第1話
「わらじを……。わらじを買ってくださいまし……」
実家が没落した京香は父に編み方を教わったことがあるわらじ売りで再起を図っていた。
「冬の九州をなめてましたわ……」
必死にわらじを売ろうとするが一足も売れない。
「な、なぜこんなに寒いのにわらじが売れませんの!?」
おかしい。自分には父から受け継いだ商才があるはず。
「お給金が払えなくてセバスチャンには暇を出してしまったから誰も助けてはくれませんわ……」
このままでは凍え死んでしまう。
「そうですわ! 暖を取るならわらじを燃やせばいいじゃない! コートの静電気を利用すればいけるかしら?」
わらじを燃やす方法を考えているとわらじたちがしゃべりだした。
「おい! 今、俺たちを燃やそうとか考えたろ!?」
「こんな町中でわらじを燃やすなんて非常識ですよ!」
「ああ、あまりの寒さにわらじの会話が聞こえてきましたわ……。うっ……」
いよいよ倒れてしまった京香。それを心配するわらじたち。
「大丈夫ですか!?」
「待ってろ! 今のお前に必要な物を持ってきてやる!」
「……必要な物? ミルクココアかしら?」
わらじが持ってきたのは三国志のゲームだった。
「そういえば三国志にもわらじ売りがいたよな?」
「えっと、確か料理でしたっけ? それとも中火?」
「そ、それはきっと劉備ですわ……」
それが京香の最後の言葉になった。
「うっ……。ここはどこですの?」
気がつくと玉座の間だった。
「京香よ。ここブンゴ国から魔王討伐の旅に出るそなたに餞別を渡そう」
金貨の入った袋を渡された。
「吉報を楽しみにしておるぞ」
「感謝で涙がちょちょ切れそうですわ。必ずや魔王を倒して見せましょう」
その場の雰囲気に合わせて適当なことを言ってみる。そして城から追い出された京香。
「な、何枚の金貨が入っているのかしら!?」
城から少し離れたところで袋の中を確認してみる。
「えっと、30枚? これっていくらなのかしら?」
「さっき人に聞いたところリンゴ1個が銅貨2枚だそうです。そして銅貨10枚で銀貨1枚。銀貨10枚で金貨1枚。なのでもらった金額は30万円くらいですね」
「魔王討伐は命がけなのに少ないな。あんまり期待されてないんじゃないか?」
「確かに……。ってあなたたちもついてきてたの?」
わらじたちが一緒に袋を覗いていた。
「お前1人じゃ心細いだろ?」
「僕たちが仲間になってあげますよ」
「わらじになにができるのか疑問ですが感謝しますわ」
とりあえず町を探索してみる。京香の後をヒタヒタとついてくるわらじたち。
「あなたたちを見ても誰も驚かないわね……」
「さっき情報収集をしていたときも普通に話してくれましたよ?」
「人を見かけで判断しない連中で助かったぜ」
大通りに面した宿屋を見つけた。
「しばらくここに泊まって今後のことを考えましょう」
看板には宿屋董卓と書かれていた。中に入ると宿屋の主人がカウンターで寝ていた。
「ごめんくださいまし。部屋をお願いしますわ」
「……あ、ああすまないね。素泊まり1泊銀貨7枚だよ。部屋は2階に上がって5号室ね」
京香が2階に上がろうとすると女性客が慌てて降りてきた。
「あの、ごめんなさい。3号室の者ですけどチェックアウトします……」
「あれ? お客さん明日までの宿代をいただいてますが……」
鍵を返して逃げるように去っていく女性客。
「急用かしら?」
そのやりとりを見ていた京香はあまり気にせず自分の部屋に入る。
「窓からの景色がいい部屋で気に入りましたわ」
「立地がいいのに宿代が安くて助かりましたね」
「それよりこの世界のことをどう思う?」
ようやく落ち着いて状況の整理ができる。
「私は死にましたわよね?」
「王さまが言っていた魔王討伐ってなんのことだ? それにこの宿屋の名前が董卓だったよな?」
「ブンゴ国と言ってましたけど町の造形や人の持っている武器を見ると西洋風で僕たちの知っている世界ではないですよね?」
そして答えが導き出された。
「ゲームの世界に転生してしまいましたわ……。ムキーッ! あなたたちがもっと気の利いた物を持ってきてくれていたらこんなことにはなりませんでしたわ!」
「うるせえ! わらじを売らずにお前が着てた高そうなコートでも売ればよかっただろ!」
「この世界観は京香さんが死ぬ前の会話が影響したんでしょうか……。これからどうするんですか?」
京香は前世での醜態を反省した。
「もうあんな無様な最後はごめんですわ。この世界でお金持ちになりましょう」
「3人で協力するから大丈夫ですよ」
「ゲームの世界なんておもしろそうじゃないか」
外を見るともう夕方だった。
「ディナーを食べたいからお店を探しに行きましょうか」
部屋を出ると足元でなにかが光った。
「これは指輪? 誰かの落とし物かしら? 後でここの主人に渡しておきましょう」
宿屋を出て食堂を見つける。
「いらっしゃいませ。ご注文はなににしますか?」
女の子の店員が話しかけてきた。メニューから注文する。
「このサムライ定食をお願いしますわ」
「かしこまりました!」
料理を食べていると隣の席から会話が聞こえてくる。
「冒険者になったばかりだからなにをすればいいかわからないよ……」
「そんなときは冒険者養成学校に行くといい。出席は自由だから冒険をしながら好きなタイミングで授業を受けられるぞ」
会話を聞いたわらじが話しかけてきた。
「ゲーム特有の俺たちに向けたチュートリアルだな」
「行ったほうがいいんじゃないですか?」
「そうですわね……。説明書を熟読するのは大切ですわ」
夕食を食べ終えて食堂を出た京香。
「どうなることかと思いましたが意外と親切でなんとかなりそうですわね」
「冒険者養成学校でなにを教えてくれるのか楽しみだぜ」
「生活費も稼がないといけませんから独自で冒険する必要もありますね」
プレイヤーへの配慮なのか夜の町は静かだった。京香の新しい人生が始まる。




