どの世界もごろつきは同じなのね。
「お前、あの店長がただの筋肉馬鹿に見えるか?」
「というと?」
「土地やらビルやら持ってるよ、それでとある土地が欲しいんだがねえ。中々首を縦に振ってくれねえの」
よく分からないけど店長はマッチョ以外にも何かすごいものがあるのかしら。
マッチョは地位が高いのかもしれない。
この世界のマッチョ、油断できないわね。少し軽く見ていたらしいわ。
「それでお店まで来たと」
「そういうこった、ああ、嬢ちゃん、折角だからちょいと事務所行こうや、あの野郎も来させてやる」
私を餌にするつもりかこいつらは。
「いいもんも手に入れたしよ、闘わせてみっか」
「それいいですねえ、兄貴」
「いいもん?」
「嬢ちゃんには関係ねえよ」
関係ありそうなのよねえ。
魔力はこいつらにも微量ながらついてる、けど付着しているだけで宿っているわけじゃない。
「まあいいです、さっさと行きましょう」
「物分りがいいじゃねえか、ほら、車に乗れ」
「これが、車」
黒塗りで他の車よりも長い、こうきゅーしゃってやつね?
中は煙臭い、こいつらの吸ってるものは葉巻とはちょっと違うけど、匂いがすごいわ。
座り心地は抜群ね、どうやって作ったのかしら、一台異世界に分けてもらいたいわ。
走行中も振動は少ない、それに何を原動力として走らせているのかしら。
この辺りは勉強不足だったわ、あとで調べてみよう。
移動中にごろつき兄貴が店長に連絡をしていた。
店長でもこいつらを倒せそうな気がするけど、この世界は別の強さが必要なのかしら。
「随分と落ち着いてるなあ嬢ちゃん」
「落ち着きのなくなるような要素がおありで?」
「……大したタマだよ」
「女なので玉は無いですが」
「そういう話じゃねえし下ネタをそんな自然と口にする奴初めてで驚いたぜ」
たま、なんだろう、なんのたまなのだろう。
男が常に二つぶら下げている玉ではないとしたら、弾? 銃の所持はしていないので弾なんてないけど。
……ごろつきの言うことだしあまり気にしないでおこう。
事務所に到着した。
三階建てだ、私の住んでるマンションより低いわね。
ひょっとしてこの人達貧乏なのかしら。
ただこの事務所の真下あたりから魔力の気配があるわ。
地下があるようね。
中に誘われるも私はごろつき達を無視して地下の階段を探すとした。
一階は一見物置にしか見えないけど……。
「おい勝手にうろつくな!」
「ちょっと黙ってて」
男を投げ飛ばす、後ろからいきなり乱暴に女性の肩に手を触れるなんて野蛮な行為をした罰よ。
「何の音だ!」
ちっ、ごろつき兄貴もやってきたら探すの面倒ね。
二人とも黙ってもらいましょうか。
「あのアマ……」
ここは隠れる場所が多い。
ごろつき兄貴は今頃部下を見つけたとこでしょう。
何か金属音がかすかにしたけど、何を取り出したのかしら。
剣? いえ、あんな薄い生地を使った服の中に隠せるのは小剣くらいね。
銃はどうなのかしら。
この世界の銃がどれほどの大きさなのか分からないけど、あの服の中に画せられるような小さな銃があったのだとすれば厄介ね。
魔法を使わざるを得ないわ。
「出てこい! 悪いようにはしねえからよぉ!」
私は今から彼を悪いようにするわ。
だってうるさいし。
あ、これいいわね。
手に収まるほどの大きさの像、猫っぽい気はするけど可愛らしさはあんまりないわ。
魔力を練り、腕力を少し上げておこう。
物陰から奴の位置を把握する。
背を向けているがそれでは駄目。
立ち上がってわざと物音を立てる。
「そこか!」
「ええここよ!」
同時に像を男の股間へ向けて全力で投げつけた。
「はふんっ」
直撃だ。
男は股間が弱い、そこを狙えば暫くは動けまい。
「これが銃?」
小さいわ、こんなので戦えるのかしら。
「ぐ、お、おま……今に、組員が、来るから、覚悟、しろよ」
「え、また増えるの? じゃあ片付けておいたほうがいいわね」
階段からは足音が聞こえてくる、七、八人くらいかしら。
銃を一発だけ、壁に向けて撃ってみる。
速度はすごいわね、威力は魔力を練っていない人間に当たれば相当なもの。
