御夕飯でもいかがでしょう
ため息を吐きながら、アルテミスがもう一度説明し直すと、キルケはやっと納得した表情を浮かべた。
「なるほど。それなら、早く言ってくださいよ」
「だから、言ようとしてたんだけど……意味もなく護身道具をぽんぽん出していくから」
「あ、すみません」
「それで、今からキルケちゃんは殺されるんだけど……」
平然と言うアルテミスの言葉にキルケは一瞬考え込んだ。
「……そんな、平然として言わないでください!」
「あ、そっか。キルケちゃんって昔から死ぬことにかなりの抵抗があったよね」
「いやいや、誰だって死ぬことに抵抗はありますって」
「まぁ、そんなことはどうでもよくって……。今から君は、私の知り合いに林檎の果実酒を渡される。その中には毒が入ってるの……そして、あなたは肝臓を破壊され一週間居ないにベッドの上で息を引き取る予定」
「なんで、ベッドの上で確定なんです?」
キルケの質問にアルテミスは笑顔で答えた。
「え、なんだかそっちのほうがロマンチックかなって」
「そこじゃ無いでしょ。私、死にたくないです!」
必死に訴えてくるから、最初っからキルケを殺す気なんか微塵たりとも無い。
「まぁまぁ、この名探偵アルテミスさんにお任せあれ♪」
そう言って、アルテミスはスキップをしながら優雅に部屋に戻って行った。
「……探偵?……え、魔女が?」
* * *
「痛っ」
部屋に戻る途中、アルテミスは盛大に足をひねり床に倒れた。そもそも、慣れないヒールを履いているのにも関わらず何故スキップをするのかーー。
アルテミスはヒールで足をひねった直後なのにも関わらず、そのおぼつかない足で痛みを我慢しながら少し背伸びをする。それから、ラデルの耳元で囁いた。
「赤黒いドレスを着た、黒上ロングの女性」
それを聞いたラデルはアルテミスに目配せをし、お酒を取りに行った。それを、アルテミスはただ傍観するだけ。そして、ずっと食べたかったブリュレをおぼつかない足で取りに行くのだった。
一方でーーラデルが持って行ったのは確かにお酒ではあったが、果実酒などではなかった。何故なら、アルテミスはただ、お酒に毒を入れて暗殺することしか知らなかったから。
「こんにちは」
笑顔で近づいてくる女性にキルケは恐怖を覚えた。もしかしたら、と思ったのだ。作られた笑顔なのに、それに憎しみや殺意などは感じられないよくできた美しい笑顔だった。
「あぁぁぁぁ、あの!ころっ」
そこまで言いかけた所で、キルケは何故こんなことを言ったのか後悔する。そもそも、魔女暗殺屋相手にそんな交渉など通用するはずもない。
ただ、彼女はこちらを笑顔で見つめてきたのだ。
「どうかしましたか?」
そう言われた所で、キルケに謎のスイッチが入った。そう、これだって仕事に過ぎないのだと。
「いいえ、何か用事があるのですよね。ですが、私人と話すことが少々苦手でございまして」
光の無いその目をみて、ラデルは彼女が魔女であることを確信する。そして、毒を入れたシャンパンを彼女に差し出した。
「もしよければ、私と一緒に御夕飯でもいかがでしょう」




