すべての力を動員して抗戦の勝利をかちとるためにたたかおう (一九三七年八月二十五日)
これは、毛沢東同志が一九三七年八月、中国共産党中央委員会の宣伝部門のために書いた宣伝扇動要綱である。この要綱は、当時、陝西省北部の洛川でひらかれた中国共産党中央委員会政治局の拡大会議で採択された。
(イ)七月七日の蘆溝橋事変は、日本帝国主義の中国中心部にたいする大がかりな進攻の始まりである。蘆溝橋の中国軍の抗戦は、中国の全国的な抗戦の始まりである。日本侵略者のとどまることのない進攻、全国人民の断固たる闘争、民族ブルジョア階級の抗日への傾斜、また中国共産党の抗日民族統一戦線政策についての熱心な提唱と断固たる実行およびその政策が全国の支持をえたことによって、「九・一八」①いらいの中国支配当局の対日不抵抗政策は、蘆溝橋事変ののち抗戦を実行する政策に転換しはじめ、一二・九運動②いらいの中国革命の発展の情勢は、内戦を停止し抗戦を準備する段階から、抗戦を実行する段階に移行した。西安事変③と国民党中央執行委員会第三回全体会議を起点として、国民党が政策上の転換をはじめ、さらに蒋介石氏が七月十七日廬山で抗日についての談話を発表し、またかれが国防の面で多くの措置をとったことは称賛にあたいする。陸軍、空軍、地方部隊をとわず、前線のすべての軍隊は勇敢に抗戦をすすめ、中華民族の英雄的気概をしめしている。中国共産党は最高の熱意をこめて、全国のあらゆる愛国的軍隊、愛国的同胞に民族革命のあいさつをおくるものである。
(ロ)しかし他方では、七月七日の蘆溝橋事変以後も、国民党当局はあいかわらず「九・一八」いらいのあやまった政策をとりつづけ、妥協と譲歩をおこない〔1〕、愛国的軍隊の積極性をおさえつけ、愛国的人民の救国運動をおさえつけている。日本帝国主義は、北平、天津を奪いとったのち、その野蛮な武力をたのみにし、ドイツ、イタリア両帝国主義の声援に力をかり、イギリス帝国主義の動揺を利用し、中国国民党の広範な勤労大衆からの遊離を利用して、全華北地方とその他の各地に猛烈な進攻をおこなう第二歩、第三歩の予定作戦計画を実行するというように、これからも大規模な進攻の方針をとりつづけることは、すこしも疑う余地がない。察哈爾、上海などにはすでに戦いの炎がもえあがっている。祖国を滅亡の危機から救い、強力な侵略者の進攻に抵抗し、華北地方と沿海地方を防衛し、北平、天津と東北地方を奪回するためには、全国人民と国民党当局は、東北地方と北平、天津をうしなった教訓、エチオピア滅亡の前例、ソ連がかつて外敵に勝利した歴史〔2〕、スペインがいま成功裏にマドリードを防衛している〔3〕経験を深く認識し、かたく団結して祖国防衛のために最後までたたかわなければならない。今後の任務は、「すべての力を動員して抗戦の勝利をかちとる」ことであり、その鍵は国民党が政策を全面的、徹底的に転換することである。抗戦問題での国民党の進歩は称賛にあたいするもので、これは中国共産党と全国人民が多年望んでいたことであり、われわれはこのような進歩を歓迎する。しかし国民党の政策は、民衆を動員すること、政治を改革することなどの問題では、依然としてすこしも転換していない。人民の抗日運動にたいしては、依然として基本的にその禁を解こうとせず、政府機構にたいしては、依然として原則的な改造をくわえようとせず、人民の生活にたいしては、依然として改善の方針をとらず、共産党にたいする関係でも、誠意をもって協力するところまでいっていない。このような国家民族の存亡の瀬戸ぎわにたって、もし国民党がまだこうした政策を固執し、早急に転換しようとしないなら、抗日戦争をきわめて不利にするであろう。