この世界の銃は小さくてもそれなりに強力ね。
銃は捨ておく、私には必要ない。
最初にやってきたごろつきは魔力を込めた右手で顎に一発。
この世界では魔力防御も無いから不意打ちは相当効くはず。
その証拠に男は吹っ飛んで窓から外に外出してしまった、戻ってきたら是非とも疲労回復の飲み物でも持ってきてほしいわ。
「て、てめえ!」
ごろつきが二人三人と襲ってくる。
ただここは通路、しかも階段を下りたばかりとなると戦闘体勢にはすんなりとは移れない。
手前の男が一歩踏み出した瞬間、私は腹部に一発。
続く男は懐に手を伸ばしたことから何か武器を所持していると思われたので股間に一発、膝をついたら顎に一発のおまけつき。
後続はどう動くかしら。
武器を取って戦うにも倒れた彼らが盾になってくれる。
「この野郎!!」
それでも構わないのか。
まあいいわ、後退しよう。
広い空間に移ったほうが私としても動きやすい。
あんな通路じゃあ男臭くてたまらないし。
何よりここは飛び道具が豊富。
隠れる場所も多い、私が戦うには適している。
豪腕女傑と言われた私には、ね。
「蜂の巣にしろ!」
銃は厄介だけど、飛んでくる机を跳ね飛ばす力は無いはず。
私は机を持ち上げて奴らに投げつける、軽くて投げやすいわ。
「えぇっ!?」
二つ、三つ、四つ。
狭い廊下でばかすか撃ってるんじゃあ避ける場所も探せないでしょうに。
「ちょ、待て!」
「待つか!」
大きい机もあった、これも投げておこう。
「まっ――」
廊下は机で埋まってしまった。
もし動ける奴がいたとしてもこちらには近づけまい。
「お、お前……何者、だ」
「あら、股間は大丈夫? あんまり動かないほうがいいわよ、下手に動いたらあんたの股間に追撃するから」
「やめてぇ……」
男は玉玉か棒を強打されると弱くなる。
大きな弱点よねえ。
「ねえ、ここ、地下あるでしょ」
「な、なんの、ことかな」
「玉一個なくなっても大丈夫?」
「地下、ありますぅ」
よかったわね、玉の相方が死なずに済んだわよ。
「奥の部屋の、箪笥の下に、扉、あるから……」
「ありがと」
この世界のごろつきも素直なものねえ。
私は奥の部屋に行き、箪笥を見つけて下部分を調べるとした。
うん、少しだけこの辺りは他と比べてゴミが落ちてないわ。
出入りしないとこんな状態にはならないわね。
この箪笥、それほど重くはないしむしろ動かすことを前提として重いものは入れていないようだし動かすのは容易い。
「よっと」
角から引っ張り出してずらしてみる。
「あらあら」
するとそこには小さな扉。
開けてみると梯子がかけられていた、冷えた空気に乗って魔力も漂ってきている。
魔力の源がこの先にあるわけね。
梯子を降りると魔力が直に感じられる、この気配、いるわね。
人か魔物か、それは見てのお楽しみ。
「暗いわ、確かすいっちとかいうのが光を作るんだったわね」
すいっちを探す。
こういうのは入り口近くにあるとか。
壁を触っていくと何かに触れた、これね。
室内は光で照らされる――
「鉄の檻?」
しかも中には魔物がいた。
「ロドリヴァ……?」
『――うちの組員によくも手を出してくれたな、おい』
「……この声は?」
どこから流れてるのかしら。
居酒屋マッチョにはすぴーかーで音を流してたわね、ここにもあるのかしら、持ち帰って調べてみたい。
『そいつぁようやく捕まえた化け物でよお、餌は何を食うのか知らんが人間も喰うんだろうなあ』
「まあ、食べますね」
『なんだ知ってんのかこいつを、なら手っ取り早い。お前には餌になってもらうよ』
餌といっても私は既にマッチョ店長を釣る餌になってるし、他の餌になる予定はないわ。
檻がゆっくりと開けられていく。
誰か壁の裏にいて檻を動かしてるのかしら。
『あの筋肉野郎も話をつけたらこいつに食べさせてやる』
「ふーん、できたらいいわね」
指の骨を鳴らして手首の運動。
どれくらい殴ればこいつは倒れるかしらね。
普通の人間に捕まるくらいなのだから大した力は無いでしょう。
地下にいたら魔力の供給も十分じゃないでしょうし。
