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税は未来のために ― 崩壊国家を再構築する経済戦記 ―  作者: 南蛇井


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第5話:破綻寸前

 「……資金、完全に足りてませんね」


 その一言で、集会所の空気が凍りついた。


「足りて……ないって、どのくらいだ」


 誰かが絞り出すように聞く。


 俺は帳簿を指で叩いた。


「最低限の生活費と税を差し引いて、残るどころかマイナスです」


「そんな……」


「今月を乗り切る資金すら怪しい」


 沈黙。


 視線が泳ぐ。

 現実を理解したくない、という顔だ。


 だが、事実は変わらない。


「……どうすればいい」


 エリシアが低く問う。


 その声には、迷いはなかった。


 いいな。

 現実から逃げないタイプだ。


「やることは決まってます」


 俺は即答する。


「優先順位をつける」


「優先順位……?」


「全部は救えません」


 はっきりと言う。


 ざわ、と空気が揺れた。


「そんな……!」


「じゃあどうするんだよ!」


 声が上がる。


 当然だ。

 “全部守りたい”のが普通だ。


 だが――


「だから潰れるんですよ」


 俺は遮った。


 一瞬で静まる。


「限界があるのに、全部やろうとするから破綻する」


 机に広げた帳簿を指でなぞる。


「今、この村に必要なのは“生き残ること”です」


 視線を一人一人に向ける。


「そのために、切り捨てます」


 沈黙。


 誰も反論できない。


 いや、できないんじゃない。


 “正しい”と分かってしまったからだ。


「まず」


 俺は指を一本立てる。


「無駄な支出を全部止める」


「無駄って……どれだ」


「ほとんどです」


 即答した。


「外注してる修繕、全部高すぎる。自分たちでできるものは全部内製化」


「で、でも専門の職人じゃないと――」


「今はそんな余裕ないですよね?」


「……っ」


 言葉が詰まる。


「次」


 指を二本目に。


「買い取り価格が低すぎる商人との取引、即停止」


「えっ、それ止めたら売る先が――」


「ないなら作ればいい」


 さらっと言う。


「少なくとも“搾取される取引”を続ける理由はない」


 ざわめきが広がる。


 だが、否定の声は出ない。


「三つ目」


 最後の指を立てる。


「税の支払い、後回しにします」


 その瞬間、空気が張り詰めた。


「……それは、まずいだろ」


「領主に逆らうのか」


 当然の反応だ。


 だが俺は首を振る。


「逆らいません」


「じゃあ――」


「順番を変えるだけです」


 淡々と説明する。


「今のまま全部払ったら終わる。なら、生き残るための資金を先に確保する」


「……そんなの通るのか」


「通させます」


 言い切る。


「交渉すればいいだけです」


 しん、と静まり返る。


 誰もが、俺を見ている。


 最初の“よそ者を見る目”は、もうない。


 完全に――判断を委ねている目だ。


 ……いい。


 ここまで来れば、あとは速い。


「まとめます」


 俺は立ち上がった。


「無駄は全部切る。搾取される取引は止める。生き残るための資金を最優先に確保する」


 一歩前に出る。


「やるか、やらないか。それだけです」


 沈黙。


 そして。


「……やる」


 最初に声を出したのはエリシアだった。


 迷いはない。


「他に選択肢はない」


 その一言で、流れが決まる。


「……分かった」


「やるしかねぇか」


 村人たちも、次々と頷いた。


 覚悟が決まった顔だ。


 ――ようやくスタートラインに立ったな。


 俺は軽く息を吐く。


 だが。


 現実は甘くない。


 帳簿にもう一度目を落とす。


 数字は、冷静に答えを示していた。


 猶予はほとんどない。


 だから――


 最後に、はっきりと告げる。


「このままだと、今月で終わりです」

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