I:厄介なスキル
この世界には、スキルというものが存在する。
スキルとは、どの人間にも産まれた時から備わるものであり自分で選べるものではない。
子が生まれたら国内にある教会にて生まれた報告とスキル判定をするのが義務化されている。
王族貴族平民関係なく。
スキルは様々で料理だったら料理人。身体強化なら護衛などの職業へ進む。
貴族も平民も関係ないので貴族令嬢に料理スキルや平民に領地経営スキルを持つ者が生まれることもある。
そのような時は教会が将来の就職の相談や貴族のスキルに纏わる悩み相談を請け負ってくれる。
また稀に薬師などの貴重なスキル持ちが生まれた時は教会から国へ報告が上がり、貴重なスキル持ちは国に保護される。或いは危険視されるスキルは監視される対象となる。
監視されるようなスキルを持って生まれた者に自由は無いのが基本。併し条件を付けてある程度の自由を保障されることもある。
例えば薬師スキルに似ているが少し違うのが毒薬師スキル。薬師スキルは薬草から薬を抽出し販売するスキルである。
だが毒薬師スキルは、その名の通り薬草から毒薬を作れる。解毒剤も作れるので王族や貴族には寧ろ重宝されるが、新たな毒薬も作れるから危険視もされる。
それゆえに監視対象となる。
昔は保護という名の監禁が当たり前だったが、昨今は人権擁護の観点から監視付きの自由を与える方がいい、という風潮に変わっているため、四六時中監視者付きで生きることが多い。
それすらも息が詰まるという者も出てくることから、条件を提示してそれが呑める者は監視を緩めることも出来る、というのが最近の風潮だ。
人権擁護の観点という風潮が出来た背景には、昔はスキルの判定だけを請け負っていた教会が、職業の斡旋や貴重なスキル持ちの相談を請け負うようになったことで発言権が強まったことで、人権擁護の声も高まり、国の中枢が無視出来なくなったことによる。
まぁそんな時の流れがあっての現在。
条件を付けてそれを呑める者は危険視されるスキルでもある程度の自由を保障されるようになった。
その、貴重なスキルと言えばいいのか、自由とはかけ離れた生活が保障されてしまうスキルと言えばいいのか。厄介なスキルを持って生まれてきたのが、私である。
つい最近、隣国で魅了スキル持ちの第三王子という存在が公爵家へ婿入りした、という話が我が国でも駆け巡ったが、それを私はその話が公表される前から知っていた。
私のスキルは、千里眼、という。
未来が見えることは無い。
だが、現在の状況ならばどれだけ離れていても知ることが出来る。つまり、遠くの場所でも目の前で起きているがごとくに見えてしまう。
このスキルは、当然生まれた時に判定され、教会から監視下に置かれる対象となった。
現在進行形で行われていることが見えてしまうのであれば、例えば国家機密も見えてしまうということになる。危険視されて当然のスキル。
だから監視下に置かれることは自分で納得している。そのことに不満は無い。寧ろなんでそんな面倒なスキルを持って生まれてしまったのか、と自分を疎んでいる。自由など無いことも承知しているので、可能だったなら自死を選びたかった。
過去形なのは、自死を選ぼうと教会の高い屋根の上に登り始めたところで、慌てて止められ、以降は教会で一番偉い神官長が許可を出さない限り、窓の無い部屋に監禁されているから。
細い紐一本も部屋には無いし、カトラリーすら食事どきにも出されない。火をつけることなんて到底出来ないし、手洗いに行くのも神官がついて来るし、なんだったら手洗いのドアを開け放して用を足す羽目になっている。手洗いで一人にして逃亡や自死を図られたら、という懸念の所為だろうが、さすがに用足しを同性とはいえ神官に見られるのは屈辱だ。
これが人道的な観点によるもの、であればまだ良かったが、何のことはない。私のスキルである千里眼で様々な出来事を知りたいから、という王国延いては国王陛下のお心に沿うため、だそうだ。なんとも国王想いの神官長だ。
ちなみに私には国王への忠誠だの、敬意だのは皆無であることは言明しておく。
そんな私、アルフォンスは男爵家の第一子として生まれた。本来なら末端とはいえ貴族。第一子ゆえに跡取りとして育てられるーーはずだった。スキルが特殊なもので無かったなら。男爵夫妻、つまり両親は私のスキルが特殊なスキルであることが判明した時点で、私の養育は放棄している。教会の監視下に置かれているのがその証拠だ。
特殊なスキル持ちでも、人権擁護の観点から、条件付きではあるが、普通に暮らせる。私のスキルは千里眼ゆえに、見えたことを全て報告することが義務付けられる。あとはなんの枷も無い。見えたからといって出来事を変えられるわけでもないし、国家機密事項を見てしまったとしたら、私だけが問題視されるが、家族は問題視されない。私が見た内容を家族や友人などに話していたら問題だろうが、その辺りはそれこそ契約スキル持ちの者立ち会いで、千里眼で見えたものは報告以外では話さない、とかなんとか契約しておけばよいのだから。
