II:千里眼で見えたこと
「何か見えたか」
神官長から尋ねられたのは朝のお勤めを終えた直後のこと。教会に居る以上、私も監禁されている部屋で朝のお勤め、所謂神への祈りは行う。礼拝室にすら行けない。監禁とはそういうものだ。
だから朝のお勤めを終えた神官長が私が監禁されている部屋を訪ってのこと。
ついでに神官長自ら私の食事を運んでくるのも、私が何か見えたことを知るためだ。
私は他の神官すら会ったことが無い。
他の神官たちは私のスキルについて知らないが、特殊なスキルであることは知っている。千里眼で確認済みだ。特殊なスキルだから監視という名の監禁も仕方ないと思っていることも知っている。つまり、私は危険人物扱いだ。
「そうですね」
珍しく私が見えなかった、と言わなかったことに神官長が眉を上げる。
「見えたのか」
ここのところ「見えません」としか言わない私だったので、今日もそうだと思っていたのだろう。私の反応が違ったことで神官長も態度を変えた。
「私の弟が男爵家の嫡子であるのに関わらず、陛下の愛妾の子とはいえ王女殿下と婚約していることは私も知っております」
神官長は、見えたことを聞いているのに、違うことを話し始めた私を訝しむように見る。だが、私はそこに気づかないフリをして続けた。
陛下には正妃殿下の他に側妃殿下と愛妾が一人ずつおられる。正妃と側妃は政略結婚で愛妾はその名の通り、陛下が愛した女性だ。側妃に迎えないのは、愛妾が準男爵の娘であることで、身分の問題もあるが、なにより正妃と側妃と渡り合えないから。下手に位を与えて正妃と側妃から陰湿な嫌がらせどころか暗殺者を送り込まれるような生活には向かない、と陛下は判断している。正しい判断だと思う。
というか、愛妾に迎え入れなければ、嫌がらせもされなかったはずなのに、その辺りは国王が愚かだと思っている。まぁ私の感想は置いといて。
その愛妾の娘は当然他国へ嫁入りさせられるだけのものが無い。後ろ盾も無いし嫁入り支度の金も無いし王女としての身分を得ているのに勉強しないしマナーも悪いし。
国王は可愛い娘の婚約をどうにか考えたが、上位の貴族の子息に婚約者は当然いる。そして可愛い娘であっても無い無い尽くしの娘では伯爵位以上に嫁がせられないことは分かっていた。
ということで、我が家に縁談を押し付けた。
理由? 私をお前たちの代わりに引き取って育ててるんだから、それに報いよ。というものだ。
国王から言われたら断れない。それに愛妾の娘とはいえ、王女の身分。両親たちは万歳、と両手を挙げて受け入れた。弟も受け入れた。
だけど、肝心の王女がなんで自分は男爵家に嫁入りしなくちゃならないの、とお怒り。自分の立場も自分自身も省みることが無い残念な王女だった。ご不満でご不満で仕方ない王女と、弟との婚約は一年前に決まったのだが、来年には結婚することに王女は、さらにご機嫌を悪くして。
そこへ他国の婚約破棄のお話を聞いてしまったものだから、自分も婚約破棄してやればいい、と悪知恵だか浅はかな考えだかを巡らせた。
そして。
「ただ婚約破棄するだけだと、他国の二の舞のように自分が咎めを受けるかもしれない、とお考えになられたようで、弟に冤罪を被せて断罪する、と息巻いておられましたよ。断罪決行は一週間後の王家主催の夜会にて行われます。別に私は弟も両親も家族の情を持っているわけではないですが、それでも冤罪を着せられて断罪、というのは寝覚めが悪いので、神官長にお伝えしてます」
神官長は頭を抱えている。
「それは嘘じゃないのだろうな」
などと疑って来るが、私は口の端を上げて語る。
「神官長もご存知ですよね。千里眼は未来など見えない。現在起きている出来事しか、見えない。夢でもないことさえも」
私の語る言葉に神官長は口を噤む。
過去、私が嘘を吐いてないことは国王の調査で判明していた。だからこそ、今回も嘘だとは言えない、ということも。
「アルフォンス、呉々も他言無用」
分かっています、と感情も乗せずに答える。他言無用も何も神官長以外、この部屋に誰も近づきもしないのに、という雰囲気を神官長は理解したのか、それ以上は何も言わずに白パン一個を置いて出て行く。外からしか掛けられない鍵が掛かった音を聞いてから、白パンに手を伸ばした。
この白パンは、ふわふわしているので食べやすい。子どもの頃は黒くて固いパンだった。夜は白パンに野菜のスープと果物がつく。肉や魚のソテーは月に一度食べられる。尚、私だけがそんな食事で、他の神官たちや神官長は週に一度肉か魚を食べていることも、千里眼で知っている。
子どもの頃は肉や魚すら無くて、一度、皆は食べているのに私が食べられないのはなぜなのか、神官長に問いただしたら、私は神官たちと違って働いてないからだ、と言われた。
監禁されていて、どう働くのか尋ねたら、神官長は月に一度だけだ、と苦々しそうな顔で食事改善を告げてきた。それ以上文句を言えば、無しになりそうな気配を感じたので、それ以上は言わなかったが。
そんな神官長を私が信用するわけがない。
だから、生きているのが邪魔なら死んでも良いと思っているのに、神官長はそれすらも許さない。
全く面倒で嫌な人生だ。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