一部の国民党員は、抗戦に勝利してから政治改革をおこなうといっている。かれらは、政府だけの抗戦で日本侵略者にうち勝つことができるとおもっているが、これはあやまりである。政府だけの抗戦では、個々の勝利がいくらか得られるだけで、徹底的に日本侵略者にうち勝つことは不可能である。徹底的に日本侵略者にうち勝つには、全面的な民族抗戦をするほかはない。しかし、全面的な民族抗戦を実現するには、国民党がその政策を全面的、徹底的に転換しなければならず、全国が上から下まで共同して徹底的抗日の綱領を実行しなければならない。その抗日綱領が、第一次国共合作のさい孫中山先生のみずから制定した革命的三民主義と三六政策④の精神にもとづいて提起された救国綱領である。
(ハ)中国共産党は、あふれるばかりの熱意をもって中国国民党、全国人民、全国の各党、各派、各界、各軍にたいし、徹底的に日本侵略者にうち勝つための十大救国綱領を提起する。中国共産党は、祖国を防衛し日本侵略者にうち勝つ目的をたっするには、この綱領を完全に、誠意をもって、断固遂行する以外にないものと確信している。そうではなく、旧套を固執して時機を失するならば、その責任を問われることになる。全国が滅びさってからでは、いかに悔いようともとりかえしはつかない。十大救国綱領はつぎのとおりである。
一 日本帝国主義の打倒
日本と国交を断絶し、日本の官吏を駆逐し、日本のスパイを逮捕し、中国にある日本の財産を没収し、日本にたいする債務を否認し、日本と締結した諸条約を破棄し、すべての日本租界を回収する。
華北地方と沿海各地を防衛するため、最後まで血戦をおこなう。
北平、天滓と東北地方を奪回するため、最後まで血戦をおこなう。
日本帝国主義を中国から駆逐する。
いかなる動揺、妥協にも反対する。
二 全国の軍事総動員
全国の陸海空軍を動員し、全国的抗戦をおこなう。
単純防御の消極的な作戦方針に反対し、独立自主の積極的な作戦方針をとる。
常設の国防会議をもうけ、国防計画と作戦方針を討議、決定する。
人民を武装化し、抗日遊撃戦争を発展させて、主力軍の作戦に呼応させる。
軍隊の政治工作を改革し、指揮員と戦闘員を一致団結させる。
軍隊と人民を一致団結させ、軍隊の積極性を発揮させる。
東北抗日連合軍を援助し、敵の後方を破壊する。
抗戦の軍隊にはすべて、平等な待遇をする。
全国各地に車管区をもうけ、全民族を動員して戦争に参加させる。こうして、しだいにやとい兵制度を義務兵役制度にきりかえていく。
三 全国人民の総動員
民族裏切り者をのぞく全国の人民はすべて、抗日救国のための言論、出版、集会、結社および武力抵抗の自由をもつ。
人民の愛国運動をしばるすべてのふるい法令を撤廃し、革命的な新しい法令を公布する。
すべての愛国的、革命的な政治犯を釈放し、政党禁止を解除する。
力のあるものは力をだし、金のあるものは金をだし、武器のあるものは武器をだし、知識のあるものは知識をだすというように、全中国の人民を動員し、武装化し、抗戦に参加させる。
民族自決と自治の原則のもとに、共同して抗日をおこなうよう、蒙古族、回族、その他の少数民族を動員する。
四 政治機構の改革
真に人民を代表する国民大会を招集して、真の民主的憲法を採択し、抗日救国の方針をきめ、国防政府を選挙する。
国防政府は、各党各派および人民団体のなかの革命的な人びとを吸収し、親日分子を追放すべきである。
国防政府は、民主的でもあり集中的でもあるという民主集中制をとる。
国防政府は、抗日救国の革命的政策を実施する。
地方自治を実行し、汚職官吏を一掃し、廉潔な政府を樹立する。
五 抗日の外交政策
日本の侵略主義に反対するすべての国ぐにと、領土・主権をうしなわない範囲で、反侵略同盟および抗日軍事相互援助協定をむすぶ。