契約スキル持ちの者は、大きな契約を交わす際に招かれる者が多い。後々違反をした者が居れば、その存在が分かるので違反者を特定して罰を与えることも出来る。そんなスキル。そのスキル持ちを立ち会わせて契約することだって出来た。そうすれば私は男爵家の第一子として生きていけた。だが、両親はその手筈を整えなかった。
要するに、私の存在を無かったことにした。
養育放棄し、教会に私を預けた。
私がどうなっても両親は無関係、ということだ。
その後、私の両親であるはずの男爵夫妻の間に弟が生まれたが、その弟を第一子で嫡男として王城へ届け出た。弟のスキルは農業。貴族には不要でも、弟という子どもの存在は、男爵夫妻には必要だったということだと分かる。
私は捨てられたのだ。
そのことについて思うところはあるが、それは両親であって弟ではない。弟は私の存在を知っているが、生まれた時から私が居ないのだから、存在を知っているだけのようだ。この辺りは千里眼で見えたこと。
私も弟に対して何も思わないので、似た者兄弟なのかもしれない。
ところで、千里眼というスキルだが、色んなものが見えることによって脳内処理が追いつかないことで、私はよくぶっ倒れた。そして高熱を出していた。その事実を踏まえると、両親は私を手放して良かったのかもしれない。嫡男としては病弱で育てられなかっただろうから。そういった点では、私も納得出来るので、なんとも複雑な気持ちだ。
さておき。
実は成長するにつれて、なんでも見えていた私は見るものがコントロール出来ることに気づいた。
見たい、と望んだものを見る、ということ。
これは神官長には報告しなかった。そんなことを報告した日には、他国の国家機密ばかり見させられるに違いない。国王経由の神官長の命はそんな感じだから。
千里眼スキルは、私の前に持っていた人は数百年前らしく、当時の資料が無いのか、不明な点が多い。だから千里眼スキルを解明したい、と神官長は嘯きながらスキルについて、私に報告を義務付けた。
だが、資料が無い以上、神官長ですら私の報告を信じるしかない。ということで、見たい、と望んだものを見ることは黙っておくことにする。
とはいえ、どこから黙っていたことがバレるか分からないので、それなら先回りで嘘を吐くことにする。
見たい、と望むものを見る、という報告ではなく、見えるものに限度がある、という言い方だ。
これなら。
何もかもが見えるわけではない。
見たいと願って見えるものでもない。
何が見えるのか、千里眼スキルの当人ですら分からない。
そう、理解してもらえるだろうと思って。
その思惑は見事に当たった。
成長するに従い、見えるものに制限がかかった、と言えば、千里眼スキルも成長すると思っていたらしい神官長は逆に退化したように思ったらしい。
あからさまには口にしないが、役立たずだな、と表情には出ていた。
そう思われることの方が私には好都合なので、気づかないフリをしておいた。
幼い頃は見えたものをなんでも口にしてしまっていた。
例えば、とある国で平民による暴動が起こっている。その影響でその国と隣国では小麦の値段も上がってしまっている。とか。後で国王が調査して事実だと判明した。我が国の下位貴族で私腹を肥やしている者がいる。とか。この家も調査を経て褫爵の憂き目に遭った。万事がこんな感じなら、普通の生活を送るより監視下に置いてもらう方が親も良いのかもしれない、と成人年齢に達した私も今は納得する。
それと親から捨てられた、という気持ちはまた別物ではあるが。
今は、例えばこの国や隣国辺りで盗賊が出た、とか平民を虐げている貴族、とか私腹を肥やしている者、とか、自分で条件を付けて見ているので、そういうものしか見えない。
あとは、コントロールしていることがバレないように偶に周辺国では無い国で起こった出来事も口にするが。例えば、飢饉が起きている国の隣国が支援しているとか。
公爵子息が婚約者に婚約破棄を突き付けて、真実の愛を叫んだとか。結局、その公爵子息は若気の至りと周囲に判断されて婚約者との婚約解消。領地で結婚も出来ずに一生を終える、と父親の公爵から沙汰を出された、とか。
そんなそこそこ重大だが、物凄く重大でもないことだけを口にしている。
仮に隣国かその向こう辺りで天災が起きたとしても口にしない、と決めている。
国王の考えは、それに乗じて戦争を仕掛けて国土を拡げようとしているから。支援をする考えの国王なら良かったが、生憎我が国の国王は、侵略していく考えの持ち主だと千里眼で王城内を見たことで知ってる。
我が国も他国も戦火になどさせてたまるか。
だから、言わない。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