『おら、打ち殺せ!!』
男の声と同時にロドリヴァが動き出す。
狭いんだから手を振り上げないほうがいいわよ。
案の定、ロドリヴァは天井に手をぶつけ、私はため息をついた。
「馬鹿にされてる気分」
ロドリヴァは仕切りなおして再び攻撃を仕掛けてくるが、先ずはその右手を全力で殴って反対方向に曲げるとした。
脆い脆い。
『はぇっ!?』
「私を殺したいなら上級ロドリヴァ百体連れて来い!」
ロドリヴァの頭上まで跳躍し、頭を地面に叩きつけ止めのかかと落とし。
頭部は破壊した、もう動けまい。
『ちょ、ちょっとぉ……』
「うーん、期待外れ。まあでもロドリヴァ程度でもこの世界に来れるならある程度異世界とこの世界の行き来はしやすくなったと考えるべきかしら」
小物の魔物ですらこの世界に来れているのならば召還や異世界移動魔法を使わずとも穴があると見ていいわね。
その点も調べておこう、今はエヴァルフトしか帰る方法を知らない。
私も移動魔法は齧っていたから独学でいけそうだけど。
『ぐ、せ、折角手に入れたのに、なんてことするんだ! ただじゃおかんぞ貴様!』
「魔物に健気な少女を襲わせといてそれ言う」
『お前のような奴が健気なわけあるか! なんだあの力は、ゴリラか貴様!』
「ごりらってのがよく分からないけど、すごく失礼なこと言われてる気がするわ。あんたは放っておくと迷惑かけてきそうだから今そっち行くわね」
『え、ちょ』
梯子を上るのは面倒だから天井をぶん殴って一階に。
さっき倒した奴らが吹っ飛んじゃったけど気にしないでおこう、私に襲い掛かった罰だ。
「上の階かしら」
何があるか分からないから一応ここは階段を使おう。
「ここにはいないようね」
組員達は普段ここにいるらしい。
ソファや机などが置かれており、灰皿にはあの臭い匂いを放つものがあり、煙を漂わせていた。
消去法で三階になるわね、警戒しておこうかしら。
窮鼠猫を噛む――マッチョから借りた本にそんな文章が載ってたわ。
いんたぁねっとってので調べてみたら弱い奴もたまには反撃するらしいから、この世界でも油断は禁物ってこと。
三階に行き、扉を開けるや何かを振り下ろされた。
けど遅い、指で挟んで止めよう。
「ぐぐぐ……一体、何者だてめぇ……! ただの店員さらったって聞いたんだぞこっちは!」
鬼気迫る表情でいるが、彼にはこれが全力なのだろうか。
この世界の剣は細いけど刃の具合からしてよく斬れて頑丈そう、でも私は斬れないわね。
「それが今や組が壊滅の危機だ、どうしてくれる!」
「そもそも私を襲うのが間違いだったんだし、自業自得じゃない?」
こいつがここを仕切っているようね。
剣を引いて距離を取ったことから戦闘経験も豊富。
体つきは服の上からでは分からないけど相当鍛えているのが分かるわ、たださっきの一振りから剣術は得意じゃなさそうね。
「お前が何者なのかは知らねえがこいつをぶち込めば死ぬだろ!」
懐から銃を取り出してきた。
ためし撃ちしたから性能はもう理解してる。
男が向けている銃口から弾道を推測、速度は私なら目で捉えられる。
発砲音と同時に、私は指で弾を挟んだ。
「熱っ」
意外と熱かった。
「えぇ……いや、えぇ……」
彼は何故言葉を失ってるのだろう。
「ちょっと、魔力で強化してなかったら火傷ものよ。熱いじゃない」
「こ、この、化け物がぁぁぁあ!」
連発してくるらしい。
ここは魔力をもう少し練るとしよう。
二発目、三発目を弾きながら私は距離を詰め、男の持っている銃を取り上げて、
「えいっ」
ビンタ。
「ひぇっふ」
あ、魔力込めてたから手加減できなかった。
男は壁に叩きつけられてそのまま気絶してしまった。
……弱い。
マッチョ店長が来るまでどうしよう、てか店に戻らないと人手が……。
「おーい、起きてー」
こいつを起こそう。
こういう時は水をかけるのが一番だ。
あ、いいものがあるじゃない。
店にもあったわね、一升瓶。
彼に中身をぶちまけて起こすとする。
「ぶはっ、へあっ!?」
「起きた?」
「あ、あぃ……」
