第69話:決着
「これが答えです」
その言葉は、静かだった。
だが――
揺るがなかった。
◇
「……なるほどね」
商会ボスは、ゆっくりと頷く。
「ずいぶんと綺麗にまとめたじゃないか」
◇
皮肉ではない。
純粋な評価。
だからこそ――
重い。
◇
「でも」
男は、続ける。
「それで勝てるのかな?」
◇
問い。
最後の確認。
◇
「勝ちます」
俺は答える。
◇
「どうやって?」
◇
「もう始まっています」
◇
その瞬間。
外から、慌ただしい足音が響いた。
◇
「報告です!」
扉が開く。
息を切らした役人が飛び込んでくる。
◇
「市場の一部が……回復しています!」
◇
エリシアが、すぐに反応する。
「場所は?」
「南区画です!」
◇
「……やっぱり」
小さく呟く。
◇
そこは――
“仕込んだ場所”だ。
◇
「限定的な流通を再開」
「税の即時還元」
「最低限の信用保証」
◇
すべてを集中させた。
意図的に。
◇
「人が……集まっています!」
報告は続く。
「商人も、労働者も……!」
◇
「安全だと判断した」
俺は言う。
「流れが、でき始めています」
◇
「……それだけで?」
男が問う。
◇
「ええ」
◇
「人は、流れる」
「安全な場所へ」
「回る場所へ」
◇
「そして」
一拍。
◇
「集まる」
◇
◇
「次の報告です!」
別の役人が飛び込む。
◇
「他地域の資金が……」
「南区画へ流入しています!」
◇
エリシアが息を呑む。
「吸い上げてる……」
「ええ」
◇
「流れは、固定されました」
◇
男の目が、わずかに細くなる。
◇
「……なるほど」
◇
理解した。
◇
「僕が動かした流れを」
「そこに集めたわけか」
「ええ」
◇
「だが」
男は、すぐに言う。
「それだけじゃ終わらない」
◇
「分かっています」
◇
そして。
俺は、最後の一手を打つ。
◇
「切ります」
◇
◇
――同時刻。
◇
主要物流契約。
資金流通経路。
信用保証ライン。
◇
すべてが――
一斉に停止する。
◇
「……何?」
男の声が、初めて揺れた。
◇
「遮断しました」
◇
「集中した流れだけを残して」
「それ以外を、すべて切った」
◇
「そんなこと……」
◇
「できます」
◇
なぜなら。
◇
「“見えている”からです」
◇
沈黙。
◇
次の瞬間。
◇
外から、悲鳴のような報告が響く。
◇
「資金が……戻らない!」
「契約が機能していません!」
「市場が……!」
◇
崩れる。
◇
だが――
今度は逆だ。
◇
制御されていない側だけが、崩れる。
◇
「……返したのか」
男が、低く呟く。
◇
「ええ」
◇
「あなたが作った“流れ”を」
「そのまま、返しました」
◇
集中させ。
固定し。
そして――
断つ。
◇
同じ手法。
だが。
◇
(持続する側だけが残る)
◇
「……はは」
男が、小さく笑う。
◇
「やられたな」
◇
初めてだった。
余裕が、消えたのは。
◇
「君の勝ちだ」
◇
認めた。
完全に。
◇
「なぜ、分かるんですか」
俺は問う。
◇
「簡単だよ」
男は答える。
◇
「僕の構造は」
「今ので崩れた」
◇
「でも」
◇
視線が、こちらに向く。
◇
「君のは、残る」
◇
それが――
すべてだった。
◇
しばらくの沈黙。
◇
やがて。
男は、ゆっくりと背を向ける。
◇
「楽しかったよ」
◇
その言葉を最後に。
気配が消えた。
◇
残されたのは――
静寂。
◇
そして。
確かな手応え。
◇
エリシアが、小さく息を吐く。
「……終わった?」
◇
俺は、静かに頷く。
◇
すべてが。
ここで。
◇
終わる。
◇
「終わりです」