国際平和戦線を支持し、ドイツ、日本、イタリアの侵略戦線に反対する。
朝鮮および日本国内の労農人民と連合して日本帝国主義に反対する。
六 戦時の財政経済政策
財政政策は、金のあるものは金をだす、民族裏切り者の財産を没収して抗日の費用にあてる、ということを原則とする。経済政策は、国防生産を整備拡大し、農村経済を発展させ、戦時生産品の自給を保証する。国産品の使用を提唱し、地方物産を改良する。日本商品を禁絶し、不正商人をとりしまり、投機や市場操縦に反対する。
七 人民生活の改善
労働者、職員、教員、抗日軍人の待遇を改善する。
抗日軍人の家族を優遇する。
苛酷で雑多な税金を廃止する。
小作料と利子を引き下げる。
失業者を救済する。
食糧の供給を調整する。
災害と飢きんの救済をする。
八 抗日の教育政策
教育におけるふるい制度、ふるい課程をあらため、抗日救国を目標とする新しい制度、新しい課程を実施する。
九 民族裏切り者、売国奴、親日派を一掃し、後方をかためる
十 抗日の民族団結
国民党と共産党の協力を基礎に、全国の各党、各派、各界、各軍の抗日民族統一戦線を樹立して抗日戦争を指導し、誠心誠意団結をはかってともに国難にあたる。
(ニ)政府だけの抗戦という方針をすてて、全面的な民族抗戦の方針を実現しなければならない。政府は、人民と団結し、孫中山先生のすべての革命精神を復活させ、上述の十大綱領を実行し、抗日戦争の徹底的な勝利をたたかいとらなければならない。中国共産党とその指導する民衆および武装力は、上述の綱領にもとづいて抗日の最前線に立ち、祖国の防衛のために最後の血の一滴まで流してたたかうことを決意している。中国共産党は、自己の一貫した方針のもとに、中国国民党および全国の他の諸政党とおなじ戦線に立ち、手をたずさえて団結し、民族統一戦線のかたい長城をきずき、極悪な日本侵略者にうち勝ち、独立、自由、幸福の新中国のためにたたかうことをねがうものである。この目的をとげるためには、民族裏切り者の投降・妥協の理論に断固反対すると同時に、日本侵略者に勝てないと考える民族敗北主義にも断固反対しなければならない。中国共産党は、上述の十大綱領が実現されれば、日本侵略者にうち勝つ目的はかならず達成できるものと確信している。四億五千万の同胞が一致して努力しさえすれば、最後の勝利は中華民族のものである。
日本帝国主義をうちたおせ!
民族革命戦争万歳!
独立、自由、幸福の新中国万歳!
〔注〕
〔1〕 本巻の『日本の進攻とたたかう方針、方法および前途』の解題を参照。
〔2〕 『ソ連共産党歴史小教程』第八章を参照。
〔3〕 一九三六年、ドイツ、イタリアのファシストは、スペインのファシスト軍閥フランコを利用して、スペイン侵略戦争をおこした。スベィン人民は、人民戦線政府の指導のもとに、民主主義をまもり侵略に反対する英雄的な抵抗戦争をおこなった。この戦争で、もっとも激烈な戦いがおこなわれたのは首都マドリードの防衛戦である。マドリード防衛の戦争は、一九三六年十月から、前後二年五ヵ月にわたって堅持された。イギリス、フランスなどの帝国主義諸国がいつわりの「不干渉」政策なるものによって侵略者をたすけたこと、それに人民戦線の内部に分裂が生じたことによって、マドリードは一九三九年三月に陥落した。
〔訳注〕
① 本選集第一巻の『日本帝国主義に反対する戦術について』注〔4〕を参照。
② 本選集第一巻の『日本帝国主義に反対する戦術について』注〔8〕を参照。
③ 本選集第一巻の『蒋介石の声明についての声明』注〔1〕を参照。
④ 本選集第一巻の『湖南省農民運動の視察報告』注〔8〕を参照。