「ねえ、そろそろ店に戻らないといけないし、こっちはこっちで用件は済んだから行っていい? あとまた店に迷惑かけにきたら今度はこの建物を跡形も無く潰すから」
「は、はい……ど、どうか、命だけは……」
「まあ店長次第で私はあんたたちとあんたの上にいる連中全部潰してもいいけど」
「そ、それだけは……」
闘争心というものがこの世界の男達には欠けてる。
すぐにひれ伏すなんて情けない、あの英雄のように強者に立ち向かう強い心をこの世界の男達は持っていると思ったのだけど。
「布栄くーん!」
あ、マッチョ店長の声だ。
どたどたと階段を駆け上がってくる。
「だ、大丈夫かい布栄君!」
「フェイですけど」
「大丈夫そうだな! なんか皆倒れているし、逃げるなら今のうちだぞ!」
「逃げる? 普通に帰りましょうよ」
逃げる必要なんてどこにもない。
こいつは武器も手放して降伏状態だし。
「あ、あの、すまなかった、うちも出世で焦って、ちょいとあんたの土地が手に入れらればと思って、だけど、もう手は出さねえから勘弁してくれ!」
ほら、これですよ。
「何があったのかよく分からないんだが」
「店長、彼らはもう迷惑かけないってことらしいです」
「どうしてそうなったんだ?」
「さあ?」
店長は困惑して私と未だに土下座している男を交互に見た。
私は別に何もしてないよ、ただビンタしただけで。
「私としてはありがたい話だ。あの土地だけは父との思い出があってね、今回のような件にならないようにしてもらいたいのもあるし貴方達が困っているというのならば他の土地でお互いに話し合うのもいいかもしれない」
「そ、それは、その、ま、またお話が出来る機会があったら是非、あの、今回は行き過ぎた行為、どうか見逃してくれ……」
大の大人がこうして頭を下げてるのを見てると気まずいわね。
「あんたも人が悪い……こんな奴、引き入れてるなんてよ……」
「うん? まあな、うちでよく働いてくれる笑顔が素敵な子だ!」
妙な行き違いを感じるわ。
ようやく外に出られた、久しぶりに戦闘が出来て楽しかったわ。
「すまなかったね布栄君」
「いえ、別に」
もうふえいでいいわよ。
「私もね、父が資産家で土地に関する交渉がたまに来るのだが、まあこの手の方々もやってくるわけでね。互いに利益になるような、皆が幸せに、そして笑顔になるようなものであればいいのだがね。今回は、自分勝手ではあるが、私が笑顔になれなくて話を断り続けていたんだ」
「いいんじゃないんですか。いつも笑顔の店長が笑わなくなったら不気味ですし」
笑顔の仮面つけてるようなものだし。
「どうしてこうなったのかは分からないが君が何かやってくれたのは分かる、ありがとう、心から感謝する。今日は大変だっただろうしもうあがっていい」
「いえ、ちゃんと仕事はします。別に怪我とかしてるわけじゃないですから」
「ほう。君はやはり他の女性と少し違うね、どこかこう、心の強さとか、人と違う強さが感じられる。ふふっ、私でも叶うかどうか」
店長、只者じゃないかもしれない。
この世界の人間がこうも私を分析できるなんて。
鍛えられたこの肉体に魔力を宿らせたら一体どれほどの破壊力をもたらすやら。
異世界で魔力について一から学ばせてみたいわ、きっと国を守る部隊長になることは間違いないわね。
「では仕事をしようか! 今日もお客様の笑顔を見なきゃね!」
「そうですね、店長の笑顔には敵いませんが」
「いやあ嬉しいことを言ってくれるねえ! 私もより笑顔でより筋肉を鍛えたくなったよ!」
「筋肉はいいです」
魔力の源についてはこれといった成果は無くとも、様々な情報は得られた。
この世界に魔物がやってきているし、英雄様に会って話をすべきかもしれない。
後日にはセルファ様も来るのだから場合によってはことが大きくなるかも。
当初の目的はセルファ様との合流だったけど、あの方が来るのはまだ先――ならば次は英雄様を探そう。
名前……なんだったかしら、
こーすけ、確かこーすけだったような。
くずなこーすけ、とかだった気がする。
情報は少ないけど、探してみよう。
「セルファ様、色々と病んでるから何をしでかすやら……」